第六話 ──相変わらず──
「冒険って……みんなはどこ? なんで僕? っていうか、いつ来たんだよ?」
勢いよく抱きついてきたソレイユを無理やり引き剥がし、肩を掴んだ。
突然すぎて頭が追いつかない。
「もう、痛いって。リンク慌てすぎ。
……ほら、みんな見てるわよ」
ソレイユがニヤッと笑って、ちらっと視線を横に流す。
つられてそっちを見ると、
通り過ぎる人たちがくすくす笑いながらこちらを見ていた。
昼の大通りは人で溢れ、屋台の匂いと喧騒が混ざり合っている。
そんな中で抱きつかれたり、肩を掴んで顔を寄せたりしていたら、そりゃ注目される。
……恥ずかしい。
「と、とにかく歩きながら話そう」
ソレイユの手首を軽くつかみ、大通りの端へ引っ張った。
人の波から少し外れるだけで、だいぶ歩きやすくなる。
「じゃあさ、私の泊まってる宿に行きましょうよ」
「ダメだよ、まだ仕事中なんだ。店にこれも届けないといけないし」
肩から下げたカバンを少し開けて、中の集金袋をちらっと見せる。
「寄り道もダメ?」
ソレイユが可愛く覗き込んでくる。
大きなグリーンの瞳が近い。
お願いごとがあるときはいつもこれだ。
変わってないな。
「混んでるだろ? 時間がかかるからダメ」
そっけなく言うと、ソレイユの表情が一瞬で曇った。
「相変わらず、面白くないわね、リンクは」
ぷいっと怒ったように先へ歩き出す。
歩幅が大きいから、すぐに距離が開く。
大通りを抜ける角を曲がれば、もうヨゼフの店の通りだ。
慌ててソレイユを追いかける。
「そっちこそ相変わらず自分勝手だよな」
「なによ! リンクのくせに口答えするの?」
マズい。
ここで機嫌を損ねたら面倒なことになる。
しぶしぶ両手を上げた。
「わかった、わかったから怒るなよ。
とにかく一緒に店まで行こう。
仕事上がれるならすぐ話聞くからさ」
ソレイユは腕組みしたまま横を向き、目を閉じて動かない。
「ソレイユさん! 一緒に店まで来てください!」
深々とお辞儀して手を差し出す。
ソレイユがじっと見ている気配がする。
「最初からそうやって素直にお願いしてたらいいのよ」
手を取ってくるソレイユは満面の笑みだ。
いつものことながら、どっと疲れが押し寄せてきた。
店の看板がもう見えている。
あと数十歩で着くというのに、ソレイユは当然のように腕に絡みつき、身体を寄せたままだ。
通りすがりの人がジロジロとこちらを見てくる。
そりゃそうだ、こんなに密着されたら目立つよな。
「で、みんなはどこだよ」
それとなく身体を離して尋ねてみると、少し不機嫌になったソレイユがぽつりと答えた。
「カーンとエミュは新婚旅行に出かけたわ。ここへはザックと来たのよ」
「えーーーーーー!!! カーンとエミュ、結婚したのか?」
嘘だろ?
あの二人が?
「そうよ。
気付いてなかったの? あの二人、随分前から出来てたわよ」
「……え?」
なんかモヤモヤする。
置いてけぼり感って、こんな感じだっけ。
「ザ、ザックは知ってたのか?」
「当たり前じゃない。やっぱリンクは鈍いのね」
思わず足が止まった。
……僕だけ知らなかったんだ。
そんな……なんで誰も言ってくれないんだよ。
「そ、そいうや、ザックはどこだよ?」
「知らないわ。
ダンジョンマニアだから、マキマキシのマップにでもしゃぶりついてんじゃないの?」
あー、あり得るな。
ザックなら本当にやりそうだし……
「だから、今は……私ひとりなの」
ソレイユは潤んだ目でまた腕に絡みつくと、さらに身体を寄せてきた。
「そんなにくっつくなよ、暑いだろ」
「そんなことないわよ」
「重いよ」
「何が?」
「……何がって……」
ちらりと自分の腕を見る。
ソレイユの胸がしっかり乗っている。
「あー、今私のおっぱい見たでしょ?
いいのよ、触っても。リンクだけは特別だから♡」
さっきより、ひどい……
「あのなぁ……ほんと勘弁してくれよ」
うんざりしながら、ヨゼフの店の扉を開けた。




