第七話 ──修羅場の店──
「お!! リン!! お帰り!」
入ってきたリンクの姿を見るや否や、ローランドが笑顔で声を上げた。
鑑定用のテーブルの向こうで、座ったまま大きく手を振っている。
すると、リンクの後ろからソレイユがひょこっと顔を出した。
「あれ? さっきのエルフ。
……リンと一緒ってことは、もしかして……彼女だったりする?」
ローランドがなんとも言えない表情になる。
「違うよ!」
ムキになるリンクの腕にソレイユが絡みつき、目を細めた。
「あら、リンク。つれないわね。あんなに愛し合ったのに……」
「そんなの知らないよ! くっつくなよ!」
リンクは必死に腕を外そうとする。
だがソレイユはさらに胸を押し付け、顔を近づけた。
「私の裸見たのに?」
「…………」
リンクの動きがピタリと止まる。
「おい! リン! なんでそこは無言なんだよ!!」
ローランドが机に手をつき、ぐっと身を乗り出す。
口惜しさと羨ましさが混じった声だ。
リンクはなんとかソレイユを振り切ると、
ローランドの非難めいた視線を避けるように目をそらし、
気まずそうにカウンターへ向かった。
肩から下げたカバンを開け、領収書と鑑定代金を取り出してヨゼフに差し出す。
ヨゼフは「おう」とだけ言って受け取った。
リンクが何か言おうとした瞬間──
「ちょっとあんた!」
ソレイユがローランドに詰め寄り、机を叩いた。
「さっきからずっといるけど、用が済んだんならさっさと帰りなさいよ」
「え?」
ローランドはまさか自分が怒られるとは思っていなかったのか、
目をぱちぱちさせて困惑している。
「さては懲りもしないで、また女の客に声掛けてるわけ?」
「ちょ、ちょっと待ってくれよ」
「だいたいね!」
ソレイユが言いかけたその時、
カラン、とドアが開く音がした。
「邪魔するぞー」
呑気な声で入ってきたのはレイヴァンだった。
ローランドに噛みついているソレイユを見て、眉をひょいと上げる。
「お? なんだ? 修羅場か?」
振り返ったソレイユがレイヴァンを睨みつける。
「よぉ、リンク。モテモテだな」
棘のあるソレイユの視線を気にもせず、レイヴァンが大声で笑う。
リンクは「やめて、ほんとやめて」と言わんばかりに手を振り、
必死で火消しのジェスチャーをする。
その様子を見たソレイユの目が細くなった。
「リンク! どういうこと? 顔のいいのばっか侍らせてさ!
私だけじゃ物足りないわけ?」
ソレイユの怒りの矛先がリンクに向かった。
「ちょっと落ち着いてよ、ソレイユ! ほら、座って!」
リンクはへたくそな笑いを浮かべながら、
ソレイユを押し返して椅子に座らせようとする。
「落ち着いていられるわけないでしょ!
どういうことよ! 説明しなさいよ!」
「あー、うるせぇな。リンク、店番しとけよ」
片耳を塞ぎながら、ヨゼフがカウンターから離れようとした。
「ヨゼフ、待って! ちょっとこの子と話があるから店番は──」
リンクが慌てて呼び止めると、
ソレイユがその声に被せるように言った。
「……あなたがリンクの雇い主?
ちょうどいいわ! リンクをしばらくの間貸してほしいの」
ソレイユは勝ち誇ったように顎を上げ、
手にしていた金貨をカウンターに荒っぽく置いた。
リンクはその金貨を見て、顔を曇らせる。
(相変わらず阿漕な商売してるんだな……。何人犠牲になったんだ?
僕だってあの弓に大枚叩いたんだけど)
ヨゼフはしばらく金貨を見つめていたが──
「そんなでけぇ金、この辺で使えねぇだろ。要らねぇよ。勝手に連れてけ」
リンクは「えっ?」と目を丸くする。
「その代わり、カラスも連れてけよ。それが条件だ」
ヨゼフはローランドを指差した。
ローランドは片眉を上げ、
リンクは言葉を失い、
ソレイユはムスッとした。
「リンク、店番しといてくれ。もう客も来ねぇだろうし、一寝入りするからな」
ヨゼフは店の奥へ消えた。
どうやら、話は聞かずに場だけは残してくれるらしい。
「お、俺も出直してくるかな」
レイヴァンも空気を読んだのか、軽く手を上げて店を出ていった。
気まずい沈黙が三人を包んだ。
リンクは、小さくため息をついた。




