第九話 ──里の事件──
「リンクには私と一緒に里帰りしてほしいのよ」
真剣な顔のソレイユ。
(それって……つまり彼氏を親に紹介するってやつ?
……いやいや、そういう意味じゃねぇよな?)
ローランドは慌ててリンクの顔を見た。
わかっているのかいないのか、
リンクはじっとソレイユの目を見ている。
祝ってやりたいのに、ローランドは寂しげに顔を曇らせた。
リンクは小さく息を吸い、
「それで、僕はどうしたらいい?」
ぼそりと答える。
(“どうしたらいい”じゃねぇよ……そこは親御さんに頭下げんだろ)
ソレイユは椅子の背にもたれ、腕を組んだ。
「そうね、まずは里長を中心に、エルフに化けてる奴がいないか見極めてほしいの」
「は?」
ローランドが間抜けな声を上げた。
ソレイユとリンクが同時にローランドを見る。
「“は?”じゃないわよ。なんであんたが答えるのよ」
「あ、いやいや……なんつーか、話が見えねぇな~って」
ローランドは頭をかきながら、困ったように笑っている。
ソレイユはため息をつき、少し声を落として話し始めた。
ここ最近、エルフの里で起きている事件のことだった。
「だから、うちの里も安心してられないのよ。
誰の仕業かわかんないけど……家族は絶対に守りたいの」
「ってことは、ソレイユって里長の子なのか?」
リンクは目を丸くした。
「なんだ? リン、知らなかったのかよ」
「そうね、ザックにしか話してなかったわね」
ソレイユはふっと斜め上を見た。
「だったら冒険者なんてやっていいのかよ?
ゆくゆくは里長になるんじゃ……」
「実は、私は里長の妹の子なの。
両親が亡くなって、……里長のところに預けられたのよ。
……本当の子じゃないわ。
それに里長には娘がいるし……」
意味ありげな間を挟んで、ソレイユがため息を吐いた。
「……私は、そういうのじゃないの」
瞳は、悲しい色をしていた。
「……なんかしんみりしちゃったわね。こういうの苦手だわ。
じゃあ明日ここを発ちましょ。朝9時にギルド前に集合ね」
そう言い残して、まるで別人のようにしおらしく店を出ていった。
なんとなく後味が悪い。
ローランドはわざと明るくリンクに話しかける。
「リン、ギルド行ってみるか?
エルフのこと、何かわかるかもしれねぇしよ」
「そうだね」
戸締りをして、二人はギルドへ向かった。
ギルドはいつもと変わらない風景。
受付のベルの音と、冒険者たちのざわめきが混じり合っていた。
掲示板には目ぼしい情報がなかったので、二人は受付へ足を向けた。
「よぉ、アリサちゃん。ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
ローランドはカウンターにもたれながら声を掛けた。
「こんにちは。二人揃って依頼ですか?」
「いや、今日はちょっと野暮用でな」
「そうなんですね。そろそろ21階層にでも行かれるのかなって思ったんですけど」
「そんな、俺たちが行っちまったら攻略しちまうじゃねぇか。なあリン」
リンクはわずかに眉を寄せた。
「ロウ、本題に入ってよ」
「ノリが悪いなぁ」
「本題って何ですか?」
アリサがニコニコしながら尋ねる。
「いやな、エルフの里が襲われてるって知ってっかなーと思って」
するとアリサは周囲を気にするように腰を屈め、内緒話の姿勢になった。
眉をひそめ、小声で話し出す。
「ここだけの話ですよ。
なんだか殺人鬼が出てるみたいで……。
エルフの里は国に所属してないから、騎士さんたちも動けてないみたいです」
ローランドは訝しげに眉を寄せた。
「ギルドのエルフの子も、心配で里に帰っちゃって……。
薬師のエルフさんも店を閉めてるんです」
「もしかして……サンディーちゃんも?」
ローランドが絶望的な顔をする。
肩ががっくりと落ちた。
「サンディーって?」
リンクがローランドの顔を覗き込むように尋ねる。
「この街で一番高い女」
その瞬間、リンクの拳がローランドの脇腹にめり込んだ。
ローランドが悶絶している横で、リンクがアリサに何かわかっていることはないか尋ねた。
しかし、ソレイユから聞いた以上の情報は得られなかった。
ギルドを出ても、リンクの眉間はずっと険しいままだった。
ローランドは横で、ただ黙って頭を下げ続けていた。




