第二十二話 ──義母の微笑み──
里は都会でもなく、マキナードのような田舎街とも違う。
木造の家々が並び、風に揺れる草花の香りが漂っていた。
時間がゆっくりと流れているようで、慌てている人は一人もいない。
子どもたちの笑い声が遠くで響き、どこか懐かしい空気があった。
広場のような場所を抜け、
里の奥へと続く道を四人は歩いていた。
「性奴隷って……俺たち、そんな風に見られてんのか?」
ザックは両手を頭の後ろに回して、心底嫌そうな顔をする。
「俺はソレイユちゃんとなら、アリだけどなっ」
「ロウ!」
リンクはニヤついたローランドの脇腹をグーで殴る。
「リンクさん、やめてっ……!」
情けない声で脇腹を押さえるローランド。
リンクはムッとしながらそっぽを向いている。
ソレイユは無言のまま歩いていた。
その表情は険しい。
先程から、里の人々がちらちらとソレイユを見ている。
「あれ、もしかして……」「絶対そうよ」
そんなひそひそ声が耳に届く。
「それにしてもさっきのソレイユちゃん、カッコよかったぜ。
門番にビシッと啖呵切るなんてな」
ローランドはわざとおどけた調子で声を掛けた。
ソレイユを気にしてのことだろう。
「事実を言ったまでよ」
ソレイユは無表情のまま、ツンとした声で返す。
今度はリンクが話し掛けた。
「ねぇ、ソレイユ。いったいどこに向かってんのさ」
「……里長のところよ。
戻った時や客人を連れた時は、挨拶しないといけないの」
表情は無にしているが、その目が一瞬だけ揺れた。
幼い頃の影が、かすかに滲んだようにも見えた。
里長の屋敷は、里の建物の中でもひときわ大きく、
木の香りが漂う落ち着いた佇まいだった。
屋敷の前には衛兵が立っている。
二人はソレイユを見るなり驚いたが、すぐに深々と礼をし、
一人は里長へ知らせに走り、もう一人は四人を応接へと案内した。
屋敷の中は静かで、
外ののどかさとは違う緊張が漂っている。
応接に通された四人は、里長が現れるのを静かに待った。
ソレイユだけが椅子に座り、三人はその後ろに立つ。
しばらくして、
淡い緑の衣が静かな空気を揺らした。
気品ある女性──里長が入室してきた。
その後ろには若い女性、里長の娘ルナが続く。
ソレイユは立ち上がり、
里長の顔を見た瞬間、わずかに固まった。
だがすぐに最敬礼をし、深く頭を下げる。
「顔を上げなさい、ソレイユ」
恐る恐る顔を上げる。
里長と目が合った。
昔と変わらない、優しい微笑み。
「久しぶりね。元気でよかった」
「……里長、お久しぶりでございます」
「堅苦しいのはいいのよ。
前里長──母上は天に召されました。
今は私がこの里の長。
もうあなたを傷付ける者はいないわ」
ソレイユは俯き、ぐっと拳を握った。
「昔のように、義母と呼んでいいんですよ」
里長の柔らかな声に、ソレイユの肩がわずかに緩んだ。
「いえ……私が至らないばかりに……
里長にはご迷惑をお掛けしました」
再び深く頭を下げる。
「いいのよ。酷いことをしたのは母上だもの。
あの時は逃がしてあげることしか出来なくて……ごめんなさいね」
「……もったいないお言葉です」
応接には、重い空気が静かに沈んでいた。
その沈黙を断ち切るように、里長が話題を変える。
「でも随分とたくさんお友達を連れた里帰りね。
エルフにも引けを取らない美人さんもいるようだけど……
なにかあったのかしら?」
里長はにこりとローランドに微笑む。
それを見て、ソレイユは片眉を上げた。
「これは特に関係ありません。
今、巷を騒がせているエルフの里襲撃についてお話があります」
“これ”と言われたローランドは、苦笑するしかなかった。




