計画は加速する
方舟計画会議で決定された探査機、無人開発船の要求案は速かに専門家や企業を集めてより詳細に話し合われた。この話し合い関してもビデオ通話を通じて世界各国と合同で議論が交わされた。その分野を代表する科学者、研究者、さらにはNASAや国際宇宙ステーションに滞在する宇宙飛行士が参加し、担当者が次々に決まっていった。人類が経験したことのない未曾有の規模の計画を前に、世界の団結によって研究は恐るべき速度で進んでいくのだった。更に、話し合いに参加した企業は各々が最も得意とする製品や最新の製品の情報を全て共有し、急速に試作機を作り上げていくことになる。その中でも、最も早く試作機を準備したのは、大気圏内探査用小型無人機の開発チームであった。
「みなさん、本日は3つの試作機をご覧いただきます。この無人機は「ボール」という名前で、格納時はこのように三日月形のブレードと、その真ん中に駆動部であるモーター、センサー類のボックスのみの構成に見え、非常にシンプルな構造にみえますが、この様に展開させると・・」
プレゼンテーターがタブレットを操作すると、ブレードが展開し、瞬く間に球形のドローンが姿を現した。
「球形の無人機に変形します。限られた格納庫内に収められる、多くのドローンが必要であるとの事でしたのでこの様な変形機構を採用しました。球形である最大の利点は堅牢性です。ご覧の通り、球体を構成するフレームが動力部である上下のプロペラ部とセンサー類、カメラ類を保護します。更に動力部とフレーム部を繋ぐ骨組みはラダーやフラップの役割を兼ねており、これらの方向舵によってホバリングや自在な飛行、更には陸上を転がる様にも走行が可能となっています。重量は9kg、全長は格納時、全長一メートル、幅30cm。球形時は直径一メートルの完全球形。連続飛行可能時間3時間、動力は2次リチウムイオン電池。最新のカメラと赤外線センサー等によって蓄積したデータを映像処理等によって分析する事で地形、動植物などあらゆる調査が可能です。」
「二つ目にご紹介するのがこちらの無人機です。我々は「ペロッコ」と呼んでいます。キャタピラによってあらゆる地形を走行でき、衛星から得られた情報をもとに地質調査、鉱物調査を行い、本格的な開発のためにデータを蓄積します。さらに、様々なサンプル採取のために、機体側面に二本のマニピュレータが装備されています。このマニピュレータは簡易的な掘削ドリル、植物採取用のカッターとしても機能します。実験では直径60cmの樹木を切断し、露出した鉄鉱脈の50cmの掘削に成功しています。主なサンプル対象は、水、植物、土、露出した鉱石等を想定しています。」「最後にご紹介するこの機体は「オーカ・ニエーバ」と名付けました。小型飛行船です。格納時はこのように縦3m、幅2.2m、高さ2mの長方形の箱ですが、バルーンを展開するとあちらに見えますように全長20m、直径8mの飛行船として機能します。浮力はヘリウムガスによって得ており、推進動力は電動ファンモーター2機、電力はバルーン外面に敷き詰められた太陽光発電シートによって得ています。蓄電池には他の機種同様2次リチウムイオン電池が搭載されています。この機種に関しては6機を常時拠点付近に滞空させ、空気組成や、太陽光、気温、地形、動植物の調査を行いながら、各無人機と母船となる探査機本体との通信中継基地としての機能を付与しました。いかがでしょうか。」試験会場は試作機の完成度に驚愕し、開発チームには賛辞が向けられた。また、試験機の視察を行っていた面々はこれほどの完成度の試作機が僅か3ヶ月で完成したことに感嘆し、計画の成功を確信するのであった。
小型無人機の開発チームとほぼ同時期に、探査衛星開発チームは、天体到着後に分離し、衛星軌道上で調査し続ける探査機の開発の最終段階に入っていた。幸いな事に、既存の技術、設計を流用する事で要求されるほぼ全ての項目が達成可能であり、追加で要求された機能の搭載のみが懸念事項であった。その機能とはGPS衛星としての機能である。貨物室の制約上、衛星は一つしか運用できない。しかし、球形の天体で位置を特定するには複数の衛星が必要であった。それでも、開発チームは驚愕の発想でこの問題を解決する事に成功する。
「えー。問題のGPS衛星としての機能ですが、我々は、探査衛星から有線で繋がれた小型GPS通信装置を等間隔で軌道上に展開し、通信装置で受け取った信号を探査衛星で解析、GPS通信装置を介し、天体大気圏で滞空する飛行船「」を中継基地とし各ドローンの位置情報を特定する方式を提案します。この方式は、後に到着する有人開発船との連動も可能です。地球の軌道実験でも良好な結果が得られており、光通信ケーブルの採用で位置情報取得にかかる時間の短縮も実現しました。」このプレゼンによって探査機のすべての仕様が決定し、探査機の開発は急ピッチで進められた。
探査衛星、無人開発機の開発は順調であったが、その母船の開発に問題があった。双方を載せる母機として、既存のスペースシャトルの設計に三点の変更点を加える事が目標とされたが、思うように開発は進まなかったのである。その三点とは、①エンジンを核融合エンジンに交換すること②核融合エンジンから推力を得るためのスラスターを機体各所に装備すること③燃料の減少に伴い貨物室の体積を増加させる機構の搭載。②、③についてはそれほど難しい目標ではなく、近く実証実験が行われる事になっていた。しかし、肝心の核融合エンジンの開発が一向に進展しないのだ。現状、核融合炉は直径30m高さ7mの大きさである。スペースシャトルに搭載するために、半分程度の大きさにすることが要求されているが、開発チームにその道筋が全く見えてこないのだ。フランスの核融合施設ITERの職員はもちろんのこと、全世界から核技術、レーザー技術、磁力の最高権威が集められたが、それでもなお開発は難しかった。
しかしついに、アメリカの磁力技術研究の権威、ノイマンjケネディが解決の糸口を見つける。「現在実用化されている核融合炉を小型化するにあたって、最大の障壁は高温を発するプラズマに耐えられる素材が無いということです。そのため、強力な磁場を発生させ真空空間にプラズマを閉じ込める事でなんとか核融合反応を維持することがてきているわけですが、更に強力な磁場を発生させ、核融合炉内壁との距離を更に開かせる事によって内壁を構成する素材を保護します。更に、現在利用している液体金属二層流冷却に用いている金属の一つをより低流速の液体Liに変更し、冷却機能を更に強化します。強力な磁場を発生させるためには更に大電力を必要とします。よって、方舟計画に仕様する船の核融合エンジンは、既存の核融合発電施設の隣で製造します。核融合炉から得られる膨大なエネルギーを利用し、発生させる磁場を強化、更に核融合反応を起こすレーザーの出力を上げることができます。以上の改良を施す事によって要求されているサイズまで小型化が可能でしょう。」
この提案は正式に採用され、種子島のすぐ近くにある馬毛島に新型核融合エンジン製造施設が建造されることとなった。
後この新型核融合エンジン製造施設は、後に建造される有人開発船のエンジンも開発する事となる。




