プロ野球選手との淡い恋45
エントランスに降りていくと、フロント係と女が何か言い合いをしている。
「いいから、通しなさいよ」
「申し訳ありません。ご希望に添えません」
光田は小走りに女に近づくと、捻りあげるように腕を掴んだ。
勢いでふらついた女は、その姿を見るなり、先程までの鬼の形相は消え失せて穏やかに微笑んだ。
「申し訳ありません」
光田はフロント係に頭を下げた。
「なんで悠也が謝るの?私を通さないなんて信じられない」
「僕が断ったんだ。いいから行くぞ」
菜々は光田に腕を引かれてエントランスを出た。
フロント係は二人の後ろ姿に静かに頭を下げた。
エントランスから出て、駐車場まで出た。
「何やってるんだよ」
語気を強めた光田の腕を振り払うように、菜々は手を離した。
「何って、会いに来たんじゃない。迷惑だった?」
「迷惑も何も、俺たちはもう別れてる。そうだろ?」
「そんなに怒らないでよ。それとも、新しい女の子を連れ込んでたから、邪魔されて悲しくなっちゃったかな」
「何を言って」
光田の言葉を遮り、菜々は鼻で笑う。
「その子は何が良かったの?一般人らしいじゃない。どっかの会社の社員だって、ネットに書いてあったわよ。どうやって悠也はたぶらかされたのかしら?色々、上手だったのかしら?」
「そんなことじゃない」
「私より、よかったの?」
首を振った光田は、はっきり言った。
「君と比べるとか、そんなことじゃない。僕が彼女を好きになっただけだ」
菜々はじっと光田を見つめながら、ヒステリックな声を上げた。
「何それ。許さない。許さないから。あんたのこと、めちゃくちゃにしてやる。その女も。絶対に許さない!」
菜々は拳を振り上げ、光田の頬に振り落とそうとした。
昔なら、光田はそのまま殴られていただろう。
菜々の心を休めるために。
けれど、光田は振り落とされたその手を握り止めた。
菜々の腕が怒りで震えている。
光田の掴んだ手も震えていた。
「菜々さん!」
駐車場に車を止めていた黒塗りの車から男が駆け寄ってきた。
菜々のマネージャーである江原だった。
慌てて光田の腕を払い、菜々に言い聞かせた。
「明日は映画の舞台挨拶です。腕にあざなんて作ったら、大変なことになります。帰りましょう」
「嫌よ!悠也を知らない女になんか、やらない」
そう言って、菜々は再び光田に殴りかかろうとしたから、慌てて江原が背後から押さえ込んだ。
暫く悶着していたが、疲れた菜々がその場に倒れ込んだ。
「あとは、こちらに任せて下さい」
江原はそう言うと、菜々を抱えて車に乗せ、駐車場から出て行った。
駐車場の柱の影で、記者の岸辺は写真を連写していた。
ただのケンカだったが、光田が菜々の腕を掴んだ辺りは、見方によっては親密にも見える。
どんな記事にしようか、岸辺は色々な話を考えていた。




