第四話 ──私の救世主──
よくない噂を耳にしたわ。
いくつかのエルフの里が襲われたって。
里長とその身内が次々に殺されたって。
犯人は見つかっていない。
そもそもエルフの里の場所は、エルフしか知らないはずよ。
エルフ以外が里に入ろうとしたら、結界が発動して迷い道になるはずなのに。
……いったい誰が。
私の里は大丈夫なのかしら。
里を飛び出してから、もうずいぶん経つわ。
心配できる立場じゃないのはわかってる。
“神の子”なんて勝手に祀り上げられて、勝手に期待されて、勝手に失望されて。
あんな場所、二度と戻るつもりなかったのに。
でも──義妹のことだけは別だった。
“神の子”ではなく、まだ”ソレイユ“だった頃、
彼女が向けてくれた優しい笑顔が忘れられない。
あの日の約束も……
……会いたい。
噂なんて、ただの言い訳。
本当はずっと……ルナに会いたかった。
だから帰るからには、ちゃんと里を──ルナを守りたい。
エルフ以外は結界で弾かれる。
なら、里に入れたのは──
エルフに化けた“何か”
……やっぱり解決できるのはリンクしかいない。
リンクを連れて里に帰る。
それが私に取れる最善の策だった。
そのために、わざわざマキナードにやってきたのよ。
グラン=リュミエルからはかなり遠かったわ。
馬車を乗り継いで、野宿もして、ようやく昨日たどり着いたのに……
「知り合いの鑑定屋がいるから」
リンクがそう言っていたのを思い出し、朝から鑑定屋を探した。
目についた店は全部空振り。
太陽がもう少しで真上に来るころ、
町はずれに一軒の鑑定屋を見つけた。
すぐそばが歓楽街だなんて、流行ってなさそうね。
ここがダメなら少し休憩しよう。
中を窺うようにそっと扉を開ける。
すると男性が二人、カウンターを挟んで立っていた。
店主と、お客かしら。ここも外れだわ。
出て行こうとした瞬間、客の男が素早く近づいてきた。
そのまま無視しようとしたら、手を取られた。
「この街、初めて? 観光? よかったら案内するけど?」
……なに、このちゃらちゃらした男。キッモ!
「結構です!」
振り払って出て行ってやった。
これくらいで済ませてあげたのよ。感謝しなさい!
はぁ……もう、朝からこんなのばっかり。
店の中でナンパとかあり得ないんだけど!
走って広い通りに出る。
どうして人族の男って、エルフに馴れ馴れしいのかしら。
エルフ自体が珍しいのもあるんだろうけど、
ほとんどのヤツが身体目当てだってのはわかってるんだからね!
普通に歩いてるだけなのに、やたらジロジロ見てくるし。
慣れっこだけど、今日は妙に腹が立つ。
もうサイアク。
とにかく喉が渇いたわ。一休みしたいわね。
大通りに面した小さなカフェが目に留まった。
テラス席で紅茶を頼むことにする。
もしかしたらリンクがこの道を通る可能性もあるし。
それにしても、マキナードって田舎町のくせにやたら広いじゃない。
あ、田舎だから広いんだわ、きっと。
もう、リンクったらどこほっつき歩いてるのよ!
リンクがエターナルを抜けてから、もう一カ月以上経つ。
敵討ちだって言ってたけど、さすがにもう終わってるわよね?
せっかく手伝ってあげるって言ったのに、
一人でやるんだって大見栄切ってたんだもん。
これで終わってなかったら、しごき直してやらないと。
色々考えていたところで、紅茶がなくなった。
さぁ、どうしようかな。
もうだいたいの鑑定屋は見て回ったし。
もしかしてギルドで鑑定やってるのかも。
それかダンジョンかしら?
取りあえずギルドに顔を出してみた方がよさそうね。
確かこの道をまっすぐ行ったところに──
ふとその方向に視線を向けた時、
リンクの姿が目に入った。
見つけた。
私の救世主!!
手を振りながら、小走りに駆け寄った。
……まったく、どれだけ探させるのよ。




