#278 ネーベル・ラ・グリム・紫音とイエ朗の摩訶論配信
ピ・ピ・ピ・ポーン♪
「さて始まりました、今夜の配信は大人気企画! みんなの悩みにズバッと解決! 吾輩の摩訶論配信のお時間ですよ!」
さてこの摩訶論配信とは何ぞや?
それはツイッターの機能にアンケートをとったりこういう議題を募集したりする機能がある、それを摩訶論という。
「えっと⋯⋯今夜はいつもと違ってちょっと特殊なゲストが来ています⋯⋯」
【アリスか?】
【いやブルーベルだろ?】
「残念! 僕だよ!」
そうリスナーをあざ笑うように挨拶するのは、る~とイエ朗だった。
【うげ!?イエ朗だと!?】
【なんでやねんw】
【ネーベルとイエ朗のコラボって初めてなんじゃ?】
【締め切りはどうしたイエ朗www】
「みんな阿鼻叫喚ですね⋯⋯」
「嬉しい悲鳴ありがとでーす!」
はあ⋯⋯なぜこんな事になったのやら?
それは柚子ちゃんの摩訶論を今回取り扱うという作戦をこのイエ朗に考えてもらったことから始まる。
作戦会議のためにイエ朗と電話で通話していると⋯⋯。
『ところで何でデビュー前の子と接点作る計画立ててるの?』
そうイエ朗に質問されると隠すほどの事じゃないので説明したら⋯⋯。
『へー、オレンジママの娘さんもVチューバーに? それで紫音ちゃんともう友達なんだ!』
「いや友達っていうのか⋯⋯後輩?」
『うんうんわかってるよ僕には! ふだん他人に興味ない紫音ちゃんがこうやって力になってあげる友達ができてお姉さんも嬉しいよ!』
「⋯⋯もうそれでいいよ」
イエ朗は何言っても聞かないからなあ⋯⋯もうほっとこ。
『でもこれは見届けないと! ねえ紫音ちゃん! その摩訶論配信にゲストに行ってもい~い?』
私は今までこのイエ朗と2人っきりで会ったこともコラボしたことも無い。
なんとな~く苦手な相手というのもあるけど⋯⋯そもそも私は他人と慣れ合わない孤高のVチューバーだったからだ。
まああっ君や姫ちゃんなんかとこうして関わるようになったけどそれは仕事というより子供同士のお遊びというか⋯⋯。
ところがこのイエ朗のような年上の女性⋯⋯たぶん、とのコラボってのはどうしていいのか私にはわからなくて避けていたというのが本音である。
だからまあ今までの私だったらこのイエ朗の申し出は断ったと思うが⋯⋯。
「いいよ。 オンラインで? それとも⋯⋯家に来る?」
まあ私がイエ朗の家に行くよりは来てもらう方が楽だから。
⋯⋯だけどイエ朗の反応は。
『⋯⋯え? マジで? ホントにコラボしてくれるの紫音ちゃんが? ⋯⋯⋯⋯聞き間違えかな?』
なんかいつもの悪ふざけで本気じゃなかったようだった。
「ちょっと心境の変化があってさ最近。 それで来るの? 来ないの?」
『あ⋯⋯うん。 じゃあお邪魔しますね』
⋯⋯クス。
このイエ朗は普段は男っぽいしゃべり方なんだけど、たまにこうやって不意打ちで清楚さが出ちゃう人なんだよね。
「じゃああとで住所送るね⋯⋯それじゃ」
『わかった。 ところで紫音ちゃんはプリン派? ドーナッツ派?』
これは差し入れかな?
「じゃあマスタードーナッツを適当に見繕って持ってきて!」
『おけおけ! まかせなさい! ⋯⋯じゃ、楽しみにしてるよ紫音ちゃん』
「うんそれじゃ」
こうしてイエ朗がゲストに来ることになったのだが⋯⋯。
ピンポーン♪
「あ⋯⋯きたきた。 はーい少し待ってて⋯⋯⋯⋯ふぉあ!?」
そのインターフォンの備え付けのカメラの映像には⋯⋯能面を被った不審者が居たのだった。
『ちわ~! 三川屋で~す!』
「もしもしポリスメン⋯⋯」
『おわっ!? 待って僕! 僕だよイエ朗ですよ紫音ちゃん!』
カメラの向こうで能面を外すイエ朗だった。
「本物だね」
『でしょでしょ! 本物の変態ですから僕は!』
「やっぱりポリスメン」
『でも今夜は紳士に振る舞うから僕は!』
⋯⋯だったら初めからそう言えばいいのに。
そう思った時だった。
『あれ? 不審者だと思ったらイエ朗じゃん!』
『あーマロンちゃんだ!』
⋯⋯なんかマンションのエントランスでイエ朗と真樹奈さんが出会ったっぽい。
『何やってんのイエ朗?』
『今夜は紫音ちゃんのとこのゲストに来たのだ!』
『へー良かったじゃん!』
『やったぜ!』
『じゃあ終わったら帰りにウチにも寄りなさいよ! 一緒に飲もうぜ!』
『ホントー! じゃあ寄らせてもらいますね!』
⋯⋯イラ。
「イエ朗はよ⋯⋯」
『おっと紫音ちゃんを待たせちゃったよ! じゃあねーマロン!』
『じゃあねーイエ朗!』
こうして私の許可申請でイエ朗はマンションに侵入することができたのだった。
そして⋯⋯。
「紫音ちゃん! お待たせ!」
「⋯⋯テンション高いねイエ朗は?」
「はっはっはっ! ついに紫音ちゃんにお呼ばれだからね!」
そんなに嬉しいのだろうか、私の家に来れる事くらいで?
「真樹ねえと仲いいんだねイエ朗は?」
「飲み友だよ! 私達! ⋯⋯あのおっぱいさんも!」
おっぱいさん? ⋯⋯映子さんの事かな?
「映子さんよくイエ朗のこと許したよね⋯⋯あの人、嫉妬深いのに?」
「うん知ってる。 そこは誠心誠意、僕はおっぱいにしか興味ない下心100%だって説明したら許してもらえたから大丈夫!」
「どこらへんが大丈夫なんだよ?」
ちょっとだけ身の危険を感じる⋯⋯早まったか私?
「あ、紫音ちゃん僕⋯⋯未成年には手は出さないので安心して」
「⋯⋯不安しかない」
「⋯⋯あと3年くらいなら待つから」
「⋯⋯」
「あ⋯⋯でも僕は人妻には手は出さない派だからな⋯⋯その前に紫音ちゃんがお嫁に行ってたら無理なのか⋯⋯?」
私はいつでもあっ君を呼べるようにだけはしておくのだった。
イザという時には助けてね、あっ君⋯⋯信じてるぞ!
こうして不安いっぱいで始まったのが今回のコラボである。
「えーとそれじゃあ摩訶論はじめるよ! さてお題は何かな?」
そう私は募集した摩訶論を読む。
「えっと⋯⋯ネーベルちゃんはどうしてブルーベルさんとユニット組んだんですか? か⋯⋯。 これは歳も近いし住んでるところも近いからよく遊びに来るんだよねブルーベルはさ。 それでなんとなく組んだというか?」
「そうそう驚いたよねそれ! ブルーベルは今まで海外の人だったから全然会えないレアキャラだし、ネーベルちゃんは全力で個人プレーだったから! そんな2人が組むなんて僕もびっくりさ!」
まあそうだろうなあ⋯⋯。
「私はさあ⋯⋯今までゲームメインで配信してたんだけど。 周りの人達はみんないろんなことに挑戦する人が多くてさ⋯⋯私もこうなにか挑戦することにしてみたんだよね」
これは本当である。
そしてコラボが多くなることで長時間のゲーム配信をしなくなるという事のカモフラージュでもある。
来年は私⋯⋯高校生になるから配信時間とかも変わっていくと思うし、ちょっと今のうちに変わったとファンに印象付けている計画なのだ。
「では次の摩訶論は⋯⋯ブルーベルはネーベルにとってどんな人? ⋯⋯か。 ⋯⋯うーん? なんだろうねあの人? すごく自由人で羨ましい⋯⋯というかさあ? ベルちゃんのこと見てるとこう自分が変わらないままでいることがつまんないというか⋯⋯もったいないと思うというか? でもまあ大事な友人かな?」
ホントにあの人は良くわからん⋯⋯。
でも楽しそうな人生謳歌しているとは思う。
「ずっとボッチだったネーベルに最近友達が増えて僕も嬉しいよ!」
「なんでイエ朗が嬉しいのさ?」
「そりゃカワイイ×カワイイでメチャカワになるからさ!」
「作家とは思えない語彙力だね⋯⋯」
「⋯⋯普段使いの言葉まで堅苦しいのはヤダ」
【イエ朗はホンマw】
【なんでこんなのでマトモな本が書けるのか?】
【本質的に常識人なんだよなあイエ朗はw】
こうしていくつかの摩訶論を読み進めて⋯⋯そしてついにこれを読む。
「え~と。 時間的にコレが最後の摩訶論かな? それじゃ読むねー!」
⋯⋯なんかドキドキするなあ。
これ思いっきり自作自演だからね。
「⋯⋯えーと、私はVチューバー志望の中学生です。 それで高校受験中ですが大手のVチューバーの募集に応募するか迷っています。 紫音様アドバイスをお願いします!」
「ほう中学生とな!」
【反応するとこそこかよwww】
【若いなあ】
【Vチューバーもメジャーになったよなあ】
さて⋯⋯どう答えるか?
正直ここでどんな返信しようが意味はない。
この摩訶論を読んだことをリスナーに印象付ければいいだけなんだから。
それで来年くらいに柚子ちゃんがVチューバーデビューした後に「あの時はありがとう! おかげでVチューバーに成れました!」みたいな事後報告から親しくなっていく⋯⋯というシナリオなのだから。
「この質問の答えになるかはわからないけど私は⋯⋯Vチューバーに成る前は1人っきりでゲームしかしていなかったんだ。 それでポラリスさんにスカウトされて⋯⋯今ここに居る。 大変なこともあったけど大切な仲間も増えた」
「それって僕の事?」
「⋯⋯まあイエ朗もね」
「イェイ! やったね!」
「⋯⋯だからさ、挑戦することをお勧めするよ。 学生生活とVチューバーの両立は大変だと思うけど」
これは私自身も同じだけどね。
「ここはあんがい優しくて暖かい世界だから⋯⋯キミもおいでよ! それでVチューバーになったら私とも遊ぼうね!」
まったく私も偉そうになったなあ⋯⋯。
いや忘れてたけど私は世界ナンバーワンのVチューバーなんだ。
でもそれは私を導いてくれた多くの人が居たからだ。
だから私も少しくらいそれを返そう。
今度は私が誰かを導く番なんだ。
同時刻、井口家にて。
『──キミもおいでよ! それでVチューバーになったら私とも遊ぼうね!』
私はその紫音様の配信を聞いていた。
「⋯⋯ありがとう紫音様」
私は立ち上がり部屋をでてキッチンに行く。
そこには晩酌中の両親が居た。
「お父さん! お母さん! ⋯⋯私! Vチューバーになる!」
私⋯⋯井口柚子の夢は始まったばかりだ。
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