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リアルで女声で無口な僕が幻想美少女に!?~美少女Vチューバー達にヴァーチャルワールドでは愛されて困っているボクのゲーム実況録~  作者: 鮎咲亜沙
第10章 幻想の花嫁

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#273 留美の心の光と影

 アリスケ君が行ってしまった⋯⋯リリカルエンジェルの声優オーディションのために。


 ここまでずっとアリスケ君は私の事を気にかけて応援してくれてた。

 だけど⋯⋯私がずっと気にしていたのは⋯⋯。


 私は思い返す⋯⋯さっき指示された今度のリリカルエンジェルの主人公たちの設定とキャラ絵を。


「大丈夫⋯⋯だよね?」


 この時の私は⋯⋯まったくアリスケ君の事を応援などしていなかった。

 自分でも自分が嫌になるくらいに⋯⋯。


 私は祈るようにスマホを握りしめて⋯⋯そこから聞こえる声を聞き続けた。


『それでは最後の方⋯⋯どうぞ』


『は、はい! その、よろしくお願いいたします!』


 元気な女の子の声が聞こえる。


 そうか⋯⋯アリスケ君が最後の審査なのか。

 そして私の時のようにアリスケ君の演技が始まった。


『私! 星野ゆめこ! 14歳で夢はVチューバー!』

『ドリームネットパワー! ドットチェンジ!』

『さあみんな勇気を出して! 私が見てるから!』


 ⋯⋯スマホから声が聞こえる。

 私はもうその声を聞いていなかった。

 そのかわりに見ていたのは視聴者のコメント欄だった。


【────!】【────!】【────!】【────!】【────!】【────!】【────!】【────!】【────!】【────!】【────!】【────!】【────!】【────!】【────!】【────!】【────!】【────!】【────!】【────!】


 いっぱいコメントが流れていた。

 うん⋯⋯だいたい同じコメントだった。

 読まなくてもわかる⋯⋯どんなコメントかなんて。


 だって私も書き込んだから⋯⋯そのコメントを。




【オーディションに本人を参加させるな】




 私がいつも聞いているアリスケ君の声だった。

 演技など全くしてない自然体の⋯⋯。


 でもそれがこの夢見がちでバカっぽい星野ゆめこのイメージにピッタリで⋯⋯。


 世の中には『ハマリ役』という言葉がある。

 どれだけキャリアがあろうが演技力が優れていようが関係なく『このキャラはこの人以外ありえない』そんな役と声優が少なからず存在する。

 私だって声優として勉強してきてそういうのがあるのを知ってはいた。


 もしも自分が受けるオーディションにそういうハマリ役な声優が参加してたら⋯⋯もうそれは不運だったと割り切って諦めようと。

 それにもしかすると自分がそのハマリ役になるかもしれないのだから、それはお互い様だと思うことにしていた。


 ⋯⋯⋯⋯だけどね。


「⋯⋯なんで『今』なの」


 そう呪わずにはいられなかった⋯⋯。


 私の夢は声優、いろんな役を演じたかった。

 その中にリリカルエンジェルがあったとは言えない。

 自分がリリカルエンジェルを演じるというイメージは今まで無かった。


 しかしこのオーディションを受けることになって私は欲が出てしまった。

 このリリカルエンジェルに出演した新人声優の中には大きくステップアップして売れっ子声優になるケースが多い。

 私もそれに続くんだって⋯⋯そんな夢を見てしまった。


 ⋯⋯そして私は見てしまった、いや聞いてしまった。

 アリスケ君の声こそが、このリリカルエンジェルのハマリ役だという事を⋯⋯。


「⋯⋯ズルイよ。 私もそんな声が欲しかった!」


 そんな事ないよ留美。

 ああいう声はデビュー作のイメージが付きまとって仕事の幅が少ないから。


「そんなの演技じゃない! 媚びてるだけだから!」


 そうだよ留美。

 着実にキャリアを積むのは演技力を磨いて努力した声優なんだから、こんなのは一発屋で終わるから。


「私の夢を⋯⋯奪わないでよ⋯⋯」


 私は初めて人を呪った。

 それが大好きなアリスケ君だった事に私は⋯⋯あまりショックを感じなかった。


 そんな自分が⋯⋯大っ嫌いになる。


「こんなオーディションに出るんじゃなかった⋯⋯」


 運命は残酷だ。

 昨日までの何も考えてなかったあの頃に戻りたかった⋯⋯。


 ただアリスケ君を純粋に好きだったころの私に⋯⋯⋯⋯。






 どれだけ時間が経ったのだろうか?


「留美さんただいま!」

「おかえりアリスケ君!」


 今の私は笑ってアリスケ君と会話している。

 これも今まで培った演技力の賜物だ。

 今の私ならたとえ親が死んでも笑っていられるだろう⋯⋯。


「さあ結果はどうなるかな? 留美さん受かってるといいけど⋯⋯」

「そうね」


 ⋯⋯アリスケ君が受かるのは当然として、もしも私にチャンスがあるとすればもう1人の主人公役の方だ。

 そっちは星野ゆめこほど天然バカじゃないから私にもチャンスがあるはず。


 だけど懸念点があるとすればそれは⋯⋯主人公ペアの2人共が私とアリスケ君というVチューバーになるかどうかだ。

 こういう時のメインキャストには新人が多くても、その中にベテランを混ぜる事が多いからだ。




 お願いします神様。

 どうか私をリリカルエンジェルにしてください。


 私⋯⋯アリスケ君を嫌いになりたくないの。

 だからどうか⋯⋯お願いします⋯⋯⋯⋯神様。




『それでは結果を発表します!』


 手に持つスマホから監督の声が聞こえる。


『それでは発表します! 地球人Vチューバー・星野ゆめこ役は──』

「お願いします神様! どうか留美さんを!」


 そう隣で星野ゆめこの声が聞こえる⋯⋯。


『──ナンバー10番、Vチューバーのアリスさんに決定しました!』


 ⋯⋯⋯⋯やっぱりそうだよね。


「⋯⋯え? 僕⋯⋯?」


 なんか絶望的な声が聞こえた⋯⋯震えているアリスケ君の声だった。


「⋯⋯おめでとう、アリスケ君」

「え? え? いや⋯⋯僕はその⋯⋯」


 ⋯⋯大丈夫、私はまだアリスケ君を祝えている。

 だから大丈夫、まだ私は⋯⋯。


「そ⋯⋯そうだよ! 主人公はもう1人居るから! そっちの方が留美さんの声にピッタリだし! はは⋯⋯監督め、じらすの上手いなあー!」


『──そして異世界人Vチューバーの虹原かなみ役は⋯⋯井上莉緒さんです!』


「⋯⋯なんで」


 ショックだった私は。

 でももっとショックを味わったのはアリスケ君の方だった。


 私はこの運命を無言で受け入れる⋯⋯。

 それだけの心の準備はできていたから。


「なんで? なんで? なんで? ⋯⋯なんでだよ! 留美さんだろ! 嘘だろ! 嘘でしょ!? ⋯⋯ふざけんなバカヤロー!」


 スマホを握りしめて叫ぶアリスケ君を見るのが⋯⋯辛かった。

 私は辛かった⋯⋯自分の夢が壊れる以上にアリスケ君が壊れていくのが⋯⋯。


「⋯⋯ごめんなさい」

「⋯⋯」


「ごめんなさい留美さん⋯⋯僕が留美さんの夢を奪ってごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい⋯⋯」


 私は知らなかった。

 夢を奪われた私よりも⋯⋯奪った方のアリスケ君がもっとつらいという事を。


「僕なんか居なければ良かったのに⋯⋯こんな声じゃなかったら良かったのに⋯⋯Vチューバーなんかしなきゃ良かったのに⋯⋯」


 ⋯⋯アリスケ君。


「⋯⋯僕なんかが留美さんのそばに居なきゃ良かったのに!」

「アリスケ君!」


 気がついたら私はアリスケ君を抱きしめていた。


「⋯⋯留美さん?」


「私⋯⋯アリスケ君が大好きだから!」

「⋯⋯え? え?」


「だから居なくならないで⋯⋯ずっとそばに居てよ⋯⋯アリスケ君」


 よかった、これが私の本心で。


 リリカルエンジェルになれなくてもいい。

 声優になれなくてもいい。

 だだ⋯⋯この人のそばにずっと居たい。


 それだけでいい⋯⋯私は。


「アリスケ君、私は夢を諦めない! たとえ今回がダメでも来年のリリカルエンジェルになる事だってできるんだし。 それに声優はリリカルエンジェルだけじゃないし!」


「留美さん⋯⋯」


「アリスケ君⋯⋯私は絶対に諦めない。 夢もアリスケ君のそばに居ることも」


「あ⋯⋯うん」


 放心し照れくさそうなアリスケ君だった。

 もう大丈夫だ私達は⋯⋯絶対に。


 カチャ!


 その時扉が開いてメアリーさんが入ってきた!?


「ワオ! ハグってラブラブでしたか!」

「いやその! 僕と留美さんは!?」


「はい、ラブラブですから私達は!」

「うぇ!?」


 うん⋯⋯この時の私は暴走気味だったと思う。


「さあイチャつくのは後で! アリスはインタビュー待ってるから来てください!」

「あ⋯⋯はい!」


「アリスケ君! ⋯⋯私すぐに追いつくから! 待ってて!」

「⋯⋯うん、留美さん!」


 こうしてアリスケ君がオーディション合格のインタビューへと向かうのを私は見送った⋯⋯。




 そして私は心に誓う。


 待っててねアリスケ君⋯⋯私もそこへ行くから。

 そう思っていたら──。




「芹沢さん」

「渡辺さん?」


 この人は声優指導員の渡辺音響監督だ⋯⋯それがなぜ?


「私に何か?」

「芹沢さん。 ⋯⋯キミに渡すものがある」


 そう大きな茶封筒を渡す渡辺さんだった。

 私はその封筒を開くと──。


「⋯⋯主人公、星野ゆめこの学校のクラス委員長? 学校では真面目な優等生。 でもその正体はゆめこの憧れるカリスマVチューバーだった?」


 それは主人公ペアとはちがうキャラクターの設定資料だった。


「そのキャラは第1話から登場する⋯⋯モブとして」

「はあ⋯⋯」


 私は2枚目の設定資料を見ると──!?


「追加戦士だ! 登場は13話からだ」

「追加戦士!?」


 あらためて食い入るように私はその資料を読む。


 名前は天宮える、主人公ゆめこのクラスの委員長。

 その正体はゆめこの憧れるカリスマVチューバーで⋯⋯13話からリリカルエンジェルに変身して参加する追加戦士枠である。


 ⋯⋯と、書かれている!?


「な⋯⋯なんで!? なんで私に!?」


「⋯⋯もともと今回のオーディションは主役ペアの選出だけだったんだけど、さっきの芹沢さんの演技を俺も監督も聞いててね「よしこの子にしよう」って決まったんだよね」


「渡辺さんと監督が? 私にこの役を?」


「見ての通りその役は序盤からモブとして登場する。 そしてこの真面目そうな子が実はVチューバーだったなんて! というギャップも見せられる演技力の幅が必要な役なんだ」


「⋯⋯それが私?」


「まあ演技力だけなら候補はいくらでもいるけど⋯⋯天宮えるの声はコレだよねって監督と意見が一致してね」


「⋯⋯」


「それでこんな形で急ですまないがこの役を引き受けて欲しい芹沢留美さん。 いや⋯⋯声優ルーミアとして」


 私にピッタリの役?

 私のハマリ役ってこと?

 声優⋯⋯ルーミアとして⋯⋯。


「⋯⋯わかりました。 やります! やらせてください! お願いします!」


 そう私は頭を下げて頼んだ。


「そう言ってくれて良かったよ。 じゃあ収録のテストは3日後だから」

「はい! ⋯⋯そうだ! アリスケ君に教えないと!」


 その時だった。


「ダメだ、芹沢さん!」

「なんでですか渡辺さん?」


「追加戦士の情報はトップシークレットなんだ⋯⋯共演者にもね」

「⋯⋯つまりアリスケ君には言うなと?」


「まあ天宮えるはモブだから普段は別録りで会うことは無いし⋯⋯クローズアップされるのはだいたい9話目だから、え~と⋯⋯2か月後まではアリスにも秘密にしててくれ。 ⋯⋯素人のアリスだと演技にぜったいでちゃうだろうからなあ」


 ⋯⋯うん、そういうのあるって知ってた。

 過去のリリカルエンジェルには追加戦士の登場とそのキャストが共演者にも直前まで秘密なのは⋯⋯。


「じゃあ、そういう事だからよろしく」

「⋯⋯はい」


 どうしよう⋯⋯私これからアリスケ君とどう過ごせばいいのよ2か月間も⋯⋯。


「あ! それから!」

「まだ何かあるんですか?」


「⋯⋯おめでとう、芹沢さん」

「ありがとうございます⋯⋯」


 そう言い残して渡辺さんは帰って行った。


『ボクみたいなド新人がリリカルエンジェルになるなんて、なんか申し訳ないというか!』

『今回はこのような大役に選んでいただき感謝します。 精いっぱい虹原かなみを演じさせていただきます』


 ⋯⋯そう机の上に置きっぱなしだったスマホから選ばれた声優たちのインタビューが聞こえていた。


「アリスケ君の⋯⋯アリスの声だ」


 そう⋯⋯私の大好きな人の声だ。

 そのスマホを抱きしめる私⋯⋯。


「アリスケ君、私⋯⋯追いついたから⋯⋯」


 たとえ一瞬でも憎んだ人。

 それでも大好きで大切な人。


 そして身勝手で醜い⋯⋯私。


 私は今日という日を絶対に忘れないだろう。

 声優ルーミアになったこの日を。

 そして絶対に言えない秘密がアリスケ君にできたこの日の事を⋯⋯。


 それでも私はそばに居たい⋯⋯大切で大好きな、あなたの隣に⋯⋯。

お読みいただき、ありがとうございます。

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