努力しない勇者志望、人と川の不満を解決する
川の匂いは、遠くからでも分かった。
リュシエルが「水が暴れた跡がある」と言った時、ライネルは嫌な予感しかしなかった。
そして、その予感はだいたい当たる。
東へ半日ほど歩くと、道の先に低い谷が見えてきた。
谷底には村がある。
藁屋根の家々。
小さな畑。
川に沿って続く細い道。
一見すれば、のどかな山あいの村だった。
ただし、家々の壁には泥の線が残っていた。
低いところほど濃い。
柱の半分ほどの高さまで、茶色い跡がついている家もある。
それは、かつて水がそこまで来たという印だった。
「……洪水か」
ライネルは低く呟いた。
アルは立ち止まり、村全体を見渡した。
川は今、静かに流れている。
細く、透明で、何も悪くない顔をしている。
だが、岸辺の草は倒れ、川沿いの石垣はところどころ崩れていた。
リュシエルは鼻を鳴らす。
「この川、怒ってたわけじゃないわね」
「川が怒るのか?」
ライネルが聞く。
「怒るというより、行き場をなくして暴れた感じ。水は下へ行きたがる。なのに、この村がその道を塞いでる」
アルの目が光った。
ライネルはその顔を見て、即座に言った。
「やめろ」
「まだ何も言ってないよ」
「言う前から分かる。お前は今、川をどうにかしようとしている」
「どうにかじゃなくて、話を聞きたいなって」
「川の?」
「村の」
「少し安心した」
「そのあと川も見る」
「安心を返せ」
村の入口に近づくと、数人の村人がこちらに気づいた。
警戒した顔。
疲れた顔。
そして、諦めに近い顔。
先頭に立った中年の男が、三人を見た。
「旅の方か」
「はい。通りがかりです」
アルはいつものように頭を下げた。
「川の跡が見えたので、少し気になって」
男は苦く笑った。
「気になるどころじゃない。毎年、大雨のたびに流される。去年は家が二軒。今年は倉が一つ。次は村ごと持っていかれるかもしれん」
「堤は?」
ライネルが聞く。
「何度も積んだ。だが、積むたびに別の場所が破れる」
「上流は?」
「狭い谷だ。雨が降れば一気に来る」
アルは川の方を見た。
細い流れ。
だが、谷の形からすると、大雨の時だけ一気に水量が増える川なのだろう。
普段の顔と、暴れる時の顔が違いすぎる。
「治水工事を頼んだことは?」
ライネルの問いに、男は首を横に振った。
「頼んだ。見積もりも出た。だが、石も人夫も足りん。領主に願い出ても、順番待ちだと言われた」
「順番待ち」
アルが呟く。
男は川を見た。
「水は順番を待ってくれん」
その言葉に、誰もすぐには返せなかった。
◇
まず、アルは村を歩いた。
水がどこまで来たのか。
どの家が何度も浸かっているのか。
どの道が削られ、どの畑が残っているのか。
ライネルは地面を見た。
土の固さ。
石の積み方。
川岸の崩れ方。
リュシエルは匂いを嗅いだ。
水の流れ。
泥の古さ。
山から吹く風の湿り気。
村人たちは最初、三人を遠巻きに見ていた。
だが、アルが一軒一軒に「ここまで水が来ましたか」「その時、どちらから流れてきましたか」と聞いて回るうちに、少しずつ集まってきた。
「こっちの道から泥が来た」
「いや、先に裏の水路が溢れたんだ」
「うちの鶏小屋は二回流された」
「畑はあっちだけ残った。なぜかあそこだけ泥が浅い」
話はばらばらだった。
だが、アルは地面に棒で線を引きながら聞き続けた。
「水は、こう来た?」
「いや、こっちだ」
「じゃあ、この家の裏を回った?」
「そうだ。そこから広場へ」
村の中央の広場に、簡単な地図が描かれていく。
家。
畑。
川。
泥の線。
流された場所。
残った場所。
やがて、線が一つの形を作った。
川は村を襲っているのではない。
昔の川筋へ戻ろうとしていた。
アルは地図を見下ろして言った。
「この村、川の古い道の上にありますね」
村人たちは顔を見合わせた。
「古い道?」
「はい。たぶん昔は、川はこっちを流れてました」
アルは村の東側、今は草地になっている低い場所を指した。
「今の川筋は、少し無理に曲がってる。普段は流れるけど、大雨になると水が楽な道へ戻ろうとする」
ライネルも頷いた。
「地形を見る限り、あり得る。村の裏の低地が旧河道だ。そこを塞いで家と畑を作った。だから水が戻るたびに被害が出る」
村長らしき老人が、顔を強ばらせた。
「つまり、わしらが悪いのか」
「悪いわけじゃありません」
アルは即座に言った。
「知らなかっただけです」
老人は黙った。
アルは続ける。
「川は悪くない。村も悪くない。問題は、川の行きたい道と、人の住みたい場所が重なっていることです」
リュシエルは少し面白そうにアルを見た。
「じゃあ、どうするの」
「どちらかに譲ってもらう」
「川に?」
「うん」
ライネルが眉をひそめた。
「川に譲らせるのか」
「逆です。人が少し譲る」
村人たちの顔色が変わった。
「まさか、村を捨てろと言うのか!」
若い男が声を上げる。
「ここは祖父の代からの土地だ!」
「簡単に出て行けるか!」
怒りが広がる。
ライネルは前に出かけたが、アルはそれを止めた。
「捨てるとは言ってません」
「なら何だ!」
「低い場所を、川に返します」
広場が静かになった。
アルは地図に線を引いた。
「この村の全部ではありません。水が毎回通る場所だけです。家を二軒、倉を一つ移す必要があります。畑も一部はやめる。その代わり、そこを遊水地にします」
「遊水地?」
「大雨の時だけ、水を逃がす場所です。普段は草地。家畜を入れてもいい。水が来たら、そこに溜める。村の中央には入れない」
ライネルが補足する。
「つまり、川を完全に止めるのではなく、溢れる場所を決めるわけだ」
「はい」
アルは頷く。
「水は止めると怒ります。でも、行っていい場所を用意すれば、少し大人しくなります」
リュシエルが笑った。
「川のしつけね」
「しつけというより、お願いかな」
「水にお願い」
「水は意外と聞いてくれるよ。低い方へ行くから」
「それは聞いているのではなく、性質だ」
ライネルが言った。
アルは笑う。
「性質を知って頼めば、だいたい聞いてくれるのと同じです」
◇
反対は強かった。
当然だった。
家を動かせと言われて、はい分かりましたとはならない。
とくに、川沿いの二軒の家の住人は怒った。
「先祖代々ここに住んでるんだ!」
「移れと言うなら、金を出せ!」
「よそ者に何が分かる!」
アルは反論しなかった。
ただ、地図の横に新しい板を立てた。
《洪水被害表》
一年前 鶏小屋流失 一
去年秋 倉庫浸水 一
今年春 家屋半壊 二
今年夏 畑流失 三枚
次に、別の欄を作る。
《移設に必要なもの》
家二軒の移設
倉一つの移設
旧河道の掘り直し
柳の植え付け
避難道の整備
若い男がそれを見て吐き捨てた。
「こんな板に書いたって、家は動かねえ」
「はい。書くだけでは動きません」
「なら何の意味がある」
「何を動かす必要があるか、見えるようになります」
アルは板を指した。
「見えない不安は大きすぎます。でも、書くと一つずつになります」
ライネルは小さく頷いた。
「家二軒。倉一つ。水路一本。柳。避難道。確かに、全部まとめて考えるよりは小さい」
「小さくすれば、人は動けます」
リュシエルは退屈そうにしながらも、耳だけはちゃんと向けていた。
「また人間を分解してるのね」
「問題を分解してるんだよ」
「似たようなものじゃない」
アルは次に、白石と黒石を置いた。
「決めるのは村のみんなです」
村長が眉をひそめた。
「石で決めるのか」
「はい。ただし、今回は一回で決めません」
「どういうことだ」
「今日は、移設に賛成か反対かではなく、“調査を続けるか”だけ決めます」
村人たちがざわめく。
「いきなり家を動かす話ではありません。まず、旧河道を掘ってみる。水が本当にそこを通るか、小さく試す。反対の人は黒石を置いてください」
ライネルが感心したように言った。
「段階を分けたな」
「大きな決断は、人を固まらせます。小さな決断なら動けます」
投票が始まった。
白石。
黒石。
白石。
黒石。
結果は、白がやや多かった。
調査継続。
まだ移設決定ではない。
それでも、村は一歩進んだ。
◇
翌朝。
旧河道を掘る作業が始まった。
場所は村の東側。
草に覆われた低地。
リュシエルが言った通り、そこには水の匂いが残っていた。
ガロたち《宵の見張り》も手伝った。
大男ガロは鍬を振るい、ミナは作業用の布袋を縫い、チトは泥の深さを記録する。
「盗賊から土木作業員になってるな」
ライネルが言うと、ガロは笑った。
「盗むより腰にくる」
「その方が健全だ」
「給料が出るなら、なお健全だ」
村の若者たちも加わった。
最初は不満げだった者も、掘るうちに表情が変わっていく。
土の色が違った。
下から湿った砂利が出てきた。
丸い石が並ぶ。
明らかに、昔そこを水が通っていた跡だった。
「……本当に川の道だったのか」
誰かが呟いた。
アルは頷いた。
「川は忘れてなかったんですね」
リュシエルはその言葉を聞いて、少しだけ目を細めた。
「水はしつこいもの」
「人もね」
「あなたもね」
「僕はわりとすぐ寝るよ」
「寝ても起きてまた拾うでしょう。厄介ごとを」
「それは否定できない」
◇
問題は、掘っただけでは水が流れないことだった。
旧河道の入口に、大きな土砂の詰まりがある。
そこを抜けば、大雨の時に水が東の低地へ逃げる。
だが、今の人手で無理に掘れば崩落する危険があった。
ライネルは斜面を見て言った。
「危ないな。土が締まっていない。人が入って崩れたら終わりだ」
「では、わたしの出番ね」
リュシエルが前に出た。
ライネルは即座に言う。
「山ごと消すな」
「消さないわよ」
「井戸の時より規模が大きい」
「分かってる。水の道を起こすだけ」
アルは地図を見ていた。
「全部開けなくていいよ」
「全部じゃない?」
「うん。普段の川を変える必要はない。大雨の時だけ逃げる道がほしい。だから、低い切れ目を作るだけ」
リュシエルは少し考えた。
「つまり、普段は眠っていて、増えた時だけ起きる道」
「そう」
「あなた、本当に眠る話ばかりね」
「大事だから」
リュシエルは笑った。
「分かった。川の寝床を作る」
彼女は旧河道の入口に立った。
黄金の瞳が細くなる。
空気が冷える。
前回の井戸よりも、ずっと広い範囲に霜のような光が走った。
村人たちは息を呑んで下がる。
ライネルは全員を退避させ、ガロたちも子どもを遠ざけた。
リュシエルは片手を上げる。
「氷の楔、三つ」
声は静かだった。
「表土は残す。根は殺さない。水の道だけ、開ける」
指先が下りる。
ごん。
地面の奥で音がした。
続いて、低く長い響き。
旧河道の入口の土が、崩れるのではなく、ゆっくり沈んだ。
固まっていた土砂の一部が割れ、狭い溝が現れる。
そこへ、今の川からほんの少し水が流れ込んだ。
細い。
けれど、確かに流れた。
「来た!」
チトが叫んだ。
水は旧河道を辿り、東の低地へゆっくり流れていく。
村人たちは呆然と見ていた。
暴れる水ではない。
導かれた水だった。
「これで、大雨の時はこっちへ逃げる」
ライネルが言った。
「ただし、これで終わりではない。草を刈り、柳を植え、石で護床を作る必要がある」
「あと、遊水地には家を建てない」
アルが続けた。
「倉も駄目です。畑も、流れていい草だけにしましょう」
移設に反対していた男が、旧河道を見つめたまま言った。
「……うちの家は、あの線の内側か」
誰も答えなかった。
答えは地図に出ていた。
彼の家は、毎回水が通る場所にあった。
男はしばらく黙っていた。
そして、悔しそうに息を吐く。
「分かった。移す」
村人たちが驚いて彼を見た。
「ただし、手伝え。俺一人じゃ無理だ」
ガロが斧を担いで笑った。
「家を盗むより、動かす方が健全だな」
「盗むな」
ライネルが即座に言った。
ミナが手袋をはめ直す。
「柱の縄なら縫えるよ。補強布も作る」
チトが板に書き込む。
移設家屋 二
手伝い人数 十二
白石 保留
黒石 保留
アルはそれを見て頷いた。
「いいですね。決まったことから書いていきましょう」
◇
三日かけて、村は動いた。
家二軒は、完全に新築とはいかない。
だが、柱を外し、壁をばらし、高い場所へ組み直した。
倉は村の中央より少し上の斜面へ移した。
旧河道には、低い石組みが作られた。
流れを邪魔しないための、あくまで水の案内役である。
東の低地には、杭が立てられた。
《ここより下、家屋禁止》
《大雨時、遊水地》
《晴天時、牧草利用可》
村人たちはその看板を複雑な顔で見た。
自分たちの土地を手放したような寂しさ。
だが、同時に、ようやく水の通り道が見えた安堵もあった。
村長はアルに言った。
「川を止めることばかり考えていた」
「はい」
「だが、止められんものもあるのだな」
「止めるより、通した方が楽なものもあります」
「人もか」
アルは少し考えた。
「たぶん」
村長は笑った。
「お前さんは、変な勇者だな」
「志望です」
「では、変な勇者志望だ」
「それなら合ってます」
ライネルは遠くから二人を見ていた。
その横に、リュシエルが立つ。
「ライネル」
「なんだ」
「アルは、勝ったの?」
「何に」
「川に」
ライネルは少し考えた。
「勝ってはいないな」
「負けたの?」
「それも違う」
「じゃあ何?」
「……話をつけた、という感じだ」
リュシエルは川を見た。
細い流れが、旧河道の入口で静かに分かれている。
「川と話をつける人間」
「正確には、地形を読んで村人を説得しただけだ」
「それを話をつけるって言うんじゃないの」
ライネルは否定しなかった。
◇
夜、村では小さな火が焚かれた。
宴というほどではない。
だが、移設を終えた家の前で、村人たちは湯を飲み、薄焼きパンを分け合った。
アルは遊水地の端に座っていた。
隣にリュシエルが来る。
「褒めなさい」
「今日はリュシエル、大活躍だったね」
「雑」
「ええと、今日のリュシエルは、川を無理に曲げずに、必要な分だけ道を開けてくれた。すごく繊細だった」
「繊細」
「うん。力が大きい人が、小さく使うのは難しいから」
リュシエルは満足そうに鼻を鳴らした。
「分かってるじゃない」
「あと、村の子どもが近づいた時、ちゃんとしゃがんで話してた」
「……見てたの?」
「見てた」
「余計なところを見るわね」
「いいところだったから」
リュシエルは黙った。
少ししてから、低く言った。
「竜の姿だと、みんな逃げる」
「うん」
「人の姿でも、怖がられることはある」
「うん」
「でも、今日は逃げなかった」
「リュシエルが逃げなくていいようにしてたからだよ」
「……また、そういう言い方をする」
「本当のことだよ」
「なお悪いわ」
そのやり取りを少し離れたところで聞いていたライネルは、また胃を押さえた。
「竜の情緒教育まで始まった……」
ガロが隣で笑った。
「大変だな、あんた」
「本当にそう思うなら、代わってくれ」
「竜の世話は無理だ」
「俺も無理だ」
その時、アルの古書がまた勝手に開いた。
ライネルはもう驚かなかった。
焚き火の光の中、余白に文字が滲む。
《水は低きを求め、人は安きを求める。いずれも道を与えれば争わず》
ライネルは小さく息を吐いた。
「……今度は川まで教訓にしたか」
アルはその文字に気づかず、すでに眠そうにしている。
◇
翌朝。
村の東側に、新しい看板が立った。
《曲川遊水地》
その下に、村の子どもが勝手に書き足していた。
《アル川》
アルはそれを見て固まった。
「え、僕の名前?」
村の子どもたちが笑う。
「川を曲げたから!」
「正確には旧河道を開いただけだ」
ライネルが訂正する。
「でもアル川!」
「違う。正式名は曲川遊水地だ」
「アル川!」
子どもたちは譲らない。
リュシエルは腕を組み、当然のように頷いた。
「いいじゃない。アル川」
「恥ずかしいよ」
「当然の名誉よ」
「水はリュシエルが開けたんだけど」
「わたしは褒められればいい」
「潔いな」
ライネルが呟いた。
村長はアルに頭を下げた。
「ありがとう。これで、次の雨を少しは待てる」
「少し、ですね」
「そうだ。完全に安心はできん。だが、怖がるだけではなくなった」
「それが大事です」
村人たちは、すでに次の作業を始めていた。
柳の若木を植える者。
避難道の草を刈る者。
遊水地の杭を打ち直す者。
白石と黒石の板には、こう書かれている。
《川番》
大雨前 旧河道確認
大雨後 土砂確認
月一回 草刈り
柳の根張り確認
黒石理由 詰まり/崩れ/無断耕作
白石理由 流れ良好/被害なし
アルはそれを満足そうに見た。
「いいですね。川にも番がついた」
「川番か」
ライネルが言う。
「盗賊は見張り、井戸は井戸番、川は川番。どんどん役目が増えるな」
「役目があると、人は少し楽になります」
「仕事が増えているのにか?」
「何をすればいいか分からないよりは、ずっと楽です」
ライネルは何も言わなかった。
それは、否定できない言葉だった。
◇
三人が村を出る頃、空には薄い雲が広がっていた。
雨の気配はまだない。
だが、もし降っても、村はもうただ怯えるだけではない。
川の道を知った。
逃がす場所を作った。
見張る役目も決まった。
自然を征服したわけではない。
ただ、少し付き合い方を覚えただけだ。
ライネルは地図を広げた。
「今度こそ、街へ向かうぞ」
「冒険者ギルドですね」
「そうだ。次こそ本当に寄り道はなしだ」
リュシエルが空を見上げた。
「北の方に、変な臭いがするわ」
ライネルは地図を握りしめた。
「言うな」
「役人の馬車ね。あと、怒った人間の匂い」
アルの目が光った。
「役人?」
「アル」
ライネルは低い声で言った。
「その顔をやめろ」
「まだ何も」
「した。完全に面白そうな顔をした」
「役人の馬車が怒った人たちに囲まれてるなら、見に行かないと」
「なぜそうなる」
「怒りは、放っておくと燃えるから」
リュシエルが翼を伸ばし、少し楽しそうに笑う。
「今度こそ焼く?」
「焼かない!」
ライネルが叫ぶ。
アルは東ではなく、北の道を見た。
「見るだけです」
「お前の見るだけは、だいたい制度が増える」
「いいことじゃない?」
「俺の胃には悪い」
風が吹いた。
背後では、曲川遊水地の草が揺れている。
水は低きへ流れ、人は少しでも楽な方へ歩く。
アルノルト・レーヴェルトは、その流れを止めない。
ただ、流れていい道を作る。
三人はまた、予定とは違う方へ歩き出した。




