誰かの為に
「おいッ居るか。ジョイ・ジョイ!!」
ノアスは迷うことなく一人の家を訪ねた。
「な、なんだ!」
「ちょっと、騒がしいわよ」
そこには家主のジョイ・ジョイとたまたま居合わせていたリーリスが。
「あんた無事だったのね。エリィは――!?」
「エリィたそ!? おい、なにがあったノアス」
ノアスと同じように二人はエリィの容態を見て酷く動揺した。けれどそれ以上にノアスは冷静ではなかった。
ノアスは何から説明するか整理がつかず、とにかく口を開いて言葉を二人に送る。
「ちょっと、落ち着きなさい! あんたしか状況が判らないんだから!」
リーリスが声を張ってノアスを叱る。そのおかげか僅からながらノアスは我を取り戻す。
ノアスは一度深呼吸を挟み、十五階層で起きた事を話した。
ジョイ・ジョイが切羽詰まった顔でベッドにエリィを寝かせて額に触れる。それからノアスでは理解出来ない本を片手にページをめくる。
「ダメだ。容態が判らねぇ。くそッタレ!」
「あんた。欠片は? それを使えば」
リーリスの言葉にノアスは言葉を詰める。
「これは……使えない」
「は?」
「俺はあいつの呪いを解いてやりたいんだ。その為にも……」
エリィの顔が浮かぶ。自分の呪いを解いて見える初めての外の世界。それを楽しそうに話す彼女の姿がノアスの脳裏に鮮明に映る。
「そんな事言ってる場合じゃねぇだろ! このままだとエリィたそが死ぬんだぞ。分かってんのか!?」
ジョイ・ジョイが壁をぶん殴って鬼の形相でノアスを睨みつける。
一方リーリスは眉を顰めて伺うようにノアスに問う。
「何か考えがあっての発言よね?」
「ああ」ノアスは頷く。「あいつは言った。俺の絶望には負けないって。もし、これも俺の呪いのせいだというのなら責任は俺が取る」ノアスは欠片をリーリスに渡す。
「……?」
「前にあいつと話した。五階層のどこかに幻の水がある。欠片程じゃないけど凄い効果があるって。それを取りに行く」
「待って。あくまであれは幻よ? どこに存在するかも分からないのよ?」
「ああ。けど探す。探して見せる。俺はまた助けられちまった。これで何度目かもわからない。だから今度は俺が助けたいんだ。今まで自分の為に行動して来た。けど、今は違う。俺は自分を救ってくれた人たちを救いたい。けど、エリィの容態が悪化するようだったら、その欠片を使って助けてやって欲しい。俺もバカじゃない。欠片と命どっちが大切か考えなくても判る。ジョイ・ジョイ。約束したよな。死ぬ気で守るって。だからよ、帰ってくるまでエリィを頼む」
ノアスは真剣な眼差しでジョイ・ジョイとリーリスを見つめる。
「わかったわよ。とにかく急ぎなさい。時間は待ってくれないわよ」
「早くしろよ」
「エリィを宜しく頼む」
エリィ。少しだけ待っててくれ。すぐに戻る。
五階層。エリィの素材集め以来ノアスは潜った。
噂によると幻の水は五階層のどこかにある湖の事を指しているという。未だ見つけた者は存在せず、文字通り幻と化している。
けれど名前が存在するということは遥か昔に誰かが見つけたはずだ。例え微々たる可能性でもノアスはエリィのために諦めない。
しばらく歩いたノアスは一つの異変に気が付く。
それは無数の鳴き声であった。
「この鳴き声は……」
ノアスは壁に耳を当てた。どうやらこの壁の向こうで鳴き声が聞こえているようだ。ノアスはエレメンタルを放って壁を破壊する。
「なんだよ、これ……」
ノアスは目を疑った。そこは一本の通路になっており、その通路には無数のモンスターがぎゅうぎゅう詰めになっていた。
「七階層から降りてきたのは、蛙だけじゃなかったのか」
以前七階層から五階層に魔物が紛れたと聞いた。そこでノアスは蛙の魔物を討伐したがどうやらそれだけじゃ無かったようだ。
七階層は繁殖能力が高い魔物が多い。きっと紛れた奴から増殖したのだろう。そしてここまでの魔物が集まるという事はその奥に集まる原因があるという事。。
「エリィ。今助けるよ」
ノアスは両手にエレメンタルを宿して今、エリィの為魔物の群れに立ち向かう。
※
気づくと視線は斜め上にある時計に行ってしまう。けれど時計の針は遅くなるはずもなく刻一刻と針は進んでいく。
リーリスは苦しみながら眠るエリィの傍らに座り、膝を揺すっていた。ジョイ・ジョイは廊下を右往左往して玄関に視線を置いていた。
「ねえ、ジョイ・ジョイ! エリィの容態が……」
「なにッ!?」
ジョイ・ジョイがエリィの元に駆け寄る。エリィは悪夢にうなされているみたくとても辛そうだ。それだけじゃない。徐々に身体の一部が灰に変化しつつあった。
「もう待てない。欠片を使うぞ。エリィたそが死んだら何もかも終わりだ」
「……そうね」
リーリスは複雑そうな表情で答える。
リーリスがノアスから受け取った欠片を持って願い事を口にしようとした時だ。
「待て!」
扉は勢いよく開かれる。
「「ノアス!」」二人は開かれた扉に顔を向けた「どうしたのその傷!?」
ノアスは二人の言葉を聞いてる余裕はなく、ボロボロの身体を引きずりながら急ぎ足でエリィの元に駆け寄った。
「エリィ。死ぬなよ。今助けるからな」
額から垂れる血をものともせずノアスは幻の水が入った瓶を開け、中の水をエリィの唇に一滴垂らす。
エリィの様子を伺うように三人は無言になり、しばらくの沈黙が流れる。
「……ぅう」
「「「エリィ!!!」」」
エリィの表情は徐々に安らかになって行き、やがて意識が宿った。
エリィは仮面をつけたまま起き上がり、
「わたしは……あれ、ここって」
「エリィ!!!」
起き上がったエリィにノアスは思わず抱き着いた。心をくすぐる様なこの感情はやがてノアスの瞳を濡らす。
エリィは驚きの表情を浮かべたもののノアスの背中を摩って、
「何となくわかってたよ。言ったでしょ、ノアス君。君の絶望には負けないって。ありがとう助けてくれて」
エリィはノアスの背中を撫でてとても優しい言葉贈った。そんなエリィがとても愛おしくてノアスはただ抱きしめた。
次回、一章最終回です。
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