プロ野球選手との淡い恋46
光田が部屋に戻ると、靴がなく、スリッパが揃えられていた。
「そよちゃん?」
返事がない。静かだった。
テーブルがキレイに片付けられている。
よく見ると、一枚のメモ紙が置かれていた。
「素敵な時間をありがとうございました。今日は帰ります。勝手に台所を使ってごめんなさい」
台所に行くと、キレイに洗われて拭かれた皿が並んでいた。
光田はポケットから携帯を取り出した。
菜々と揉めているうちに、こんなに時間が経っていた。
電話をしてみるが、出なかった。
電車に乗っているから、出られないのか。
放っておいたから、嫌われたのか。
菜々が来たことに気づいたのだろうか。
色んなことを勘ぐり、光田はソファーに座り込むと窓の外に広がる夕焼けを見つめていた。
そよは光田が部屋を出て行き、閉じられた扉を見つめた。
あの慌て方は、何か大変なことがあるのだ。
理由を知りたかったが、聞けなかったそよは、ただ待つしかなかった。
暫くソファーに座って外を眺めていたが、光田が戻る様子はない。
ぼんやりして、理由が分からないことを心配しているならテーブルを片付けてしまおう。
光田のものか、ケータリングのお皿なのかよく分からなかったが、白い陶器の皿の縁には繊細な金の模様が彩られている。
触ると滑らかで艶めき、どの皿も器も同じ物で揃えられていた。
そよの家にある利便性だけを追求し、さらにはみんなバラバラでいつ買ったかも覚えてないような食器とは種類が違う。
「これは、割ったら弁償できないやつだ」
気をつけて台所へ運んでいかなければ。
そよに緊張が走った。
台所は台所と呼んでいいのか分からないような、ステンレスとオークでモダンな空間になっていた。
そよのアパートなら、茶の間より広い。
普段は料理はしないのか、やたらキレイ好きなのか、コーヒーメーカーくらいしかない。
けれど、おしゃれな台所の蛇口に輪ゴムが数本かかっていたり、すみにコンビニの未使用の割り箸が、輪ゴムで束にまとめられたりしていて、そよは少し安心した。
時計を見ると2時間が過ぎていた。
光田はまだ戻らない。
何か困ったことになっていなければ良いと思ったが、これだけ戻れないのだから大事に違いない。
自分がこのまま待っていても、戻った光田の負担になるかもしれない。
そよは、今日は帰ることに決めた。
家に戻ると、ちょうど光田から電話がきた。
まだ夕方で、今電話をしたら、光田は今から会いに来ると言いそうな気がした。
もう少ししてから、電話をしようと決めた。




