第二十一話 ──里の門──
ヤード村を後にし、ソレイユたちは森の中を歩いていた。
途中までは、薬草や木の実を採りに来た村人とすれ違ったが、
本道を外れてからは、遠くに動物の影を見るくらいだ。
木々が重なり、日も届くか届かないかの薄暗さ。
足元に気を付けながら進んでいく。
少し開けた場所で、ソレイユが立ち止まった。
「もうすぐだから、これを渡しておくわ」
空間魔法から取り出したのは、白いシルクの仮面だった。
目元だけを覆う、シンプルで上品なマスカレードマスク。
白の刺繍が淡く光を返す。
「悪いけど、エルフ以外が里に入るには着用しないといけないのよ」
ザックは何の迷いもなくさっと着けた。
リンクも珍しそうに仮面を眺め、着けようとしたが──
ふとローランドの方を見る。
ローランドは手に取った仮面をじっと見つめていた。
「ロウ、着けないのか? 眼帯が邪魔?」
「……ああ」
「外してマスク着ければいいじゃん」
「いや、でも……」
ローランドは少し戸惑っている。
リンクは首を傾げた。
ローランドは少し屈み、リンクの耳元で囁いた。
「……リン以外に、この目を見せたくない」
眼帯の上にそっと手を添える。
左目は──リンクが想いを寄せていたアイラの瞳だ。
そのかすれた声と吐息が、リンクの耳に触れる。
思わずドキリとして、鼓動が早くなる。
顔が熱を帯びるのが、自分でも分かるほどだった。
「仕方ないだろ……さっさと着けろよ」
誤魔化すように俯き、乱暴に言い放つ。
「わかった」
ローランドはふっと笑い、リンクの頭を軽く撫でた。
そして眼帯を外し、仮面を着ける。
銀髪に白のマスクがよく映え、
ハニーオレンジとアメジストのオッドアイは、
薄暗い森の中でもきらりと輝いていた。
ソレイユは一瞬だけローランドの顔を凝視したが、
何か言いかけて──やめた。
触れてはいけない気がして、そのまま歩き出した。
ザックは珍しそうにローランドを覗き込み、
「眼帯取っても男前かよ」とこぼしている。
しばらく歩くと、前方がふっと明るくなった。
薄暗い森の景色が途切れ、まばゆい光が視界いっぱいに広がる。
光の向こうに──エルフの里が姿を現した。
丸太で作られた塀に囲まれ、門の先には緑の多い穏やかな景色が広がっている。
さっきまでの鬱蒼とした暗さは消え、人里のような温かさが漂っていた。
門番たちがこちらに気付き、目を見開いている。
しかしすぐに表情を引き締め、槍を地面に突き立てた。
ただ、その仕草にはどこか棘がある。
「おお、これはこれは“神の子”のお帰りだ」
「ぞろぞろと男侍らせて、いい気なもんだな」
嫌味を言う余裕があるなら、里はまだ無事なのだろう。
ソレイユは取り合う気もなく、門を通ろうとした。
その態度に腹を立てたのか、門番の一人が槍をソレイユに向ける。
「ここから逃げたくせに……挨拶も無しかよ」
穂先が喉元で光る。
ソレイユはそれを手の甲で軽く押しのけた。
「身の程を弁えろ。お前の実力じゃ勝てるわけないだろ」
荒々しい言葉で門番を一瞥し、そのまま中へ入っていく。
門番は歯をギリギリと鳴らし、怒りを堪えていた。
「相手が悪かったな」
ザックは通りすがりに門番の肩を軽く叩いた。
ローランドもリンクも、気の毒そうな顔をしている。
「黙れ! 性奴隷風情が!」
ザックたちの様子が癇に障ったのか、
門番は怒りのままに叫んだ。




