2
一晩空けて、宿の中で私たちは途方にくれていた。
実質あと一日半しかない。どうやって商船に乗ったらいいのだろう。
船に一歩でも入り込んでしまえば大丈夫だと彼は言う。けれど、それが難しいわけで。
入り江に停まる船を取り囲むようにしている兵、もしくは警察たち。
その目を掻い潜って忍び込む事は不可能に近い。
ならばどうやって行ったらいいのだろう。
いっそ彼の身分を明かしてみる? それも国際問題に発展しかねないから出来たら避けたい手段だと彼は言う。
ではどうしたらいいのだろう。
やっぱり変装しかないのかも。
「ってわけだから、女装しようよ」
ベッドに腰掛けて考え込む彼に声を掛けると、静かに首を横に振る。
「問題はそれでは解決しないよ」
前のめりになっていた彼が身体を伸ばすように、両手を後ろ手にしてベッドに着いて天を仰ぐ。
「妙案ってのはなかなか浮かばないものだな」
苦笑いを浮かべつつ呟く彼に、私は何も返す言葉が無い。
こんな時どうしたらいいかなんて、正直なところわからない。
船の周囲は警備が厳しくて近づけない。このままじゃ乗れない。
それで私の思考は止まってしまう。
役に立たない自分が歯がゆくてしょうがない。彼の為に何かをしたいと思うのに。結局思い切って髪を切って見たものの、それも何の役に立っているんだか。
とりあえず昨日は職務質問されるような事が無かったから、目くらまし位にはなっているのかもしれないけれど。
しばらくしてカップに入れたお茶を手渡すと、彼が再び背筋を伸ばして座りなおす。
「変装したところで、船に近付くための正当な理由が無ければ通れないだろう。どんな理由なら疑われないかを考えているんだが」
「つまり?」
「早い話、生半可な理由付けでは船に近付くことも難しい。この国の船じゃないわけだから、旅客を装うっていうのも不可能だ。元々商船だしな」
言いつつ彼がカップをこちらに手渡す。
受け取るとひょいひょいと彼が手招きをするので、カップをサイドテーブルに置いて座る彼の傍に立つ。
彼の手が私の短くなった髪の毛に伸びる。
纏めなくてもよくなったからか、くしゃくしゃっと子供の頭を撫でるように彼が頭を撫でる。
「商人、乗員、それとも……お前は何が良いと思う?」
ピタリと手を止め、彼が私の目をじーっと見る。
その視線が真っ直ぐすぎて、思わず目を逸らして窓の外を見る。
空はまだ薄明るく、日の出までは少し早い時間だ。
「違和感無く船に乗る理由。うーん」
どんな理由なら捕まらずに通り抜けられるだろう。
誰ならば関門を通れるんだろう。
「一番不自然じゃないのって、乗組員?」
思いつかないから疑問系になってしまう。
彼は私の質問を笑い飛ばしたりもしないし、馬鹿にしたりもしない。優しい目で私のことを見る。
だけれど、それが対等じゃないんだって言われているような気がしてもどかしい。
「そうだね。一番は乗務員だな。じゃあ他には何があると思う」
精一杯頭を捻る。
「あとは商船って事だから、積荷を載せるんだよね。だから何か荷物を載せに行く商人とか?」
再び疑問系。
だって本当にそんな答えであっているかもわからないんだもの。それに、彼は本当にこんな答えを望んでいるとも思えない。
「そうだよな」
溜息交じりに彼が言う。
「俺もそれくらいしか浮かばない。普段あまり仕事してなかった罰だな。意表をつくような考えってのはなかなか浮かばないものだな」
珍しく品のない様子でバリバリと頭を掻き毟り、彼が溜息をつく。
「もう少し自分で考える癖をつけておくべきだったな。全く今の俺は能無しだ」
「どうして?」
考えるより先に疑問が口を吐いて出た。
「ああ、俺はというよりも俺たち上に立つ人間ってのは、細々とした事を考える事は無いんだ。誰か他の人間に考えさせて、その中から一番良いものを選べば良いからね」
「うん。だから能無しなの?」
「そ。俺に必要なのはどれが一番良い策かを選びとる能力であって、一から考える事じゃないんだ。だからこうやって何かを生み出さなくてはいけない時には、俺って役立たずだなって思ったんだ」
そういって苦笑いを浮かべる彼の頭を、彼がいつも私にするようにポンポンと撫でる。
「上に立つ人っていうのは、皆そんな風に思うのかな。他者が思うような素晴らしい能力も知性も品性も持っていないのに、それらを求められる歯がゆさとか」
私にされるままになっている彼が小首を傾げる。
「それはお前の実感? それとも誰かから聞いた話?」
「両方かな。出来る事はほんの少しでしかないのに、それ以上を求め続けられるのは苦しいよね」
優しい瞳が私を包み込む。
その目を見ていたら、言わなくても良いことを言いたくなってきた。閉塞感でいっぱいに見える彼を助けたいと思って。
「いざとなったら奥の手があるから、大丈夫だよ」
「奥の手?」
首を傾げた彼の瞳が曇る。
「うん。一度だけなら助けてくれるって言ってた。本当に困ったら大声で呼べって」
「それって、もしかしなくても……お前の神様の事言ってる?」
訝しげな彼の顔を見て頷く。
神様、それは彼と私の住まう国で神と崇められし二頭の竜。
「本当に一度しか助けてくれないだろうから、本当に本当に奥の手だよ。そもそもここから声なんて届くのかな」
国も違うし、物理的にも大分距離が離れているけれど、本当に声が届くのかな。声が届けば本当に助けてくれそうな気はするけれど。
頭を抱えて彼が盛大に溜息をつく。
もっと早く言えば良かったかな。そのくらい困っていたのかな。
「そんな事したら、お前が隠したい事全部バレるだろ。阿呆」
思いっきり眉を寄せた険しい顔で、彼の両手が私の両頬を包み込み。
「隠し通したいんだろう? 確かに俺は無力だし無知かもしれないが、お前の秘密、俺に守らせろよ」
「……うん」
けど、隠し玉を使っても良いと思うくらい、何か役に立ちたかったんだもの。
彼と私の秘密を天秤にかけた時、大切なのは彼のほうだよ。
例えば私の隠し通したい事が周知の事実になったとしても、彼ならきっと私のこと守ってくれると思うんだ。そう思えるから、彼の為になら秘密を曝け出しても良い。
だけどそんな事、彼は求めていないのね。
「じゃあ女装しようよ」
「アホかっ。そこに拘るな。そこに」
「だって見てみたいんだもの」
ふっと彼が鼻で笑う。
「似合いすぎてお前がショック受けるだろうから却下。俺が美人じゃないわけないだろ」
「うわー。自意識過剰。ヤな感じ」
「ヤな感じ言うな。事実をありのままに述べたまでだ」
ということは……。
「したことあるんだ。女装」
彼の冷ややかな視線が突き刺さるけど、別に怖くなんか無い。
もしも彼の事を知らない人だったらドキっとするくらい冷たい目だけれど。
「で、すごーく美人に化けて、女の人に間違われる位だったのね。それで嫌な思いの一つや二つしたから、したくないのね?」
「図星を突くな、的確に」
こほんと咳払いをしたかと思うと、彼の瞳の温度が上がる。
「城の外で遊ぶのにさ、色々試したんだ。変装の類はね。女装もしてみたことがある。以上だ」
それ以上は言いたくないってことね。
「それで行き着いたのが、いつもの格好ってこと?」
「ああ」
「貴族風というか、良いところのお坊ちゃま風というか」
「どうにも俺の漂う気品は隠そうとしても隠せないみたいだからな」
自分で言うか。
思わずそう突っ込みたかったけれど、やめてみた。
確かに下手に庶民を装おうとしても無理だろう。なんだろう、雰囲気かな。
「薄汚い格好してみてもダメ?」
「ああ。ダメらしい」
「薄汚さが足りないんじゃなくて?」
「……お前、一体俺にどんな格好させようとしてるんだ」
「別に、何も考えてないよ。どうせそれなりの身分の人たちの中で考えた庶民のような格好なんだろうから、本当の庶民の私が考えるのとは違いそうだなって思っただけ」
腕組みをして彼がうーんと唸り声を上げる。
「だからといって仮に変装が上手くいったところで、船に乗る口実が無ければダメだろ」
そして始めに戻る。
本当にどうしたらいいんだろう。
本気で思い悩んでいるのに、彼は結構飄々とした表情でいる。
暢気に空を眺めている姿を見る限り、本気で悩んでいるとは思えない。
「まあ、なんとかなるよ」
あっさりと結論を出したかのような顔をして立ち上がり、カーテンを開けて窓の外を見る。
「今日のところはまだ誰にもマークされてないみたいだし」
シュっと音を立ててカーテンを閉じ、大あくびをして伸びをする。
全く持って彼に緊張感を感じないんだけれど。
一応私たち、逃亡者なのよね?
「今日は何をしようか。あと少ししかこの国にいられないから、名産品も食べてみたいし特産品を色々見てみたいと思ってるんだけれど」
「本気で観光するの?」
「するよ。何で?」
何でって……。
「私たち、追われてるんでしょ」
「ああ。そうだね」
「そうだねって。そんな暢気にしてていいの?」
クスっと彼が笑う。何か面白い事言ったつもりないのに。
「そんなに本気で逃げ回らなくても大丈夫だよ。あいつらが本気だったら、もうとっくに捕まってるだろうしね」
「え?」
「いくらバカ男でも、本気で国際問題起こす気なんてないよ。ちょっと腹いせに嫌がらせしている程度だよ。逮捕されて国を出られないなんて事は無いから平気だよ」
嘘。じゃあ何で昨日あんなに必死に逃げ回ってたの?
どうして本気じゃないにしても、公権力が私たちを追い回しているの? それも嫌がらせで。
もう王族同士のいがみ合いって全然意味がわからない。
他人も思いっきり巻き込んでるのに、嫌がらせ程度って。私にはそんな軽いものには思えなかったよ。
「正攻法で行くのは簡単だけれど、どうせなら裏かいて吠え面かかせたくない?」
ニヤリと彼が笑うけれど、とてもとても同意する気持ちにはなれず。脱力感でいっぱいだよ。
頭を抱え込みたい気分だったけれど、抱え込むより先に溜息が零れた。
「吠え面とかどうでもいい。普通に平穏に過ごしたいのっ」
フンと彼が鼻で笑う。
「今更平穏とか言う? ぜーんぜん俺たちの日常、平穏なんかじゃないと思うけど」
「そこ、わざわざ突っ込むところじゃないでしょ」
睨み付けて言うけれど、何が楽しいのか彼は声を上げて笑う。
なんかカチンとくるなあ。
「じゃあ女装」
「何でそれが女装に繋がるんだよ」
「吠え面かかせたいんでしょ。それならやっぱり変装じゃインパクト無いから女装」
はーっと今度は彼が溜息をつく。
「そんなのバレた時の事考えろ。俺が一生笑いものになるじゃないか」
自分基準ですか。そうですか。そうですよね。
だってカイを持つ者で、王になる可能性がある人なんだもんね。仮に他国で女装してましたなんて風聞が流れたら、格好悪いとかってレベルじゃない問題になるもんね。
それはわかってるんだけれどさ。
「大丈夫。その辺りは吟遊詩人が上手い脚色をしてくれるよ」
「……いらん。そもそも、そんな詩を詠われたくない」
「ほら、今のところ一曲も詠われたこと無いんだし、伝説作っときなよ」
彼の視線が痛くなってきた。そろそろ引き時かな。
「それは冗談として」
「冗談かよっ」
珍しく彼としては派手なリアクションをして崩れ落ちる。
頭を抱えて崩れ落ちる様は、まるでコメディ役者のようだった。案外そっちでもいけるかもよ? 王子様廃業して。
「で、お前は何をしたいんだ? 俺をからかって楽しんでるだけじゃないんだろう」
「そんなに私は優秀じゃないよ」
一応断りを入れておく。どうも買いかぶられている気がしないでもないんだよね。別に裏も無ければ表も無い。ただ思いついたことを言っているだけだもの。
「ただ怒ってるって事を伝えておこうと思っただけ」
「怒ってる?」
彼が驚いたような顔で私のことを見る。あれ、全然伝わってなかったのかな。
「だって本気でどうしようどうしようって考えてたのに、あっさり何とかなるとか嫌がらせって言われても。真剣に考えてた私がバカみたいじゃない」
うんと頷くだけで、彼はそれ以上何も言わない。
「それならそうと、最初に言ってよ。それだったらわざわざ……なんでもない」
言おうとしてやめる。
それは彼のせいじゃない。自分で決めてやった事だもの。
彼の指が頬から髪へと伸びる。
「髪を切らなかった?」
サラサラと彼の指が髪を触れて、そして頬を撫でる。
うんって言ったらいけない気がして、黙って彼の指先だけを見つめる。
「あの時は怒ったけどね。本当は嬉しかったよ。それだけ必死に考えてくれたんだなって思って」
視線を彼の方へと向けると、彼が目を細める。
「でもお前が髪を切ったおかげで、ゆっくりと休息も取れたし、多分今日ものんびり過ごせるよ。ありがとう」
「そんな風に言われたら」
「ん?」
「ずるい」
彼がクスっと笑う。
「また口、尖らせてる」
言われて口元を見ようと下を見てみるけれど、当然のように自分の口なんて見えない。
くくくっと彼が笑うのを堪えるようにして、でも笑みが溢れてしまったといった様子で笑い声をあげる。
「間抜け」
手を上げて彼のほうに拳を向けると、手のひらで受け止められてしまう。
むー。なんか先手先手をいかれてる気がする。
「なんか悔しい」
「悔しがれ悔しがれ。どうせ、俺はお前には敵わないんだから」
「どういう意味?」
「秘密。この話はこれでオシマイ。それよりメシでも食いにいこう」
それ以上は何も話してくれず、結局何がなんだかよくわからないまま色々な事があやふやになってしまった。
絶対私が彼の手のひらで踊らされていると思うんだけどな。
なんか納得いかない。
外に出てきょろきょろと周りを見回すけれど、早い時間だからなのか、それとも本当に本気で捕らえる気が無いのか揃いの制服の一団の姿は無い。
「本当にいないね」
「だろ?」
彼が真っ直ぐに目の前に手を伸ばすので、その手に手を重ねて繋ぐ。
ぐいっと手を引っ張る彼についていく為に小走りで歩いて横に並ぶと、彼が私の肩を抱く。
「もうきっと外じゃこんな事出来ない。普通に街の中を並んで歩く事も、食事をする事も、買い物をする事も。もう一度船に乗ってしまったら、俺は仮面を被らなきゃいけない。制約も増える」
足を止めようともせず、彼はどこか目的地があるのかのごとく迷わず歩き続ける。
「不自由な思いをさせるし、人の目ばかりのところで生活する事になる。おおっぴらにこうやって手を繋ぐことなんてもう出来ない」
「うん。そうだよね」
彼との生活。
それは私が幼い頃に思い描いた王子様の生活とは、大きく異なるものだろう。
傅かれ、額づかれ、他者が常に介在する生活。
自分で何か出来る事よりも、指先が綺麗に整えられている事や、より優美に見せる動作を心がける事のほうが大切な生活。
きっと彼と私の間にも、たくさんの人たちが介在する事になるんだろう。
顔が見たいって思っても、すぐには会えなかったりするかもしれない。
彼の手を握り返し、とびっきりの笑顔で彼を見上げる。
「何する? 残された時間はそんなに無いよ」
「デートしようぜ、デート」
そう言って笑う彼に腕を絡ませ、昨日までは灰色に見えていた街を闊歩する。
髪を切ったせいなのか、たまにすれ違う揃いの制服の一団もこちらには目を向けない。まるで指名手配者だと気付かれない。
こんな時間が過ごせるなら、髪を切ったのも間違いじゃなかったわ。これだけで、髪を伸ばす数年分の価値はありそうじゃない。
「デートと言えば、ウィンドーショッピングに食事でしょ。それとゆっくり色んな事を話し合えたら十分じゃない?」
「……なんか、普通だな」
拍子抜けした彼がおかしくて、笑みが漏れる。
「普通じゃないデートってどんなデート?」
「うーん。そう言われても浮かばないな。例えば旅行に行ったりとか?」
「今してるじゃない。だから後はこの時間を楽しめばいいんでしょう。ちょっと場当たり的で、現実逃避しすぎな気もするけれど」
鼻で笑って、彼が眉をひそめる。
「それを言うな」
それでも彼は楽しそうにしている。悲壮感なんてどこにも無い。
そんな彼を見ていたら、本当に何とかなりそうな気がしてくるのが不思議。
こうやって雑踏の中でも思うのだけれど、他の人と比べると、彼は何もしていないのに「空気を作る」感じがする。
周りを巻き込んで、彼の世界観が広がっていくような。
影響力があるっていう言い方が当てはまるのかな。そんな感じ。
本当に何も解決していないけれど、今はその空気に乗っかってみるのもいいかなと思えてくる。
暢気にそんな事を考えていると、急に横の路地に腕を引っ張られる。
ぎゅっと彼に抱きしめられ、何が起こったのかわからない。
「どうしたの」
大通りを見つめる彼の目が険しい。もしかして追われているのが私たちだってばれたかしら。
腕の中から覗き見ようとすると、彼に頭を押し込まれる。
何が起きているのか見るくらい良いじゃないと思ったけれど、何も言わずに従う。
彼は何度と無くに私に「守る」と言う。
こういう関係になる前からそうで、庇護者になるとか力になるとか、言い方は違うけれど「守る」事で愛情を示そうとしてくれているんだと思う。
それに甘えて良いのかな。
甘えるだけの女じゃ相手にもしてもらえ無そうだけれど、たまに甘える分には良いよね。
彼に頭を預け、全身を委ねてしまうと、彼がぎゅっと背中に回す腕に力を籠める。
本当にそれだけの事なのに、なんだかすごく居心地が良い。
今まで、こんな風に守られるっていう感覚を堪能した事なんて無い。
いつも自分の力で足を踏みしめ、唇を噛み締めて堪えていた。いいんだ、こうやって甘えても。
目を閉じて、とくんとくんと規則正しく音を立てる彼の鼓動に耳を傾ける。
安心感と充足感で満たされていく。
しばらくそうやっていると、彼の体との間に空間が生まれる。
「何があったの」
問いかけると彼が私に微笑みかける。
切羽詰った状況というのとは、どうやら違うらしい。
そうしたら何で、こんな路地に逃げ込むように隠れたんだろう。
「あっち、見てみ」
指差された方を見ると、見慣れた揃いの制服とはまた違った一団が街の中を歩いているのが見える。
「何あれ」
「多分、例の連中とはまた違った組織だな」
「というと、どっちかが軍で、もう一方が警察っていう事?」
「それともう一つは、どちらも同じ組織で下っ端と上役という見方も出来る。これなら俺らは何もしなくとも事態は解決できるかもしれないぞ」
一気にそこまで話が飛躍するのがわからない。
どうしてそんな風に思えるんだろう。
彼の脳内は私にはさっぱり読み取る事が出来ない。
とりあえず逃亡生活はあと1日半で終わりそうだからいいのかな?
彼の腕の中に納まったまま一団を見ていると、その中の一人と視線が合う。
するとその人が誰かを手招きして、こちらを指差す。
「やばっ」
え?
「逃げるぞっ」
ちょっと、言ってること全然違うじゃない。やっぱり私たち、逃亡者なままなのー!?
嘘つきと彼に大声で抗議したかったけど、そんな事している場合じゃない。とっとと逃げなきゃ。