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方舟  作者: ゆめゆめゆめみ
第2章
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岐路


キギス等の航行スケジュール修正決定から一年が経ち、管制センターでは職員が慌ただしく作業を行なっていた。もう間も無く、ブラックホールによるスイングバイを行った探査船達からデータが送られてくるのだ。地球から遥か彼方を航行する探査船との通信は当然ながら時差が生じる。更に、高重力のブラックホールの影響圏外に到達しなければ探査船からの信号も、こちらからの信号も届かない。このもどかしい時間を管制センターの職員、いや、計画に参加する全ての人々が落ち着かずに過ごしている。


「あと20秒で通信回復します。」通信管制官が緊張した面持ちで報告を上げた。


しかし、1分経っても探査船からの信号は届かない。


「どうなっておるのかね!なぜ信号がこない!まさか失敗したのか!!」


運営委員会のメンバーが画面越しに怒鳴り散らす。


すると小林がすかさずなだめる。


「麻生さん。落ち着いてください。探査船は宇宙の遥か彼方にいるんですよ。ちょっとくらいの遅れは当然想定される事ですよ。」


そんな周りの喧騒をよそに岡部は航行管制官に探査船の現在位置を問うた。


「スケジュール通りであればブラックホールの干渉域を抜け、この辺りを航行しているはずです。通信は可能なはずなんですが・・。」


「ふーむ。通信衛星を広域受信モードに切り替えてくれ。何かの拍子に探査船の送信電波が逸れてしまったのかもしれない。」


「了解。広域受信モードに切り替えます。」

通信管制官が衛星を操作する。通信衛星の姿勢が制御される。


管制センター内ではこの事態の原因を特定すべく職員が慌ただしく作業を行なっていた、そんな時だった。


「あっ!!微弱ながら信号を探知!」


「よし!絶対に逃すな!信号を掴み続けろ!」


「はい!信号を捕捉。受信感度を最大に保ちます。」


「こちらからも誘導電波を出せ。もしかしたら地球の位置を見失っているのかもしれない。最大出力で誘導!」


「了解!」


この推論は当たっていた。誘導電波を出し暫くすると、探査船から正常な強度の信号が帰ってきた。


「信号受信!間違いありません。キギスからです。・・・現在座標・・スケジュール通り。スイングバイは成功です!!」


歓声と拍手が爆発した。打ち上げ以来の重要な局面を見事にやり切ったのだ。


「報告を続けてくれ。」

満面の笑みと共に岡部が通信管制官の肩を叩く。


「はい!・・自己診断プログラムの診断結果・・・機体に損傷なし。各種センサー異常無し。現在光速の31%、燃料残量異常無し。」


「よし、いいぞ!ひとまずは安心だな。通信障害の原因を突き止めろ。今後この様な事があってはならんからな。」


分析の結果、キギスの姿勢制御パラメーターに僅かな誤差が発見された。想定範囲内の誤差であったため、キギス側で姿勢制御の修正が十分で無かったのだ。そのため信号送信座標が僅かにズレてしまい、今回の通信障害が発生した。この不具合の調整作業が完了した頃、通信管制官が報告を上げる。


「キギスからの映像データ受信しました。メインモニターに表示します。」


送られてきた映像データは、スイングバイ航行中のキギスの船外映像だ。全員が食い入る様にモニターを凝視する。

壮絶な光景だった。ガス状の物質や小さな岩、果ては直径800mはあろうかという小惑星等、無数の物体がブラックホールに飲み込まれていく。言うまでもなく、ブラックホールを間近にとらえた世界初の貴重な映像であった。残念ながら、強力な加速により映像は一時不良となり、回復したのはキギスがブラックホールの影響圏を離脱するほんの少し前の事だった。


この日、ブラックホールによるスイングバイ成功という偉業を成し遂げたキギスは全世界に向けて映像配信をスタートした。搭載されたカメラの映像が24時間公開されるのだ。この配信をきっかけに、宇宙に興味を抱き、宇宙関連の職業に就きたい学生が世界中で増加するのはまだ少し先の話である。


更に吉報は続く。キギスのスイングバイ成功の2日後にはアメリカとEUが管理する探査船のペア、インドとロシアの管理するペアがブラックホールによるスイングバイを成功させた。そしてその次の日にはインドと日本が管理する探査船のペアもスイングバイを成功させる。連日の偉業達成に世界中が沸き立ち、その楽観的な雰囲気に後を押され、世界の株価が大きく値を上げる事となった。


一方、中国とロシアが管理する探査船のペア、長征10号とソユーズ8号はキギスと同じ危機を迎えていた。それどころか、寧ろこのペアの方が絶望的な状況であった。スイングバイ対象のブラックホールの重力が20%も大きかったのだ。この誤差は強すぎる重力によって、正確な数値をセンサーで捉えきる事が出来なかった事が原因である、と後の調査で判明する。そして、中国とロシアは苦渋の決断を下す。探査船はそのまま目標の天体へ、核融合エンジンの推力のみで向かい、調査のみを行う事としたのだ。そして開発船に関しては、一番近いキギスが向かった天体へと向かうことを決断した。核融合エンジンの推力では相当な時間がかかるが、人類の未来のために少しでも貢献するべく、二国は決断した。この事実は世界各国にすぐさま公表され、世界がその事実に落胆の声を上げた。中でも大きな悲しみに包まれたのは、勿論中国とロシアの人々であった。悲しみに暮れる二国の人々であったが、予想外の声が世界各国から届けられる。自国の利益を追い求めず、人類全ての利益のための選択を取った両国に対し、惜しみない感謝とその英断を讃える声が届けられたのだ。


多くの国が宇宙開発に関する実績を手にする中、決定的な成果を得られていない国があった。それが中国である。ロシアと共に管理する船はスイングバイを断念する事となった。世界からは称賛の声が届いたが、政治家からすればそんなものは何の腹の足しにもならない。実績が欲しかった。


しかし不幸は続く。中国とEUが管理する探査船のペア、長征11号とピカソがスイングバイに失敗したのだ。最後に送信されたデータから、シャトルの推力偏向ノズルが動作不良を起こし、機体のコントロールを失った事が原因であると特定された。


不幸の連鎖は止まらない。7組目のペア、アメリカの探査船トーマスがブラックホール目前でスペースデブリと衝突し、通信が途絶えたのだ。これを受け、日本の開発船サクラは急遽目的地を変更。ロシアのソユーズ8号と同じく、キギスが向かう天体へ進路を変更する。この決定には理由があった。最も早くブラックホールによるスイングバイを成功させたキギスから届けられたデータにより、天体に水が存在する事がほぼ確定となったためだ。


方舟計画全体の進捗状況において、3分の一程度が終了し、5つの天体へ向け探査船を向かわせる事が出来た。一方、開発船は4つの天体へ向け航行中である。このため、人類が移民先として選択し得る天体はこの四つに絞られた。現時点で移民先として最有力候補になる天体はキギスが向かう天体である。


世界は方舟計画関連のニュースに一喜一憂し、続報を待ちわびた。計画通りに進めば、最も先行する探査船のペアであるキギスとメイフラワーが目標に到達するまで後3年である。

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