↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ハニーオレンジとアメジスト ──神の子とエルフの里  作者: じゅんき


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
11/22

第十一話 ──金勘定──

マキナードの停車場。


空気はまだ冷たく、馬の吐く白い息がゆっくりと漂っていた。

陽はすでに高く、馬車の影は短くなり始めている。


この時間は、夜明け前に納品を終えた馬車が多い。

帰りの積み荷を確認する者、空になった荷台で足を投げ出して休む者、

馬の首を撫でながら水を飲ませる者──

静かだが、確かな生活の気配に満ちていた。


リンクは久々にたくさんの馬車を見た。


「うわぁ、こんな場所あったんだな」


「そういや、リンとはこっちには来てなかったよな」


ローランドが軽くリンクの頭に触れた。

リンクは少し照れたように笑う。


「なによ、グラン=リュミエルの方がすごかったじゃない」


ソレイユがリンクの腕に絡みつき、自分の方へ引き寄せる。

ローランドを睨むその目は、陽の光より鋭かった。


気圧されたように一歩下がりながらも、ローランドは口を開いた。


「でもなんで依頼なんか受けたんだ? 急いでんだろ?」


「なんでって、そんなのお金のために決まってるじゃない。

タダでヤード村まで行けて、おまけに報酬がもらえるのよ?」


リンクはまただという顔をした。

ソレイユはその頬をむにっと引っ張る。


「い、痛い痛いっ……!」


抵抗するリンク。

ローランドはやれやれと肩をすくめた。


向こうでザックが手を振っているのが見えた。

依頼主を見つけたようだ。


三人が到着すると、若い男が深々と頭を下げた。


「テムル商会のカウベルと申します。

こちらはジョセフ、当商会の買い付け担当です。

ヤード村までよろしくお願いいたします」


カウベルと、初老のジョセフという男が一人。

普通なら荷運びの従者が数人はいるはずだが、見当たらない。


荷馬車は二台。

一台は荷を積み、もう一台は空だ。


「二人だけなの?」


ソレイユが尋ねる。


「はい、人足は現地調達してますもので」


現地調達──つまり高い。

儲けが見込めなければできないやり方だ。


テムル商会はマキマキシを中心に手広く商売をしている有名な商会だ。

馬車の装飾や木材の質からしても、かなり潤っているのがわかる。


そして、ヤード村までの護衛依頼で一番高い報酬を出していたのが、このテムル商会だった。


「そう、わかったわ。

で、どんな魔物が出るの? 調べてるんでしょ? ザック」


「魔物よりも灰色ウルフの群れが厄介だな。馬が狙われる」


「ふぅん、灰色ウルフね……」


ソレイユは視線を落とし、にんまりと笑ってカウベルに向き直った。


「カウベルさん、どう? 毛皮や肉は必要じゃない?」


カウベルは少し驚いたように瞬きをした。

商人特有の値踏みする目がソレイユに向けられる。


「え? 灰色ウルフですか?

そうですね、出来ましたら買い取りたいところですが……

状態にもよりますが、一頭あたり銀貨五枚でどうでしょう」


ソレイユはわずかに眉を上げ、意地悪く口角を上げた。


「銀貨五枚ですって? 爪や牙もあげるのよ。

最低でも銀貨十枚は欲しいわね」


カウベルは苦笑し、ジョセフに視線を送る。

ジョセフは肩をすくめた。


「いや、こちらとしても血抜きなどの加工をしなければなりませんし、

ヤード村までもちませんよ」


ソレイユは顎に指を当て、わざとらしく考える仕草をした。

その目は、商人の目だった。


「そこまでもてば銀貨十五枚にしてもらえる?」


カウベルは観念したように息を吐いた。


「あ、まあ、そうですね……もてばの話ですが」


「じゃあ決まりね! 書面に残してくれる?」


またソレイユの金勘定の早さが出ている。

ザックは額を押さえた。


一方、少し離れた位置で、ローランドは荷馬車の横にしゃがみ込んでいた。

木の質、車輪の造り、軸の太さ──職人の手が入っているのが素人目にもわかる。


「ロウ、そんなにじっくり見て何かわかるのか?」


リンクが少し屈んで覗き込んできた。


「わかるさ。こういうのは乗り心地に直結すんだよ。ほら、この軸の太さとかさ」


「へぇ……ロウってそういうの詳しいんだ」


ローランドは肩をすくめた。


「護衛の依頼もそれなりに受けてきたからな。

さすが貴族にコネがある大店だけあって、馬車の造りもしっかりしてる。

長時間乗ってても疲れねぇってやつだな」


リンクはローランドの横にしゃがみ込み、まじまじと馬車を見つめた。


「だったらなんなのよ! リンク、乗りなさいよ!」


向こうで話が終わったのか、

ソレイユはリンクを無理矢理立たせて空の荷台に乗り込んだ。


「俺は前の馬車で見張りでもするかな……」


ザックは逃げるように荷物のある方の御者台に乗り込んだ。

修羅場になる後ろの馬車は御免らしい。


前の馬車はカウベルが、後ろの馬車はジョセフが操る。

馬たちはそわそわと足踏みし、車輪がわずかに軋んだ。


「あんたはデカいんだから御者台に行きなさいよ」


リンクにべったりなソレイユは、邪魔者を見るような目でローランドを睨む。


ローランドは参ったなという顔で、御者台に乗り込んだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。