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上海の火種、電撃の外交和平

いつの時代もマスコミってヤバいよな

昭和七年(一九三二年)一月。


桜田門での暗殺未遂事件は、帝都東京に凄まじい衝撃を与えた。

史実ではこの事件をきっかけに、中国の新聞が「不幸にして命中せず」と報じたことで日本側の対中感情が爆発。


陸軍は上海の日本人僧侶襲撃事件などを自作自演し、瞬く間に『第一次上海事変』という泥沼の軍事衝突へ突入していった。


だが、この世界には「未来の年表」を知る俺がいる。 


「上海の火を燃え上がらせてはならん。あの都市は世界中の権益が入り乱れる国際租界だ。あそこで派手に暴れれば、欧米との決定的な対立を生む」


御所の執舞室で、俺は緊迫した面持ちで地図を見つめていた。  


すでに上海の現地では、関東軍の謀略家・田中隆吉少佐らが、日中間の衝突を誘発するために暗躍を始めているはずだった。 


「榊、現地の田中少佐の動きはどうなっておる」


影から現れた榊少佐が、厳しい表情で一通の電報を差し出した。




「陛下の予測通りにございます。田中少佐は現地の一部の右翼活動家を使い、中国人暴徒を装って日本人僧侶を襲撃させる計画を進めております。決行予定日は一月十八日。これを発端に、上海に駐留する海軍の陸戦隊を動かす腹づもりです」


(あと数日しかない。陸海軍のトップは桜会崩壊で大人しくなったが、現地の出先機関の暴走癖はまだ根深い。……力ずくで止める!) 


俺はすぐさま、信頼できる二人の人物を御所に呼び出した。


一人は外務大臣の芳澤謙吉。


もう一人は、ロンドンから帰国し、航空主兵への転換を進めている海軍随一の理性派、山本五十六中将(条約の功績により昇進)である。 


「芳澤、そして山本。時間がない、端的に伝える」


俺は二人の前に、上海で計画されている自作自演の謀略ルートが書かれた書類を突きつけた。  


「な、何にございますか、これは……! 我が軍の将校が、意図的に日中の戦争を誘発しようとしていると!?」


「そうだ。山本、上海にいる海軍陸戦隊の指揮官に、私の直の命令(勅命)として伝えよ。

『いかなる挑発があろうとも、私の許可なく一発の銃弾も撃つことは許さん。もし独断で兵を動かした者は、その場で大逆罪として即決処刑する』とな」


「ハッ! 陸戦隊の引き締めは、この五十六が責任を持って遂行いたします!」


山本は直立不動で、鋭い眼光を輝かせた。


「そして芳澤。お前はただちに中国(国民政府)の外交トップと、上海の国際租界を管理する米英の公使に、この『謀略の証拠』を匿名で暴露しろ」


「えっ!? 欧米に我が軍の恥部を晒すのですか?」


「恥を晒すのではない。先手を打つのだ」


俺は立ち上がり、現代の国際政治学(地政学)のリアリズムを二人に説いた。



「『日本政府および天皇は、一部の過激派の暴走を完全に把握し、これを鎮圧しようとしている。日中双方で、この自作自演のテロリストたちを同時に検挙しよう』と持ちかけるのだ。欧米の目の前で共同防諜戦を展開すれば、国際連盟は日本を『理性的で頼れる東洋の指導者』と見なす。中国側も、全面戦争の準備ができていない今の時期なら、必ずこの手に乗ってくる」


圧倒的な未来の力学。


史実のように「感情的なナショナリズムの泥沼」に落ちる前に、事件の本質を「テロリストと政府の法的取り締まり」という国際警察アクションへ引っくり返すのだ。




一月十八日、上海。史実で上海事変の引き金となった「日本人僧侶襲撃事件」の現場。


田中の息がかかった中国人暴徒(に化けた工作員)が、僧侶たちに襲いかかろうとしたまさにその瞬間、路地裏から突入してきたのは日本軍ではなく、上海の『国際租界巡捕(警察)』と『中国警察』の連合部隊だった。


さらに、上空には山本五十六の手配した海軍の偵察機が旋回し、その様子を克明にカメラで記録していた。


「動くな! テロ容疑で全員逮捕する!」


背後で糸を引いていた田中隆吉少佐も、現地に潜入していた榊の憲兵隊によって、その日のうちに通信機を押さえられ、現行犯で身柄を拘束された。


一発の砲弾も上海の街に落ちることはなかった。


数日後、世界の主要新聞の第一面を飾ったのは、『日中、上海のテロ陰謀を共同で粉砕。国際協調の新たな光』という大見出しだった。


「見事な外交手腕にございます、陛下……」


東京の御所で、芳澤外相が涙を浮かべて平伏していた。


国際連盟における日本の立場は不動のものとなり、米英からの信頼もかつてないほど高まった。


史実で日本を破滅へ追い込んだ「満州孤立ルート」は、これで完全に消滅したのだ。



「……二つ目の外圧も、跳ね返したぞ」


俺は御所のテロの傷跡が残る桜田門を見つめながら、静かに微笑んだ。


内憂(軍部のテロ)を退け、外圧(国際的孤立)の危機も電撃外交で未然に防いだ。


歴史の修正力を完全にねじ伏せた大日本帝国は、ついに誰にも邪魔されることなく、現代知識をフル活用した「空前の科学技術・経済無双」の黄金時代へと突き進んで行く

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