6-2. ザッピング
この物語はフィクションです。
作中の人物・団体などの名称は全て架空のものであり、
特定の事件・事象とも一切関係はありません。
「おはよウ。何のニュースを見てル」
「あれ、いつの間に出勤されたんですか」
「昨日はあのまま泊まったヨ。あァ、これ朝飯ナ」
ワンがサトウに向かって朝飯を放り投げる。やはり光る泥団子だ。
今日は一〇時~二六時までワンオペになるはずだ。これを食べて頑張らねば。
テレビから流れていた音声が一瞬途切れる。
リベラルマン事件の報道から、カワキタ前宰相に関する速報へ切り替わったらしい。
『なんと本日一八時。チヨダにありますカワキタ・ザ・ゴッド記念庭園に、前宰相が来降されることが決定しました』
『前宰相が唯一神となり、宰相職を御子息にお譲りになってからは直接お目にかかれるチャンスはありませんでしたからね。実に六六年ぶりの事だそうで』
『本当に楽しみですね。本日はこのままカワキタ前宰相特番に切り替えて放送を続けて参ります』
カワキタ前宰相特番とやらになったニュースは続いている。
ワンは鼻で笑うとチャンネルをザッピングする。どの局でもカワキタ前宰相特番が流れている。
テレビ画面には、帝国の社会問題であった超高齢化を解決した際のプロセスが、前宰相の年表と共に表示されている。
サトウにとっては、下級国民である自分たちFランクがどうやって誕生したのかが事細かく、しかもそれを褒め称えるような不愉快な内容だ。
「朝から何でこんなの見ないといけないカ」
「さっきまでリベラルマン事件の報道だったんですけどね」
そんな話をするとテレビ画面が消え。うんともすんとも言わなくなる。
「そろそろ買い替えカ。昨日も調子悪かったしナ」
「いいですね。空中にブォン!ってなるタイプのテレビ買ってくださいよ」
「あれはダメだヨ。設置するために店中リフォームしなきゃいけなくなル」
「お金ならいくらでもあるじゃないですか」
「バカ。Fランク雇って細々やってる店が儲かってるわけ無イ。ワタシ、とても貧乏ヨ」
「Aランクなのに?夢がないなぁ。前宰相はいい暮らししてるんでしょうね」
「当然ヨ。そうだナ、一八時になったラ、もう店閉めて見に行ってみるカ」
「いいんですか?行きます、行きます。どんな悪そうな顔してるんだろう」
「普通のお爺ちゃんだヨ。サトゥ、そんなことより開店前に朝飯食っとけヨ」
「あぁ、はい。いただきます」
二六時までワンオペだった予定が、夕方からお出かけになった。
サトウは泥団子を頬張りながら、店頭に立つ時間が短くなってラッキーと考えていた。そういえば、この食べ物に対して何か訊きたいことがあったような気がする。
「あぁ!サンキュー!」
「ン?ああいヤ、どういたしましテ」
「そのサンキューではなく。ワンさん!サンキューが虫の死骸の塊だって知ってました?」
「また嫌な言い方するネ。そうだヨ。虫の死骸の塊だヨ」
「何で教えてくれなかったんですかぁ!」
「?‥‥教えるも何モ、雇った初日に説明したシ、毎年の雇用契約書にも書いてあるヨ」
「へ」
「さてはサトゥ。よく分からずに頷いてたナ」
そう言うとワンが事務所に入っていく。
ワンはキャビネットから書類をいくつか引っ張り出すと、一枚の用紙を持ってきてサトウに手渡した。
「これ毎年、確認してるやつですよね」
「そウ。雇用契約書の元本だナ。ここの備考のとこロ、サトゥの衣食住の面倒を見ます。って書いてあるのナ」
ワンが備考欄内の一節を指差す。昨日、サンキューのパッケージに印字されていた「UNPLEASANT INSECT PESTS」の文字。
「ここがサンキューの原材料ナ。昔、主食を『昆虫食』にするって話があってナ、昆虫食用の虫の研究が一通り終わったところデ、やっぱり昆虫食はキモいシ、何やかんや高コストじゃネ?という話になったんダ」
「はあ」
「それで主食にはならなかったんだガ、今度ハ、爆速で成長して増えるように改造した虫はどうすル。って話になってナ。Fランク用の飯にすることになったんだヨ」
「判断が早い」
「虫の死骸の塊ではあるけド、マ、ちゃんと食べ物だからナ。よシ、開店時間だゾ、働ケ」
「あ、はい」
何だか釈然としないなと思いながら、サトウは表の防犯用シャッターを上げに向かった。
昆虫食が主食になることってあり得るんですかね。
消費者側が受け入れるかとか、コスト面とか、どうなるんでしょう。
別にそこまで興味はないんですけどね。虫食べるよりも、高級店に行ってポテトとか食べたい。
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