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方舟  作者: ゆめゆめゆめみ
第1章
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外交


辞職後3日が経ち、小林はアメリカにいた。方舟計画を成功させるためにはアメリカ、EU、中国、ロシア、インドの協力が必要不可欠である。中でもアメリカは最重要の相手だ。世界第一の経済大国であり、技術大国であるアメリカは宇宙予算だけで約5兆円。そして、なんといってもNASAがある。宇宙といえばこのNASAを真っ先に思い浮かべる人もいるだろう。そんな世界最大の宇宙大国の計画参加を交渉すべく、杉浦総理、国際宇宙開発部の20名と小林、JAXAから岡部と立川が交渉に参加していた。


「それにしても、小林君が英語を話せるなんて知らんかった。」さゆりが顔全体で驚きを表現しつつ語りかけてくる。

「映画好きやから、何百本も見てたら話せる様になってん。」小林が事もなさげに返事を返す。


会話が途切れた時、大統領執務室への入室が交渉団に許された。そう、ここはホワイトハウス。アメリカ合衆国大統領と直接交渉を行うために、杉浦総理が手を尽くし、この場を設けたのである。


「こんにちはベンジャミン大統領。こんなに早く再会でき、大変嬉しく思っています。また、突然の会談要請にお答え頂きありがとうございます。」

国を代表するこの二人は、一月前に貿易に関する協議のため京都で会談を行ったばかりだった。


「私と貴方の仲じゃありませんか。滅多に会えない友との再会はいつでも歓迎ですよ。今回はたまたま運良くすぐに再会できたがね。ハッハッハ。ところで・・君から火急の要件とは珍しい。あの忌々しいコロナウイルスショックで世界的経済危機が起こった時以来の事だろう?」


「はい。今日はあの経済危機よりも遥かに重要な要件で伺いました。それも人類の行く末を左右する様なお話しです。詳しくはこちらの小林君からお話し致します。・・小林君話したまえ。」

小林はアメリカ合衆国大統領の前に進み出た。

「お会いできて光栄です。ベンジャミン大統領。貴重なお時間を頂いておりますので、早速本題をお話しします。

我々日本は、アメリカ合衆国に対し、方舟計画への参加を要請します。」

小林は、はっきりとした口調で続ける。

「方舟計画とは、2045年までに有人の惑星移民船を打ち上げ、その後、人類に第二の地球をもたらす、という計画です。この計画にはアメリカだけではなく地球上全ての国の協力が必要です。今後、我々は全ての国と交渉を行いますが、1番の友であるアメリカを最初の交渉国に選びました。我々と共に各国と交渉してくれる国はアメリカしか無いとそう判断したためです。」

「大統領、今こそ団結の時なのです。核融合が実用化し、人類のエネルギー問題は解決の糸口を見つけました。この瞬間であれば人類は団結する事ができる。そう私は信じています。どうかお力をお貸しください。」


ベンジャミン大統領は深いため息をつき、小林にこう告げた。「驚くべき計画だ。しかし、日本はどの様にして世界を説得するつもりなのかね。どれ程の金が必要になるか見当もつかんが、途方もない額だろう?」

「はい。正確には我々も把握できていませんが、過去の事例を鑑みて計算した所、約300兆円必要であると試算されています。恐らくもっとかかるでしょう。」「300兆円!?我々の国家予算並ではないか!」

「はい。確かに莫大な額です。しかし、失礼を承知で申し上げますが、その程度の額なのです。人類の飛躍は合衆国の国家予算さえあれば実現可能なのです。だからこそ、人類が団結すれば実現する計画であると我々は信じているんです。」


その後、岡部、立川らが大統領に計画の技術的な整合性を説明した。会談に立ち会ったアメリカの政府要人達の反応は、時が経つにつれ真剣味が増し、時折質問を交え、岡部らが話し終えると会談に臨んだ全ての人間が深妙な面持ちになっていた。


「よく分かった。計画の整合性も理解した。ハァ。君たちの熱意には負けたよ。合衆国はこの計画を全面的に支持し、計画の参加を約束しよう。」


こうして、日本はアメリカという強大な計画賛同者を得る事ができた。


この日の夜、ベンジャミン大統領ら政府高官から夕食会へ招かれ、小林らは五つ星ホテルで豪華な料理に舌鼓を打っていた。


「正直に言って、君たちはクレイジーだと思ったよミスター小林。だってそうだろう?一光年も離れた場所に移民するなんて。それも15年かそこらで打ち上げだ!でも話を聞いて、大統領も、私達もその気にさせられた。必ず成功させよう!!」

アンダーセン上院議員。ベンジャミン政権の重鎮である彼は、興奮した様子で話し続ける。

「私はね。子供の頃宇宙飛行士になりたかったんだ。この計画を成功させれば、思ってもみなかった形で、それも最高な形で宇宙に携わる事ができる。君達には感謝しているよ。」

「アンダーセン上院議員、まだ感謝して頂くには早すぎますよ。確かに、計画にとって非常に重要な合衆国という味方を得ましたが、我々は歩み出したばかりなのです。」

小林は思わず微笑みながら、こう返した。

「そうだね。決して弛まず、我々の計画のため最後まで戦い抜こう。そう。これは我々人類にとっての戦争だ!明るい未来を勝ち取るためのね。」アンダーセンは小林達にニッコリと微笑みかけた。


こうして、和やかに会食は終え、小林らの方舟計画外交は順調に動き出したのである。アメリカ訪問は始まりに過ぎず、彼らは翌日から、EU、ロシア、インド、中国の順に1ヶ月の時間を費やし、外交交渉の結果、主要な宇宙大国から計画への賛同を得た。


日本が最初に口説き落とした四つの国と、EU、日本だけで世界の宇宙に関する殆どの研究者と関連企業が計画に参加する事となった。この段階で、インターネットを通じ、テレビ会議によって方舟計画の様々な課題が話し合われた。

余談ではあるが、日本のある企業が開発した多言語同時通訳機がこれらの会議では大きな成果を発揮し、会議の円滑な進行を後押しする事になった。


「それでは、方舟計画会議を始める。今日集まってもらったのは方舟計画成功のために全体として何が必要か議論するためだ。

探査機による調査が完了次第、開発チームが天体に向かうが、開発チームの補給に問題が生じる。10年の航行中開発チームがどれだけの物資が必要か、検討しなければならない。

また、搭乗員の寿命の問題もある。開発チームが地球を出発して、天体に到着し、開発を開始。その後移民の第一陣を迎え入れる。この間に少なく見積もって30,40年はかかるだろう。これをどうにか縮めたい。それも可能な限り短く。そこで皆にアイデアを聞きたい。自由に発言してくれ。」


この会議には勿論小林も参加していたが、会議の議長は岡部が務めた。

様々な意見が出る中、ここで核心を突く意見が飛び出す。


「あのー。無人機による先行開発を行うというのはどうでしょうか。有人開発チームが到着する前に、比較的簡単な開発を無人機に任せる事で、開発チームが到着後、速やかにミッションを開始することができます。ミッション全体で考えると相当時間を節約できるはずです。」「なるほど。確かに良い案だ。しかし、無人機でどこまで開発ができるものか・・」

「無人機の発達は目を見張るものがあります。すでに物流、軍事、農業、製造業といった様々な分野で無人機が活躍しています。これらの応用で必ずミッションは成功するでしょう。

差しあたっては、移民に必要な項目を洗い出し、そこから初期に必要な物をさらにピックアップして、無人機で開発可能なものを導き出す工程が必要です。」


このアイデアは「無人先行開発計画」と称され、方舟計画の成功に深く寄与する事になる。


「君はたしかNASA研究員のハンスだったね。それじゃあ君がチーフとして無人開発機の開発担当チームを早急に立ち上げ、項目の策定を開始してくれ。もし君からチーフに推薦する者がいるならこの場で発言してくれ。」

ハンスは同僚達を見回す。彼の同僚は頑張れ!と小さく彼を励ました。

「・・分かりました。私がチーフとしてチームを率います。」

「ありがとうハンス。チームメンバーは会議終了後、明日までに選定してくれ。会議終了後、全ての国の研究者、技術者のファイルを送る。」


この計画に参加した国には、計画遂行上やむおえない場合、無期限の協力義務が発生していた。つまり、チームに選ばれれば、アジアだろうが、アフリカだろうが、アメリカだろうが、いずれの場所であったとしてもチームに参加し、全力を尽くさなければならなかったのだ。


更に議論は進む。「物資についてですが、補給物資を先に打ち上げておく、というのはどうでしょうか。核融合エンジンの燃料はトリチウムです。ペレット状の燃料、そして食料、水などを補給船に載せます。そして有人開発船の打ち上げのはるか以前にマスドライバーから射出します。その後はエンジン、スイングバイによって加速。

後から打ち上げられた開発船の補給地点を予め計算しておけば、開発船と補給船の速度を同調することによって、開発船の速度を落とす事なく、補給が可能となる訳です。いかがでしょうか。」

「確かに論理的だ。この方法なら、補給点を計算しておけば、理論的には必要な、どの地点でも補給可能となる。」


その後も議論は続いたが、これ以上の成果は上がらず、その日の会議は終了した。

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