第十五話 ──宿場町ミノンの夜──
馬車は森を抜け、視界が開けた。
御者台では、リンクが背筋を伸ばして座っていた。
ジョセフの隣で、やけに緊張している。
「そんなに固くならなくてもいいですよ、リンクさん」
ジョセフが笑うと、リンクはぎこちなく笑い返した。
「は、はい……」
(……あの二人がいる荷台よりは、まだマシだ)
後方からは、時おりピリッとした空気が漂ってくる。
ソレイユの仄暗い殺気と、ローランドののんきな鼻歌が混ざった、
なんとも言えない空気だ。
リンクはそっとため息をついた。
やがて、石造りの城壁と灯りが見えてくる。
人の声、馬のいななき、商人たちの呼び声。
ミノンの街は、夜でも活気に満ちていた。
「着きましたよ。宿場町ミノンです」
ジョセフの声に、荷台のソレイユとローランドも正面を向いた。
「……思ったより賑わってるわね」
「中継地だからな。商人も多いし、旅に必要な物資も揃うんだろ」
ローランドが答えると、ソレイユは嫌な顔をした。
馬車は大きな宿屋の前で止まった。
馬車ごと泊まれる、商人に人気の高級宿だ。
「こちらの一棟、すべてテムル商会様のご予約です」
宿の主人が深々と頭を下げる。
「さすが大手の商会……」
ザックが感心した声を漏らした。
荷物を降ろす必要もなく、
テムル商会の二人は別室で食事を取っており、
護衛の四人は案内された居間で簡単に腹を満たした。
そして部屋割りが始まった。
用意された寝室は二部屋しかない。
当然、誰と誰が組むかで揉めることになる。
「じゃあ、部屋は──」
ソレイユが一歩前に出た。
「私とリンク。
ローランドとザック。
以上!」
「はぁぁぁ!?」
リンクの悲鳴が宿中に響いた。
「ちょ、ちょっと待ってソレイユさん!? ぼ、僕はザックと──」
「ダメよ。ほら、行くわよ」
ソレイユはリンクの腕をつかみ、ずるずると引きずっていく。
「いやだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
リンクの叫びが廊下に消えていった。
ローランドは目をしばたたかせながら、小首を傾げて言った。
「……なんであいつ、あんなに嫌がってんだ?」
「……まぁ、色々あるんだよ……」
ザックはため息をついた。
二人は無言のまま廊下を歩き、割り当てられた寝室へ入った。
扉を閉めると、ようやく緊張がほどけたように装備を外し始めた。
「今日はソレイユに絡まれて散々だったな。ご愁傷様」
ザックが言うと、ローランドはベッドに腰を下ろしながら笑った。
「そうか? 割と楽しませてもらったぜ」
「楽しませてもらった、ねぇ……」
ザックは呆れたように眉をひそめる。
「あんた、気づいてねぇだろ。
あいつ、……結構落ち込んでたぞ」
「どこが? ムカついてたの間違いじゃねぇの?」
ローランドは不思議そうな顔をしている。
その様子を見て、ザックは頭を抱えた。
「あんた、Bランクなんだってな。
自分より格下の奴に負けたんだから、相当根にもたれるぞ」
「感謝の間違いだろ?
俺ちゃんというスパイスで、あの二人にはいい刺激になったんじゃね?」
「スパイスって……」
ザックは深いため息をついた。
「あんたさ、ちょっとリンクと距離近すぎるんじゃねぇか?」
ローランドはぽかんと口を開けていた。
本気で何が問題なのか分かっていない顔だ。
「いつもあんな感じだけど?
ってか、割と今日は控え目な感じだと思うけどな」
「控え目ねぇ……」
ザックは天井を見上げた。
(……あれで控え目ってどういうことだよ。こいつ、ほんとに分かってねぇ)
ローランドはブーツを脱ぎながら首を傾げていた。
「なんか変か?」
「……全部だよ」
ザックの返事は、どこか諦めに満ちていた。




