第十九話 ──エルフの里──
どれだけ歩かせりゃ気が済むんだよ。
足が棒になっちまうだろうがよ。
もうかれこれ小一時間は森の中を歩いてるじゃねぇか。
しかも獣道でもないような、道なき道をだ。
いい加減文句を言ってやろうとした時、
背の高いエルフが立ち止まりやがった。
「お前んとこの里の宝飾は持ってるよな?」
振り返って顔を覗き込んできやがる。
いくら俺がチビに化けたからって、ムカつく態度取るんじゃねぇよ。
……でも宝飾ってなんだ?
チビの身包みは剥いだが、装飾品には手を付けなかった。
前ん時は全部奪ってやったけどな。
「やべっ、忘れたかも」
頭を掻いて誤魔化す。
「お前、そういうとこだぞ。
仕事はきっちりしてるのに、だらしないっつーか……
俺は欠片も持ってるから、俺のを貸してやるよ。
仮面なんか持ち合わせてないからな」
そう言って、よくわからない石でできた首飾りをかけさせられた。
なんだよ、このショボいのは。
それに欠片? 仮面ってなんだ?
エルフの習慣なんざさっぱりだな。チビの記憶にも出て来やしない。
「悪いな、借りとくよ。俺の里では仮面なんて見たことないぜ」
事実だからいいよな。
「うそだろ? エルフ以外を連れてくるときに付けさせる面だよ。
見たことないのかよ? あの目の周りが隠れるやつだぜ?
ってことは、お前んとこ、よっぽど誰も来ない里なんだな。
うちの里は結構デカいぜ。里同士が合併したからよ」
背の高いエルフはさも自慢そうに鼻を擦ってやがる。
……っていうか、コイツ名前なんだ?
里同士の合併? 意味が分からん。
戦士の里と文化の里がくっついただの、
俺は戦士の里出身だの、
どうでもいい話をベラベラ垂れ流しやがった。
適当に相槌を打ちながらも、周りの警戒は怠らねぇ。
こういう時に限ってボロが出ちまうからな。
いつも思うんだけどよ、エルフの里に向かうときって言やぁ、
木々が勝手に動いてるみてぇな感覚になるんだよな。
これがエルフの結界っていうやつだろよ。
エルフに化けてなかったら、全く分かんねぇだろうな。
まだ歩くのかよと思った瞬間、
まばゆい光に包まれた。
手を翳しながら薄目を開ける。
目の前には里の入口が現れていた。
門番が二人、ダルそうに立ってやがる。
里に入る時は、いつもこんな感じでいきなりなんだよな。
ほんと、毎回ビビらせんじゃねぇよ。
気付けば、あいつは先を歩いてた。
門番とツレなのか、会話が弾んでやがる。
この男はトーイって名前だったのか。
チビの記憶でごちゃごちゃと名前が出やがったから、どれかわからなかったぜ。
「こいつ、トマス。一緒に店やってんだ。
“神の子”が見たいんだとよ」
「よ、よろしくな」
俺はトマスってんだな。
自分の名前なんて出て来るわけねぇだろ、ナルシストじゃあるまいし。
まぁ、結果オーライってやつだ。
「神の子なんて随分前に出て行ったきり、一度も帰ってきてねぇよ。
どの面下げて帰るってんだよ、ははは」
「だよな。さっさと子供作らねぇから、こんな物騒な事件が起こるんじゃねぇの?」
「今から産んでもルナの結婚相手には歳が離れ過ぎてるし、
ルナが産む子となら可能性はあるんじゃね?」
「バカ言うなよ、ルナちゃんはまだ結婚もしてないんだぜ!
滅多なこと言うなよ!」
「はいはい、お前はルナのことが好きだもんな。
でも婚約者はセドリックに決まりだろ?
すかした野郎だけど、実力は本物らしいぜ。
衛士隊の連中、よく噂してるからな」
どうでもいい話だが、
ルナって女と神の子は繋がってそうだな。
難しい顔をしちまったのか、
トーイが俺を放置したことに気付いたようだ。
「悪い悪い、トマス。今から里長に会いに行こう」
どうやら、ここでもよそ者は里長に会わなきゃならねぇらしい。
そんなに里長って偉いのかよ。
いつも通り里長の屋敷に連れて行かれ、
庭に面したあの“縁側みてぇなとこ”に里長が出て来る。
厳ついババアをイメージしてたんだが、
意外にも若い女だった。
若いって言ってもお袋世代だけどな。
その横に娘らしき女も立っている。
この女がルナか。
次期里長予定者だとよ。里長はやっぱ女系なのか。
今まで殺った里長たちも女だったもんな。
もし神の子がここに来たなら、
里長にも会いに来るだろうし、このルナって女にも会うに違げぇねぇ。
里長の屋敷は要チェックだな。
とにかく二日はこのチビの格好で、
その後はトーイにでも化けさせてもらうとするか。
「なぁ、トーイ。滞在中、お前の家に泊めてくれよ」
「いいけど、しばらく使ってないから汚いぜ。
世話してくれる相手なんかいねぇしな」
それなら簡単に殺れるな。
「最高じゃないか!」
俺はツイてる。
最高にツイてやがるぜ。




