第十六話 ──伝えられない気持ち──
リンクはシャワーを浴び終え、髪を拭きながら大きく息を吐いた。
(……今日は本当に疲れたな)
ベッドに倒れ込むと、柔らかい布団が身体を包み、
そのまま意識が沈んでいきそうになる。
その瞬間──
ガンッ!!
シャワールームの扉が、壁にぶつかる勢いで開いた。
「ちょっと! なんでリンクが先に入っちゃったのよ!
床、びしょびしょじゃない!」
リンクは跳ね起き、胸を押さえて息を呑んだ。
「うわっ……びっくりした……。
ソレイユがいつまでも準備してるからだろ……」
眠気でろれつが回らないまま、布団に潜り込む。
「レディーファーストでしょ!」
「はいはい……レディーね……」
もう半分寝ている声だった。
ソレイユはむっとした顔でリンクを見つめ──
そのまま、ためらいもなくリンクの布団に潜り込んだ。
「ちょ、……ちょっと待てよ!!」
リンクは慌てて布団を抱え込み、ソレイユを放り出した。
「一緒には寝ないぞ!」
背を向けたまま、ぴくりとも動かない。
ソレイユは床にぺたんと座り込み、ふてくされた声を出した。
「なによ、ケチ……!
リンクはいいわよね。
復讐も果たして、好きな人にも会えたんでしょ?
そりゃあ身も心も色んな意味で軽くなって、幸せなんでしょうね!」
リンクの肩が、わずかに揺れた。
しかし振り返らない。
「……会えなかったよ」
小さな声だった。
ソレイユは息を呑む。
リンクは続けた。
「……会えなかった」
短く息を吸う。
「もう……会えるわけないんだ」
その言葉だけで、ソレイユは悟った。
リンクの“大切な人”は、もうこの世にいないのだと。
「……ごめん」
ソレイユはバスタオルの端を、腿のあたりでぎゅっと掴んだ。
「だったら……だったら、なおさら……
少しくらい……いいでしょ?……」
その声は、いつもの強気とは違う。
リンクは深く息を吐き、寝返りを打ってソレイユを見る。
「ダメじゃなくて、嫌なんだ」
その真っ直ぐな瞳に耐え切れず、ソレイユは視線を落とした。
リンクは静かに続けた。
「気を紛らわせるためだけの関係なんて、虚しいだろ。
……何度も言ってきたよな」
ソレイユは唇を噛んだ。
叱られた子供のように、どうしようもなくバツが悪そうだった。
リンクは言う。
「無理に忘れようとするなよ。
……里に行ったら会えるんだろ? その人に」
ソレイユは何か言いかけて、口を閉じた。
リンクは再び背を向ける。
「ちゃんと気持ちを伝えたらどうなんだ?
もっと自分を大事にしてくれよ」
そのまま、静かな寝息が聞こえ始めた。
規則正しいリズムが、静かに部屋に広がっていく。
部屋の空気が、ゆっくりと落ち着いていった。
ソレイユはしばらくその背中を見つめていた。
まるで、自分だけが取り残されたみたいに。
ゆっくりと反対側のベッドに腰を下ろし、
膝を抱えて小さく丸まった。
灯りの揺れが、ソレイユの影を細く震わせる。
「……こんな身体なのに……伝えられるわけないだろ……」
その声は、誰にも届かないほど小さかった。
ソレイユの視線は一点を見つめたまま、
どこか遠くに置き去りにされたようだった。




