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方舟  作者: ゆめゆめゆめみ
第2章
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改革と危機

小林は猛り狂っていた。


「意味のない大学は潰すべきです!経済学部を卒業したのにマクロ経済、ミクロ経済も分からない様な人間を輩出している大学に何の意味があるんですか?他の学部だって同じだ。本来、大学は専門的な研究を行う、学問の追求の場であるはず。それなのに大学を出た殆どの者が出身の学部とは露程も関係のない分野に進む。これは視野が広いが故の選択ではない。企業が多様性を求めているからでは無い。何の専門性も持たない者が大多数だからだ。何も学んでこなかった者しかいないからだ。これでは優秀な人材は生まれない!我々は今後若くて優秀な人材が山ほど必要になる!学ぶ意欲のない者に学ばせる必要など無い。大学入学後の学習指導要領をより専門性の高い物へと変えるべきです!」


この日、方舟計画の乗組員選定にあたり、国家戦略として最低100名の参加者を目標とする日本は、教育の改革が議論されていた。その会議の中での小林の発言は出席した多くの大学教授の胸を打った。さながら、就職の準備機関として利用されている教育機関の現状に多くの学者はやるせない感情を抱いていたのである。


この会議の後、大学のカリキュラムは大きく改訂され、その分野において、ある水準を満たせない者は進級、卒業ができない制度となった。

この結果、将来の日本において、日本人の大学進学率は大きく低下する事となった。大学卒業生の多くは高い専門性を持ち、日本の技術力の発展に大きく寄与する事となる。

この改革の影響で、教育の世界では大きな変化が起こっていた。多彩な求人需要を満たすべく、様々な専門学校が立て続けに開設されたのだ。これによって救育に棲み分けが生まれ、学問を追求する者、自分のやりたい職業につく者、それぞれがより良い道を選ぶ事が可能となったのだ。


更に、大卒者の数が大きく減少する事によって企業の採用活動にも変化が見られるようになる。先述の専門学校卒業者に加えて、高卒者の採用も活発に行われる様になった。元来、日本型の就労形態では個人の学力は仕事において尊重されず、協調性や、コミュニケーション能力等が評価の対象とされてきた。これらの能力は学力に依存せず、高卒者でも何の問題も無く就労できる事は大卒者が減った日本で顕著に示されてきたのである。


この様にして日本の雇用における人手不足は改善の兆しが見えてきた。そして、小林らが望んだ様に各分野において、世界を代表する様な研究者が日本から多く輩出され、晴れて方舟計画の乗員名簿には、112名の日本人が名を連ねる事となったのだ。


しかし、この結果がもたらされるのは改革開始から8年後の事である。勿論、この8年の間に方舟計画は大きく前進していた。


探査船打ち上げから5年が経過したこの日、探査船1号の「キギス」から重要なデータが地球にもたらされた。このデータを確認した分析官は驚愕の事実に慄き、すぐさま統括リーダーである岡部を呼び出した。


深夜に呼び出された岡部は寝巻き姿で管制室に現れた。この時間にも関わらず、管制室には多くの職員が集まっていた。何処からか問題の発生を聞きつけ集まったのだ。岡部は落ち着いて分析官に尋ねる。


「問題とは何かね。」


「・・はい。先程、キギスから最新のデータが送られてきました。このデータからすると、ブラックホールの重力が我々の予測した数値よりも13%も大きいのです。」


「キギスの報告したデータが正しいとすると、探査船はブラックホールの重力を突破できず、スイングバイに失敗します。計画は・・失敗です。」


管制センターに悲痛な沈黙が広がった。探査船と開発船の航行スケジュールは綿密な計算により決定されている。このスケジュールを支えているのがブラックホールによるスイングバイなのだ。理論上、ブラックホールの重力によって、二隻は光速の34%まで加速し、地球出発から数えて9年で目標の天体に到達する。しかし、仮にブラックホールによるスイングバイができないとなると単純計算で到着まで30年の時間を要する。無人探査のみを目的とすれば問題の無い年月であるが、人間にとっては許容できない時間である。方舟計画が移民対象となる天体を、地球からの距離が1.5光年以内にある物と定めたのも、まさしく、宇宙航行が人体に与える影響を危惧しての事だった。


キギスをはじめとする探査船、開発船に搭載されている核融合エンジンが叩き出す速度は、最終的には毎秒1万kmである。これまでの常識では考えられない恐ろしい程の速度だが、瞬間的にその推力が得られるわけでは無い。断続的な核融合反応を起こしながら徐々にこの速度に達するのだ。


ブラックホールによるスイングバイを行うには一時的にブラックホールの重力に打ち勝つだけの推力が必要となる。よって、探査船等の開発チームは観測されているデータを綿密に分析し、核融合エンジンが必要な推力を割り出した。目標の天体へのコースと、ブラックホールに引き寄せられる事によって発生する増加速度、そし核融合エンジンの推力。すべてが適切な時、適切な値でなければならないのだ。開発チームが想定していた重力誤差は+7%まで。


しかし、推定のブラックホールの重力が想定よりも大きかったため、加速できたとしてもブラックホールの影響から逃れられずそのまま飲み込まれてしまう。


計画は破綻の危機を迎えていた。

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