#275 そして私とアリスケ君は⋯⋯
私とアリスケ君は木下さんに家まで送ってもらった。
「じゃあ二人とも、あまり気にしないようにね」
「はい」
「⋯⋯わかりました」
⋯⋯私と違って思いっきり気にしているのがアリスケ君だった。
まあそれもそのはずで⋯⋯私の受かる予定の役を自分が奪ったと思い込んでるからだアリスケ君は。
それに引き換え私の方はというと⋯⋯別の役に受かったのをアリスケ君に隠さねばならないというこの状況⋯⋯。
それで今まで通りにここで同居を?
どうしよう私達、これから⋯⋯。
そう思いながら私達は無言で帰還する⋯⋯わが家へ。
すると!
「あ! おかえりー! お腹空いた! ご飯! ご飯! 有介ごはん!」
⋯⋯そう大きな駄々っ子が待っていたのだった。
「あ⋯⋯うん、姉さん。 ただいま」
「真樹奈さん⋯⋯夕飯のしたくはすぐにしますから」
⋯⋯すっかり忘れていた、この家主の事を。
「ねえアリスケ君も手伝って⋯⋯ね?」
「うん⋯⋯」
アリスケ君はあまり考えてない様子だけど⋯⋯長年染み付いた習性で料理を作る事になったのだった。
⋯⋯私と一緒に。
「⋯⋯? なんかあったのアンタ達?」
⋯⋯どうやら真樹奈さんは今日の声優オーディションの事を知らないらしい。
まあアニメとか声優とかにあんまり興味の無い人だからな真樹奈さんは。
「それは⋯⋯」
「なにも無かったよねアリスケ君! ⋯⋯ね?」
「うん⋯⋯まあ」
そう、何もなかったのだ今日は。
私はそうアリスケ君と決めたのだ。
だから気にしない気にしない。
でもまあ⋯⋯この能天気な真樹奈さんの雰囲気に助けられたような気がしないでもない私だった。
そしてあまり話題の無い夕飯が終わると⋯⋯。
「ねえ留美⋯⋯ちょいちょい」
「なんです?」
そう真樹奈さんがナイショ話を持ちかけて来た。
「⋯⋯もしかしてバレたのかなアリスケに、私のアレ」
「何やったんです今度は?」
どうやら今の無口なアリスケ君の原因は自分だと思った真樹奈さんだった。
「いや、昼間配信でレトロゲームでもやろうかと思ってアリスケの部屋に勝手に入ったから⋯⋯」
「そのくらいで怒るかしら? アリスケ君が?」
私だったら怒るけど男の子のアリスケ君が怒るとは思わない私だった。
「⋯⋯⋯⋯その時に部屋の中にあったアンタのフィギアのパンツ見てたら⋯⋯さ」
⋯⋯何やってんだろこの人⋯⋯そう思っていると。
「誰だ! これをやったのは!」
そう激おこなアリスケ君が部屋から出てきた!?
「どうしたのアリスケ君!?」
「⋯⋯」
そっぽを向く真樹奈さん。
「これ見てよ留美さん! ルーミアの尻尾が折れてる!」
「⋯⋯あ、ホントだ」
私のフィギアの尻尾が折れてた⋯⋯。
「さて⋯⋯風呂に入るか」
「待てよ⋯⋯姉さん」
「私は無実だ!」
「姉さんしか居ないだろ! 今日の昼間家に居たのは!」
そう真樹奈さんを追い詰めるアリスケ君だった。
「う⋯⋯うぐぐ」
そう私に弁護を求めてくるがどうしろと?
その時だった。
「こんばんは~! 真樹奈~! 遊びに来たよ!」
そう能天気な映子さんがやって来た。
「映子! いいところに来た! 私を助けろ!」
「⋯⋯どういう状況?」
ますますカオスになる状況だった。
そして訳もわからない映子さんになにか弁護出来るはずもなく⋯⋯そして。
「ごめんなさい有介。 私が悪かったです」
そう華麗なるジャンピング土下座を決めた真樹奈さんの姿がそこにあった⋯⋯。
「謝っても取り返しがつかない事だってあるんだよ⋯⋯」
そういつもより引きずったアリスケ君だった。
それは今日のオーディションの事を重ねているのだろうか?
「どれどれ問題のフィギアはこれね?」
そう映子さんが見つめる尻尾の折れたルーミアのフィギア。
「⋯⋯ん! だいじょぶじょぶ! このくらいなら、ちょちょいのちょいで!」
そう映子さんは炙ったホチキスの針を埋め込んで折れた尻尾を繋いでしまった!
「あとはここを溶接して⋯⋯ヤスリがけして⋯⋯着色すれば⋯⋯⋯⋯できた!」
てーれってれー♪
「⋯⋯すごい! まるで見分けがつかない修復だ!」
そうアリスケ君が驚くほどだった。
私も驚いた⋯⋯まさか映子さんにこんなフィギアの修復技術があるだなんて!
「すごい⋯⋯映子こんなことできたんだ⋯⋯」
「えっへん」
それは真樹奈さんも知らない映子さんの特技だったようだ。
「ほら、ウチの遊美ちゃんもいっぱいフィギアのコレクションがあるんだけどね! 私も壊したことがあってね、それで修理を手伝わされたのよね⋯⋯何回も何回も」
映子さんの実家のメイドの遊美さんか⋯⋯。
たしかにあの人オタクだからフィギアも持ってそうだな。
そして映子さんがそれを壊しそうだとも思った⋯⋯。
「これで真樹奈を許してあげてねアリスケ君」
「⋯⋯わかった。 ごめんね姉さん」
「うん、私もわるかったゴメン」
そう仲直りする姉弟だった。
そんなアリスケ君に私は話しかける。
「人の命以外はたいてい取り返しがつくんだから⋯⋯ね。 だからいつまでも気にしないでね」
「⋯⋯うん。 わかったよ留美さん」
この出来事のおかげでようやくアリスケ君も罪の意識から抜け出せたようだった。
「やっぱ今日なんかあったのアンタ達?」
「あー、あのオーディションの結果かあ⋯⋯」
そうゴニョゴニョと映子さんから詳細を聞く真樹奈さんだった。
「え!? マジで!? 有介がリリジェルに!?」
「もういいよそれは⋯⋯」
いけない⋯⋯このままだとまたアリスケ君が暗黒面に!?
「いい有介! いまさらどうやっても過去は変えられない! じゃあ未来に償うしかないじゃない!」
「姉さんが言うと説得力が⋯⋯」
「やかまし! 私の事はどうでもいい! それよか有介が今後どうするかよ!」
「⋯⋯ホントにどうしよう?」
⋯⋯いや、もう何もしなくていいんだけど?
「仕事の責任は仕事で返すしかないんじゃないかしら?」
「それね映子!」
「というと?」
「要するに奪った仕事以上の仕事のチャンスをアリスケ君が作ってあげれば、今回の件はチャラじゃないかしら?」
「なるほどっ!」
⋯⋯なんか話の流れが変わってきたな。
正直困る私だった。
だって私も追加戦士で仕事が決まってるから⋯⋯あんまり時間を割くような別の仕事が増えるのも困るわけで⋯⋯。
「留美さん! なんか僕とできるやりたい事ない?」
「⋯⋯アリスケ君と一緒に?」
そう言われると⋯⋯。
私は最近の事で思っていたことを思い出す。
『アイとアカメは最高のパートナーなのです!』
『だよね~アイちゃん!』
『姫ちゃんと一緒にユニット化か⋯⋯』
『私にもついに相棒が!』
とか⋯⋯騒ぐ人たちがちょっとだけ羨ましい私だった。
「じゃあさ⋯⋯アリスとルーミアでユニットデビューしてくれるのなら⋯⋯」
「ホントに! いいよそんな事くらい! いやむしろこっちから頼みたい事だしそれ!」
「じゃあ決まり⋯⋯ね?」
こうして私とアリスケ君のユニットが決まったのだった。
⋯⋯決まってしまったのだった。
どうしよう⋯⋯。
2か月後にはアリスケ君に実はオーディション落ちてなかったことがバレるのに。
⋯⋯⋯⋯しかたがないその時はその時で。
うん⋯⋯なんか私も償えばいいだけの話で。
まあアリスケ君は優しいからそう無茶な要求はしてこないハズ。
いやでもアリスケ君の頼みなら⋯⋯どこまで許せばいいのか?
そんな不安と期待を抱いたまま私は⋯⋯声優として、そしてアリスケ君とのユニットとして活動を始めることになったのだった。
なお私達のユニット名は『ルミ@リス』である。
そしてファンからは⋯⋯。
【ルミXアリは正義!】
【やはりアリスは受けw】
【ルーミアがご主人様だからねw】
という反応がほとんどだった。
「げせぬ⋯⋯なぜ僕が受けになる?」
「⋯⋯」
正直私も解釈一致だと思ったことはナイショである。
こうして少し変わってしまったが私達の日常は何事もなく続くのだった。
「あの⋯⋯ところで留美さん。 あの時の⋯⋯僕をその⋯⋯⋯⋯」
「なに? アリスケ君?」
この時の私はアリスケ君に告白まがいの事を言ったことなど完全に忘れていたのだった。
⋯⋯忘れていたのだった。
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