9-1. ナノマシン
この物語はフィクションです。
作中の人物・団体などの名称は全て架空のものであり、
特定の事件・事象とも一切関係はありません。
「サトウ君。君はここにいる彼女や前宰相が、蛍光緑色に光って見えるんじゃないかな。それについて少し話がしたいんだ」
博士と呼ばれていた人物の隣に立つ蛍光緑色に光る少女。
サトウを見上げていた緑色のビー玉のような瞳と見つめ合う形になり、二九歳なのにも関わらず少女に対し照れてしまう。
「それで、話したいことって何ですか?」
目の前の少女や、先ほど演説をしていた前宰相。発光する人々については確かに不思議だ。
まず、この国では奇抜な格好をしている国民は多い。お洒落なのか、多民族国家ゆえ各国の民族衣装がごちゃ混ぜになった結果なのかは定かではないが。
そんなお国柄のせいか、連日蛍光緑色に発光する人物を見かけたサトウは、それが昨今のトレンドなのだろうと思っていた。
「まず、彼女たちが発光しているのは上級国民のお洒落では無いことを断言しておこう」
「何ですって!お洒落でも無いのに光ってるんですか!やっぱり虐めとかですか、コレ」
サトウは思わず少女を指差す。
指を刺されたことが嫌だったのか、少女はサトウに近づくとその手を払った。
叩かれた手を擦るサトウに少女が冷たく言い放った。
「これは虐めではありません」
「いや、虐めだと思うけどね。上級国民ってドウトクとかジョーソーキョーイクとか、勉強させてもらえないの?」
「第一、私は上級国民ではありません」
「ということは中級?それとも下級?その若さでお金のために人体実験でもされてそんなことに‥‥」
「人体実験でもありません。私は」
「スイ。私から彼に説明するよ」
スイ。どうやらそれが少女の名前らしい。
サトウは「スイちゃんって言うのぉ、可愛い名前だねぇ」と言いかけて何とか堪えた。
年齢関係なく性自認が女である人物に下級国民が話しかけること自体、いらぬトラブルを招きかねない。
「説明を聞くのは構わないですけど、この後でどこかに売られたりしません?」
「そんなことしないさ。君が警戒するのも分かるけどね、私だってしがない中級国民だ。上の階級の人間からの面倒事には辟易している。今の君の気持ちだって少しは理解できているつもりだよ」
「あぁ良かった。お話だけ聞いたらすぐ帰れますよね?僕まだ仕事中なんで長居はできなくて」
「安心するといい。今日から君の職場はここになるはずだ」
「は?」
「これから話すことを外に漏らされると困るからね。今からは私がサトウ君の雇用主だ」
「いやいや、それなら話なんて聞きませんよ。失礼しますね」
「仮に君がこのまま去る。すると君は二〇〇メートルほど進んだところで何者かに誘拐されるだろう。今日中に人体実験施設に送られ、死ぬことはないが口がきけない状態になるだろうね。話を聞くのを断ってしまった、もしもの話だけどね」
博士はサトウの方に手をおいた後、申し訳無さそうに体の前で合掌してみせる。
ポーズと口調が申し訳無さそうなだけで、その瞳に謝罪の感情は一切感じられなかった。
流石のサトウでも「ハメられた」と理解する。
稀によくあるのだ。怪しげな企業の人間が下級国民のことを無理くり言いくるめ、酷い目に合わせるという話が。
今回、サトウが酷い目に合わされる側になったというだけ。それだけなのだ。
初めからこの怪しいバンに乗り込まなければ。
あの夜、部屋で死んでいた蝉を原型も分からぬほど破壊してからゴミ箱に入れていれば。
サトウはそれらを後悔することはあっても、暴れて逃げ出すような気にはならなかった。
アポカリプスホテル良い。良くない?
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