第三話 ──振り回される──
行きに通った道よりも、さらに細い路地を迷路のように抜けていく。
途中、配達の人にぶつかりそうになった。
「すみません!」
くるりと一回転し、お詫びもそこそこ走り出す。
ここを曲がればヨゼフの店まで一直線だ。
すると店から大通りの方角へ、誰かが走り去るのが見えた。
遠目だし、一瞬だったからよくわからなかった。
お客だなんて珍しいと思いながら、店へと急ぐ。
見えているのに、やけに遠い。
ようやくたどり着き、息を弾ませ勢いよく扉を開けた。
息がまだ整わないまま店に入ると、ロウはいつも通りのんきに手を振ってきた。
「おっ! リン! お帰り」
「なんだ、早いな。じゃあ奥で休ませてもらうぞ」
ヨゼフは一瞬だけこちらを見ると、店の奥にそそくさと入ろうとする。
思わず声が出た。
「休ませてもらうぞじゃないよ!
預かった鑑定品どこだよ。一品足りないって言われたんだからな!」
ヨゼフが振り返り、眉をひそめる。
「……ワシは触っとらんぞ。お前が持ってくのを忘れたんじゃないのか?」
めんどくさそうに肩をすくめた。
そうだよな。
一度も手に取ったことなかったもんな。
「くそっ! どこだよ!」
ガサガサとテーブル周りを探してみるが、手元がうまく動かない。
ロウはにやにやしながら肘でつついてくる。
焦ってるのに……空気読めよ、ほんと。
「おいリン。さっき鑑定屋にめっちゃ美人が来てよ」
そうか。さっき走っていった人か。
女の人だったんだ。
探しながら、顔も見ずに適当に返すと、
ロウがさらに身を乗り出してくる。
「もう、ボン! キュッ! ボン! でさ」
ニヤケた顔で、わざと視界に入るように手で曲線を描く。
嬉しそうにしやがって……なんか、ムカつくな。
「……よかったじゃん」
半分聞いてないような生返事になる。
「なに? その反応。
もしかして女に興味ねぇのか?」
「普通にあるよ!」
「じゃあなんでそんなにリアクション薄いんだ?」
よく言うよ。
毎日その顔見てりゃ、薄くもなるだろ。
自分が一番きれいなくせに。
なんでそんなに女好きなんだよ。
「……いいから、ロウも探せよ!
だいたいロウが邪魔するからこんなことになったんじゃないか!」
声が裏返りそうになるのを誤魔化しながら、必死に探す。
「リン、これか?」
その声に思わず顔を上げた。
ロウが不思議そうな顔で、椅子の上の小さな箱を指差している。
やけにちょこんと置かれていた。
「あ――! それ!! なんでこんなとこにあるんだよ!」
「え、さっき俺ちゃんがここに座るのに邪魔だからどけた。
だってそうしないとリンの真剣な顔見れなかったし」
自慢げに胸を張ったロウは、嬉しそうに口元をゆるめている。
「見れなかったし、じゃねーよ! やっぱロウのせいじゃん!」
「お、俺が悪い?」
今度は自分を指差しながら、ぽかんと目を丸くした。
「んぅぅ――もう! もっかいギルド行ってくる!」
自分でも情けない声になってるのがわかるまま、再び急いで店を飛び出した。




