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終末のダンジョン  作者: .犬
終わりの始まり。
33/35

呪い、そして決着


 戦況はどちらにも偏らない均衡だったが、徐々にノアスとエリィの攻撃パターンを読み、対処し始めた階層主に勢いが向いていた。

 時に間一髪の一撃を避け、時に庇い合ってノアスとエリィはかなりの体力を消耗していた。

「このままじゃ、まずいね。階層主の居場所がわかっても攻撃が当たらない。暗闇に強いんだね。あいつ」


 岩陰に隠れているエリィがボソッと言う。


「……光か。確かにいくらエリィが居場所を掴めていても当たらなきゃ意味が無いか。なあ、エリィ。魔術で俺のエレメンタルを増強出来ないか?」

「増強は無理だけど。保管は出来るかも。多分」

「保管か……よし、俺の雷のエレメンタルを使って光源を作ろう。どれだけ明るくなるかは判らないけどやって見る価値はあるよな。出来るか?」

「うん。けどそんな術式組んだことないから少し時間かかるかも。それだけの時間をあの階層主から生み出せるか……」


 背後でノアスたちを探すために喉を鳴らしている階層主。奴から多大な殺意が溢れており、少しでも気を抜くと殺されてしまう気がする。


「俺が時間を稼ぐ」

「そんなの無理だよ。正確な場所判らないんでしょ? 約束したじゃん。独りで戦わないって」

「独りで自殺行為をする訳じゃない。お前を信じて俺は戦うんだ。任せとけ、策はある。だからお前も俺を信じろ」


 ノアスは誰かの真似をしてニコッと笑う。


「……わかったよ。でも、無理だと思ったらすぐにこの岩陰に来てね。死んじゃったら何も残らないから」

「ああ。もちろん」


 そう言ってノアスは岩陰を飛び出た。


 ノアスの走る音に耳を傾け薄く笑う階層主。

 ノアスは耳を澄ませて極力エリィから距離を取った。

 大きな咆哮を吐き散らす階層主はノアスめがけて距離を詰めてきた。


「――!?」


 階層主は闇に隠れながら拳をノアスに振るう。


「グッ!!!」


 何かが割れる音と共にノアスの肩に穴が開く。肩は黒赤色の液体が外の世界に流れ、体内から激痛という形で悲鳴が上がる。

 階層主は獲物に手ごたえを感じて薄く笑い、大きく距離を取った。


「ハァア。くそ。覚えてるか。少し前にお前に牙を剥いたモグラをッ!」


 階層主は歯をカチカチ鳴らして、ノアスを挑発するように笑った。


「まあいい。今日でそれも終わらせてやる。雷王の――」


 直後、ノアスが仕掛けて来る事を悟った階層主は闇の中に姿を消そうとしたが、


「――!?」


 視界が真っ白に光って階層主の背中に痛みが走る。そして階層主は地面に打ちのめされた。

 階層主は状況が理解出来ず酷く動揺した。けれどたまたま的中した偶然だと思い、再び闇に逃げようとするが、


「逃がすかッ。雷王の双撃!!」


ノアスの雷撃は避けられたものの階層主の姿が見えているかのように正確に雷撃は階層主を捉えていた。

 しかし正確な攻撃を繰り返すノアスには階層主の姿は見えていなかった。

 ただ、ノアスは自らのエレメンタルの気配を追って攻撃をしている。

 リスクはあったがどうやらノアスの策は成功したようだ。賭け要素であったが、氷のエレメンタルを階層主に付着させるため、わざと攻撃を受けたノアス。

 おかげで何とか一撃をお見舞することに成功する。

 しかしあくまで咄嗟に思いついた策。そう長くは続かない。

 階層主は自分の身体の一部に氷が付いてることに気付き、階層主に一連の出来事の答えを教えることになる。

 ノアスが雷撃を放とうとするが、既に階層主から氷のエレメンタルの気配は消えていた。


「――ック!!」


 階層主は氷を払った後、足の筋肉を利用してノアスに突進した。

 ノアスは唇から吐き出た血を腕で拭って階層主の次の一撃に備える。そんな時だ――


「ノアス君。準備出来た」


 闇の中から聴こえた希望の声にノアスは笑みを零す。


 岩陰に隠れてエリィは自分の思考をフルで活用する。今まで(つちか)った魔術の基礎と経験。それらを頭の中に連想させて使った事の無い術式を練る。

 魔術は人知の到達点と呼ばれるほど基礎を初め一つ一つの術式はかなりの難易度であり、それを発動させるにも複雑な術式のバランスや、相性を考えなければならない。

 それをエリィは咄嗟のアドリブで完成させようとした。

 常識で考えれば無謀だ。エリィの圧倒的才能があってもかなりの困難を強いられるだろう。けれどやるしかない。それをしなければ勝利は無いし、何も状況は変わらない。

 岩陰の奥でノアスの雷撃と苦しむ声が聴こえてくる。

 早くしなきゃと焦る気持ちがあるが、それをグッと堪えるエリィ。やがてエリィは一つの術式を完成させて、ノアスの名を叫んだ。

 ノアスは光を見つけたように表情を明るくし、エリィの方に走って来る。

 何かを悟った階層主は背後からノアスに向けて突進をして来たがエリィは指示を出す。そのおかげでギリギリ避けたノアスと合流する。


「魔術・八十一式魔術陣 混色の式」


 エリィが唱えるとエリィの足元に大きな魔術陣が出来た。そしてそれは分裂するかのように小さな魔術陣が洞窟のあちらこちらに点々と現れる。


「ノアス君。足元の魔術陣に残したいエレメンタルを撃って」


 ノアスは雷の力を右手に集中させて魔術陣に撃ちこむ。そのタイミングを見計らってエリィがブツブツと詠唱する。やがてノアスが注いだ魔術陣に丸い雷の球体が生まれ、分裂していった魔術陣一つ一つにも雷で出来た球体が現れる。


「とっさに作った割には中々上手く行ったかな。親部分の術式に保管したい物を入れて、それをわたしが具現化させて分裂した子たちに共有する」

「流石」

「そんなことないよ。さあ、戦おう。もう光はある」


 ノアスとエリィは光差す洞窟に目をやる。

 点々と光が差す中、その真ん中に立つ


――一人の人間。


 ノアスとエリィは静かに立つ一人の人間に意識を集中させる。

 目の前に立つ人間は突然現れた光に身体を丸めて光を否定していた。やがて目が慣れたのか、顔を隠していた腕を払って、ノアスとエリィを睨みつけた。


「人間……?」

「じゃないだろ。多分」


 生糸のように真っ白な身体に真っ白な(まなこ)。身長、体格共にノアスと何ら変わらない。衣類は身に着けておらず、まるで絵画のように幻想的な容姿をしていた。その白さは

モグラの最後の姿である灰の色に酷く似ていた。


「ガ、ガ、ガ、ガ」


 小さな口を震わせて何かを発しているが二人には理解出来ない。

 目の前の敵が今まで培ってきた常識内の敵とはあまりにもかけ離れていた為、ノアスとエリィはしばらく言葉を失った。


「人間に酷使してる階層主か」

「ねえ、ノアス君。あれ見て!」


 エリィが何かに気付いて指を指す。

 真っ白な胸元にはエメラルド色の鉱石のようなモノが無理やり埋まっていた。


「あれが、欠片か」


二人は確信した。あれこそが求める『治癒の欠片』だと。どんな病も一度だけ治すことが出来る万能な欠片。それは呪いすらも解けるかも知れないという希望でもあった。


「行くぞ。エリィ。ラストスパートだ」

「うん」


 二人は交差するように階層主めがけて走り出す。

 ノアスが雷撃を放ち、階層主がそれを腕で吹き飛ばす。すかさず階層主が殺意の拳を繰り出すがそれをエリィが受け止めた。

エリィの魔術に最善な動きで避けた階層主。それを阻止しようと動くが、返り討ちに合うノアス。

三人は洞窟の中央で息を呑む接戦を繰り広げていた。一瞬たりとも油断は出来ない。張り詰める緊張感が切れた方が負ける。

死を背後に戦うモグラと階層主。


「エリィ!」


 ノアスとエリィが目を合わせて頷き合う。

それに合わせて階層主が、咆哮を掲げ二人に突進する。


「二人の仇だァアアアア!!!!」」

「雷王の双撃!!」

「魔術・二十一式魔術陣・破邪の光!!」


 二人の技が融合する。

 光の槍が階層主の身体を刺して身動きを止め、胸に一直線に走る雷撃。


「ブオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォオオオオオオオオオオ!!!!!」


 階層主が叫んだ咆哮は、殺意ではなく苦しみの叫びであった。

 腹部に大きな穴を開けた階層主はゆっくりと膝をついて倒れて行く。


「終わった……」


 ノアスが目を見開き、荒い呼吸で呟いた。


「わたしたち……勝ったんだ」

 エリィもまた、信じられないと言わんばかりの表情を浮かべる。

 ノアスは倒れる階層主に手を差し出してエメラルド色の欠片を手に入れた。


「これが欠片」

「本当にあったんだ。ねえノアス君。この欠片さ、自分の為に使って。わたしはいいから」

「そんな訳には行かない……とりあえず戻ろうか。あんまり長居はよくないだろう」

「そうだね」


 ノアスは欠片を袋に入れてエリィと共にこの場を後にする――


「……ノアス君。危ないッ!!」


 歩くノアスの横でエリィが何かに気付いて声を荒げて叫んだ。

 エリィによって地面に倒れ込むノアス。死線を宙に合わせると黒い灰が飛んで来ていた。


「なんだ……これ」


 ノアスは倒れる階層主に目をやる。その姿は既に灰となり消えていた。


「あいつの最後の足掻きって訳か。すまないエリィ。助かった――」


 ノアスがエリィに顔を向けるとエリィはうつ伏せで倒れていた。エリィの身体には黒い斑が点々と現れている。


「エリィ。おいッエリィ!!」


 明らかに状態がおかしいエリィ。ノアスは声を荒げてエリィを摩る。


「……ぅう」


 エリィは酷く汗を掻いて苦しんでいる。


「俺はまた……また守られちまったのか」

ノアスは唇を噛みしめて自分の不甲斐なさを痛感する。

けれどそんな事に時間を使っている場合じゃない。今はエリィの容態が重要だ。

ノアスはエリィを抱えようと肩に触れる。


「!?」


 エリィの肩に触れると薄っすらと灰がノアスの手に付いた。


「エリィの身体が灰になってる!?」


 ノアスは苦しむエリィを抱えてダンジョンを駆けた。




恐らく後二話で一章完結でございます。

よろしければ、ご指摘、評価、感想、ブクマ等、よろしくお願いいたします(^^♪

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