第八話 ──秘密──
三人は鑑定用のテーブルに腰を下ろした。
背もたれに体を預けながら、ローランドが切り出す。
「ソレイユちゃんだっけか? いきなりリンを貸してほしいって、どういう話だよ」
「わたし的には、あんたにも出てってほしいんだけど」
ソレイユはわざとらしくため息をつき、頬杖をついた。
「リンク、なんでこんなの連れて行かないといけないわけ?
それにカラスって何よ。ダッサ」
いわれのない攻撃に、ローランドはタジタジになる。
リンクは慌てて庇うように口を開いた。
「いや、今……一緒にパーティー組んでてさ」
「パーティーですって?
敵討ち終わったんなら、さっさとエターナルに戻ってきなさいよ!」
ソレイユはリンクの首元を掴み、ぐいっと引き寄せた。
「……そんな自分勝手なこと、できないよ」
「なに水臭いこと言ってんのよ。私たちの仲でしょ?」
ソレイユの声は甘さなどなく、むしろ呆れと苛立ちが混じっていた。
リンクは言葉を失い、視線を落とす。
「パーティーだって無理矢理組まされてるんじゃないの?
弱み握られたりとか。
……それか女を釣る道具にされてるとか、ね」
ソレイユの軽蔑の視線がローランドに突き刺さる。
ローランドは悟りを開いたような顔で、ただ黙っていた。
「そんなことないよ!
エターナルと同じで……居心地がいいんだ」
リンクが言うと、ローランドがふっと優しい顔になった。
その表情に気恥ずかしさを覚え、リンクは思わず目をそらす。
「……なによ、この空気。気に入らないわね」
「この空気ってなんだよ!
ソレイユも怒ってばっかいないで、取り敢えず挨拶しろよ」
珍しくリンクが叱ると、ソレイユは頬を膨らませた。
気まずさを和らげるように、ローランドが口を開く。
「女性から話させるのはよくないよな。
俺はローランド。リンクとパーティー組んでる。
パーティー名は“ブリンクノワール”だ。よろしくな」
差し出された手を、ソレイユは一瞥しただけで無視した。
「私はソレイユ。“エターナル”のメンバーよ。
リンクに話があるの。あんたは店主と一緒に奥にでも引っ込んでなさいよ」
「ソレイユ! いくらなんでも言い過ぎだ。
僕はロウと一緒じゃないと行かないからな!」
リンクが声を荒げると、ソレイユもローランドも驚いた顔をした。
「なによ、リンクまで……!
だいたい、この男はリンクのことどこまで知ってるのよ!」
その問いに、リンクは口を閉ざした。
ソレイユは深く息を吐き、静かに言った。
「私は、リンクにしかできないことをお願いしに来たのよ」
店内がしんと静まり返る。
「……俺、外そうか? リン」
ローランドが覗き込むように尋ねる。
「……いいよ。ここにいてよ。……話すから」
視線を合わせられないまま、リンクは答えた。
テーブルの上で組んだ手が、かすかに震えていた。
ローランドはその手をそっと包むように握った。
リンクは、ぽつりぽつりと話し始めた。
自分の鑑定スキルは、すべての物を鑑定できること。
人も例外ではないこと。
ステータスだけでなく、弱点や急所までわかること。
そして、そのせいで気味悪がられたこと。
話し終えると、リンクは大きく息を吐いた。
ソレイユは伏し目がちに苦い表情をしている。
少しの沈黙のあと、ローランドが口を開いた。
「すげぇ能力なんだな。
……でも、誰にも言わない方がいいかもな」
リンクの肩がびくりと震える。
顔を上げられない。
「だってよ、こんなおいしいスキル、バラす必要あるか?」
ローランドはわざと小声で、コソコソと話した。
その言葉に、リンクは泣きそうになった。
「なんとなく、そんな感じなんじゃねぇかな〜とは思ってたんだけどよ。
ほら、リンって魔物を一発で仕留めるし」
ローランドは自分のことのように嬉しそうに笑う。
「だから内緒にしようぜ。
まあ、二人だけの秘密ってわけにはいかなかったけどな」
ローランドは軽く笑って、ちらりとソレイユを見た。
「どうでもいいけど、いつまでリンクの手握ってんのよ! 放しなさいよ!」
ソレイユは乱暴にローランドの手を引き剥がした。
ローランドは引っかかれたのか、痛そうに手を振っている。
リンクは俯いたままだったが、耳が赤い。
「リン、心配すんな。ずっと傍にいてやるから」
ローランドの低い声が、やけに優しく響いた。
リンクは思わず顔を上げる。
一瞬だけ視線が重なる。
ローランドの瞳は、他の誰に向けるよりも柔らかかった。
ふいっと視線をそらしたローランドは、次の言葉を思いついたようにニヤリと笑った。
「……あ、でもソレイユちゃんとのデートの時は、さすがについてかないけどな」
「だから、そんなんじゃないって!」
リンクは顔を真っ赤にした。
「照れんな照れんな。ホント、リンはかわいいなぁ」
頬杖をつきながらローランドが言う。
「二人ともさ、私を忘れてないかしら?」
テーブルをバンバン叩きながら、ソレイユが怒りを爆発させた。




