第五話 ──冒険しよ?──
「はい、確かに受け取りましたよ。またよろしくね」
ギルドの職員がにこやかに領収書と鑑定代金を渡してきた。
置き忘れていた小箱の鑑定品は、よりによって一番高いやつだった。
どこかの偉い貴族様から預かった品だとか。
……ギルドもそんな大事なもん、街の鑑定屋に回すなよ。
ギルドを出たところで、ようやく息が整った。
「おーい! リンク!!」
遠くからでもわかる、あのバカみたいにデカい声。
マキマキシへ続く道の方で、腕をぶんぶん振ってる、がっしりした体格の男がいた。
レイヴァンだ。
ロウの昔馴染みで、今はこの街で冒険者をしている。
見た目は相変わらずでかくて、浅黒い肌に尖った耳。
短く刈り上げたこげ茶の髪を、獣みたいにガシガシ掻きながら近づいてくる。
肩幅が広くて、筋肉が服の上からでもわかる。
「なんだよお前、ギルドにお遣いか? ちっせぇ荷物持ってよ!」
いきなり頭をわしっと掴まれた。
痛い。普通に痛い。
「いっ……なにすんだよ! 鑑定品を届けに来ただけだよ」
「ほぉ〜、働いてんじゃねぇか。えらいえらい」
子ども扱いするみたいに、また頭をぐしゃぐしゃ撫でられる。
いい加減にしろよ……
「そういやロウはどうした?
……ああ、また振られたんだな?」
レイヴァンは腹を抱えて笑い出した。
振られたってなんだよ。
そこ、笑うところかよ。
嫌そうな顔をしてたのか、レイヴァンがぐっと屈んで覗き込んでくる。
近い。
ロウといい、こいつらは距離感がおかしい。
顔がいいから余計にムカつく。
「そんな顔すんなって。
じらしてばっかだと、アイツほんと拗ねるぞ?」
「じ、じらしてって……ロウが拗ねるわけないだろ!」
近づいたレイヴァンの手を思わず払いのける。
顔が熱くなるのが自分でもわかった。
「お、図星か? ははっ、かわいいなぁお前!」
肩をばんばん叩かれた。
痛い。ほんと痛い。
「報告終わったらよ、鑑定屋寄るからな! じゃあな!」
片手を上げながら、そのままギルドに突撃していった。
……もうなんなんだよ、暑苦しい。
ロウとは正反対のタイプだな。
ロウは見た目も雰囲気も優しくて落ち着いてる。
だけど、僕に対しては妙にしつこい。
ああいうところ、ずるいんだよ。
それにしても、鑑定屋に来るってことは、またダンジョンで何か拾ったのか。
ロウと違ってレイヴァンはちゃんと鑑定してもらいに来る。
用がなければ来ない。
それが普通だ。
ロウが、おかしいんだよ……
僕と一緒がいいって言うけど、同じ家に住んでるじゃん。
毎日顔合わせてるのに……何がそんなに不満なんだよ。
そんなことを考えているうちに、自然と大通りを歩いていた。
昼時だからか、どこもかしこも混んでいる。
焼き串の匂いが風に流れてきて、腹が鳴りそうになった。
何か買って帰ろうかな……と思ったけど、どの店も行列だ。
仕方ない。
鑑定代金も持ってるし、店にまっすぐ戻るか。
買い食いは諦めて歩き出した、その時。
「リンク〜!!」
今日はやけに呼び止められる日だな。
……え? 女の声?
声のした方に目を向けた瞬間、体当たりされた。
そのまま腕に絡みつかれ、身体を押し付けられる。
よろけそうになるのを、なんとか堪えた。
金色の髪。尖った大きな耳。この感触──
「ソ、ソレイユ?」
すぐ近くに、グリーンの大きな瞳。
「もう! 探したんだからね!」
怒ったような、泣きそうな顔で睨んでくる。
どうしてソレイユがマキナードに?
もう僕はエターナルの一員じゃない。
探す理由なんて、ないはずなのに。
ソレイユは、いつもの眩しい笑顔で笑った。
「リンク、冒険しよ?」




