9-2. ナノマシン
この物語はフィクションです。
作中の人物・団体などの名称は全て架空のものであり、
特定の事件・事象とも一切関係はありません。
「実際に見てもらうのが早いだろうね」
言うが早いか博士はスイの顔面に向かって勢いよく拳を突き出した。
思わず叫んだサトウは信じられない光景を目の当たりにする。
博士の腕が、スイの顔面を貫通しているのだ。きっと腕を引き抜けばジーパーズクリーパーズのエンディングのようになっているだろう。
「ひ、人殺し!通報しなきゃ!通報しなきゃ!」
「サトウ君。安心したまえ」
博士の肘まで脇腹にめり込んでいたスイが何でも無さそうに立っている。出血も無い。
スイが数歩横に移動すると、突き出したままの博士の腕は完全にスイの身体から離れていた。
「彼女はここに存在していない」
「やっぱり、お化けなんだ」
「お化けでもない。まず彼女のように蛍光緑色に発光する人や物というのは、私たちに打ち込まれたナノマシンが脳に働きかけて見せている拡張現実の一種なんだね」
「ナノマシン?拡張現実?」
胡散臭い。三文小説の設定にありそう。
博士を自称するこの男は、頭にアルミホイルを巻いたり、しきりに「256G回線は人体に悪い影響を及ぼす!」と叫んだり、とにかくそんな人々の仲間だろう。
「その拡張現実があまりにもリアルなものだから、我々はそこにスイが居るのだと認識してしまう。そして場合によっては実際に触れていると錯覚することもある。これには認知科学の‥‥いや、詳しくは言えないんだがね」
「認知科学。難しい言葉を知ってて本当に博士みたいだぁ」
博士は「本当に博士なんだがね」と言ってラボ内の椅子に腰掛けた。
変わらず起立したままのスイを見て、サトウが改めて疑問を投げる。
「それで、スイちゃんが光ってる理由は?」
「あぁ、簡単な話だ。君の体内のナノマシンが古いから、拡張現実のオブジェクトが光って見えるだけだね」
「ナノマシンが古い?そもそもそんな物を打った覚えはないんですが」
「そこで出てくるのが、その子さ」
博士はサトウが手に持ったままにしていた蝉を指差す。
「先日、君を刺した蝉。この子こそが国民全員に迅速にナノマシンを注入するために品種改良された蝉なわけだ」
「この蝉ってよく見たら普通の蝉の倍くらいありますよね。こんなん世に解き放たれたらパニックになりますよ」
「しかもナノマシンを注入したら絶命するんだ。国民分の数を用意するコストもかかるし、刺されたら信じられないくらい痛い」
「え、痛いんですか」
「見てみるかね」
そう言うと博士は机上にあったタブレットで何やら操作する。
サトウが受け取ったタブレットでは、動画が再生されていた。
巨大な蝉が、男の頸動脈を狙って執拗に口吻を突き出す。
男の首からは血が噴水のように噴き出し、何度か痙攣すると動かなくなった。
私は低学歴なので、最新のテクノロジーやら、何かすげぇ技術については
ナノマシンor認知科学で片付けるつもりです。そもそも何なの、何ができるの君たち。
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