―休憩からの徹夜―
今回は5000文字です。
「じゃあ、選ばせてやろう。初等科の魔法史をやるか中等科の魔法学をやるかどっちがいい。」
「ディルフェルト様、それよりももう夕ご飯の時間です。本日は寮に帰らなくてもよろしいのですか?」
「いいんだよ。食事はここの食堂で取るから。」
「でしたら、今の時間であれば空いているので今のうちに食べておいたほうがいいかと。ピーク時はご飯の受取に1時間かかるという噂もありますし。」
「そうか、じゃあご飯にするか。お前ら待ち時間にもしっかり勉強するために魔法史の簡単な本を読んでおけ。」
かくして一同は食堂に行くのだった。しかし、全員変装を忘れていた。
―ざわざわ
―ひそひそ
―キャァキャァ
「ん?なんか騒がしいな。」
「そうですね。何故でしょう?」
みなが不思議がっていると何人かの女子生徒が廊下を塞いだ。
「あ、あの。ガルシア様、一緒に食事しませんか?これから食堂に行くのでしょう?」
「すみませんが私は婚約者がいるので一緒に食事をすることはできません。他をあたってください。」
―おい、あの女子生徒たち勇気あるな
―道を塞ぐなんて不敬に思われても仕方ないぞ
「じゃ、じゃあディルフェルト様はどうでしょうか?婚約者もいらっしゃいませんよね?」
―え?ディルフェルト様?
―あの銀髪の方が?
―かっこいいわ
「すみませんが私たちは急いでいるのでこれで。」
「ま、待ってください。せめてテストの時のダンスのパートナーをお願いしたいのですが⋯⋯」
「もう、パートナーは決まっています。それに、SSSクラスの皆を捕まえるのは不可能ですよ。もう皆パートナーを決めているので。それじゃ」
そのまま素通りしていった。
―クスクスクス
―見て、あの無様な姿
―身の程知らずにも程があるわ
「ディルフェルト様。今気づきましたが、変装忘れてますね。」
「言うな。完全に俺の落ち度だ。それよりオリヴァー、いい加減に婚約者を決めたらどうだ?引く手あまただろうに。」
「その言葉をそのまま返します。いい加減に婚約者を決めたらどうですか?ディルフェルト様。」
―それにしてもディルフェルト様のパートナーって一体誰なのかしら
―そうよねぇ、婚約者はいないはずだし
―その身の程知らずを見つけましょう
その会話を聞いていたディルフェルトは立ち止まり振り返った。
「聞き捨てならんな。SSSクラスに所属している領主一族が身の程知らず?たとえ相手が養女であったとしても許される発言ではないぞ。」
「ま、まさかお相手って、メイ・クレシェラ・アルデンティ?」
「そうだが?俺に対する悪口を言うくらいなら見逃したが、友人が侮辱されるのは看過できん。以後、発言には注意するように。」
「良かったですね。貴女たちは。相手がディルフェルト様でなければ謹慎処分でしたよ。」
「オリヴァー」
「申し訳ありません。出過ぎた真似でした。」
「わかったならいい。食堂まで案内しろ。」
「はい」
―食堂にて
「完全にレストランだな。」
「こんなとこ一生行けないと思ってた。」
「エリオット緊張しすぎだ。フォーティス、お前は入口に突っ立つな。」
「オリヴァー様方。席の用意はできております。こちらへどうぞ。」
「オリヴァー、ここ普通の食堂じゃないだろ。」
恭しく出迎えてきた給仕に案内されながらディルフェルトが聞く。
「人目を気にしたくないのであればと予約させていただきました。SSクラス以上の生徒のみ利用可能な食堂です。」
「それはいいな。エリオット、フォーティス。作法はあまり気にするな。ここに生徒はほとんどこないから。」
「お、おう」
「は、はい。でも、床とか色々汚せないです。」
「そもそも汚すな。」
「あ、おい、フォーティス。勝手に座るな。」
「え?席に案内されたんだよな?」
「はぁ、そうだった。お前ら平民なんだった。こういう場所では給仕にイスを引いてもらってから座るんだ。」
「給仕がいるってことは見られながら食べるってこと?」
「それはご安心ください。料理をすべて出してもらったら下げさせるので。なにかあればベルを鳴らせばいい話ですしね。」
「絶対に貴族にはなりたくない。」
「エリオット、お前、作法の選択授業とっているじゃねぇか。」
「終わった。」
「ここで教えるのがいいでしょうね。作法は実技テストでしたし。」
「そうだな。あとイス引いてもらってんだから早く座れ。」
「フォーティス」
「何だ?ガルシア。」
「やり直せ。近衛騎士になりたいのなら作法をちゃんとしてもらわないと困る。」
強制指導が入った。渋々座り直すフォーティスだった。
「で、何食べる?」
「何があるんだ?」
「こちらがメニューになります。どうぞ。」
「へぇ〜いっぱいあるんだな。」
「魔鴨のふぉ、フォア、⋯⋯」
「フォアグラ。」
「フォアグラってなんだ?」
「食べたらいいじゃねぇか。滅多に食べれるもんじゃないし。」
「美味しいのか?」
「美味しいぞ。高級食材だし。」
「⋯⋯」
「エリオットさんどうされました?」
「角鮫のキャビアってなんですか?」
「高級食材。」
「鮫の卵。」
「⋯⋯やめておきます。食費が馬鹿にならない。」
「?気にしなくていいぞ。頑張っているご褒美として奢るから。」
金銭感覚が狂ってる領主一族。
「ディルフェルト様、更に遠慮されてしまいますよ。ついでに私も
奢ってください。」
「清々しいほど図々しいな。オリヴァー。」
「ディル、俺も奢って。」
「お前にだけは奢らん。」
「ケチ」
「お前も領主一族だろ。それとエリオット。無難な料理としては魔牛のビーフカレーがいいと思うぞ。」
「じゃあそれにします。」
「俺も」
(さらっと高級食材使っているやつおすすめしたよこいつ)
(可哀想なお二方。魔牛は品質を保つことが難しいので滅多に出回らない食材なのですが⋯⋯いつ教えるのでしょうね)
「ディルフェルト様。私はグリフォンの卵乗せドリアを食べたいのですが。」
「まだ奢ってもらうつもりだったのかよ。」
「当然です。お手伝いしているので」
「わかったよ」
根負けして3人分奢る羽目になったディルフェルトだった。
「なんで俺は奢ってくれねぇんだよ。」
「オリヴァーは俺の側近だからだ。同じ領主一族のお前とは違う。」
「絶対やけ食いしてやる。」
「食べれるのか?」
「食べれるかじゃない。食べるんだよ。」
「何を?」
「グリフォンのフォアグラ。」
「いいな。俺は怪魚のムニエルにするわ。」
「お前が一番安いの頼んでんじゃねぇか?」
「海のかいじゃなくて怪奇現象のかいだぞ。当たり前だがれっきとした高級食材だ。」
「そうですね。少なくとも魔牛よりかは高級ですね」
「え?魔牛って高級なんですか?」
「そうだぞ。味わって食えよ」
「味分かるかな」
料理がやってきた。しかし、運んできた給仕は悲しそうな顔をしていた。
「⋯⋯」
皆無言である。そして全員の料理を並べ終えると給仕は下がったが、やはり背中から哀愁が漂っていた。
魔牛のビーフカレー2つ。
怪魚のムニエル
グリフォンの卵乗せドリア
グリフォンのフォアグラ
絶対に学院で出して良い料理ではない。それこそ領主会議のときに出すべきだ。
「⋯⋯それでは、ごゆっくりお過ごしください。」
「ディルフェルト様、私たち何か悪いことしましたか?」
「してないだろ。高級食材使った料理頼んだだけだぞ」
それが原因です。給仕は声に出そうになるのを必死に堪えた。
(今日の楽しみは魔鴨のフォアグラだけ。それも充分美味しいんですよ。美味しいんですけど、グリフォンのフォアグラが食べたかった)
学院の予算管理をしていたライゼクスはまだ知らない。厨房の人間が誰も頼まない高級食材を購入しまくっているせいで修理費に回せる予算が足りないことを。
「美味かったな」
「ですね」
「そうだな」
「今までで一番美味しかった。流石高級食材。」
「また食べたいけど⋯⋯」
「お金が⋯⋯」
「それじゃあこうしないか?お前らが魔法学と魔法史、どちらも80点以上取れたらまた奢ってやる。どうだ?」
「乗った。」
「やってやりますよ。」
チョロい。ちょろすぎる。このあと、徹夜が控えているというのに、二人の目は獲物を見つけた獣のようにギラついていた。
「よしじゃあ、勉強の続きするか。」
「「はい!」」
このあと二人は猛スピードで知識を吸収した。
(この二人、勉強できないのではなくモチベーションがないと何もできないタイプなのでは?)
オリヴァーの予想は的を射ていた。
そして戻ってきた個室にて。
「魔法陣を魔法機に刻む上での注意点は?」
「魔力を絶対に流さない。」
「魔力を流さないようにするには?」
「魔力を通さない素材の手袋をする。」
「二人とも正解だ。魔法学の中等科の範囲は終わりだ。魔法史の初等科の範囲をやるぞ。」
3人の光景を見てガルシアとオリヴァーは呆然としていた。
「ディルって飴と鞭の使い方うまいな。」
「使い方が上手いと言うよりもあの二人がチョロ⋯⋯扱いやすすぎるだけです。」
「今チョロいっていいかけてなかったか?」
「何のことでしょう?私は扱いやすいと言ったんですよ。ガルシア様。」
「そ、そうか。それよりもオリヴァー先輩は勉強しなくてもいいのか?」
「ディルフェルト様と一緒にしますので問題ありません。ガルシア様こそどうなんですか?」
「俺は今やっているが、わからないところがあってな。」
「そうですか。では、私が教えましょうか?」
「お願いします。」
二組に分かれての徹夜勉強会が幕をあげた。
―そして3日後。
「なんとか範囲まで終わった。」
「お疲れ様です。ディルフェルト様。しかしペンが20本以上折れていますね。」
「まぁいいんじゃないか。ディルはよく耐えたと思うしな。」
「やる気はあるのに学力がほぼ追いついてないから苦労した。俺自身の復習にもなったからいいが。」
「スピィ〜」
「ぐぅぐぅ」
「ディルフェルト様。今度の誕生日の贈り物はペンのセットでよろしいですか?」
オリヴァーの視線の先にはディルフェルトが愛用していたペンの残骸が山を築いていた。
アルファルドからもらったペン。
書き味が気に入っていたペン。
持ちやすいペン。
それらすべてが今目の前で寝ている二人の珍回答によって折られたのだ。だからディルフェルトは悲しそうに
「そうしてくれ。俺のペン⋯⋯俺の⋯⋯あぁ」
哀愁が漂っていた。
「それでディルフェルト様。今日が個室の貸し出し期限ですよね。このあとはどこで他の教科を教えるんですか?」
「寮で教えようと思うが、オリヴァーが入れないな。アロン先生にお願いしよう。」
「その前に3人を寮まで運ばないといけませんね。」
「3人?」
振り返るとそこにはさっきまで起きていたのに糸が切れたかのように寝落ちしているガルシアがいた。
「ディルフェルト様は大丈夫なんですか?」
「あぁ、あと一週間寝なくてもいける。」
「じゃあ運んできてください。私は荷物まとめて泊まる準備と許可をもらってきます。」
「あぁ」
「待っているから早く来いよ。」
「はい」
そして寮に帰ってきたディルフェルトは空中に3人を浮かせ、その真ん中で本を読みながらソファの上に3人を放り込んだ。
「よっと」
「あ、おかえり。遅かったね。」
「ただいま」
本を読みつつ挨拶を交わすメイとディルフェルト。お互い相手のことを見ようともしない。
「ディルフェルト様許可をもらってきましたってなんで寝てないんですか。」
「3日遅れた分をやってる。」
「⋯⋯ディルフェルト様。」
「なんだ」
「今すぐ休んでください。今すぐに。」
「え?でも⋯⋯」
「ディルフェルト様?」
オリヴァーは青筋を浮かべ、微笑んでいた。
「ディル」
「何だメイ?」
「この人だれ」
「⋯⋯寝てくるわ」
説明無しに面識のない二人が取り残された。
「⋯⋯」
「⋯⋯」
しばらく無言で見つめ合う二人。
「オリヴァー・レイゼルク。ディルフェルト様の側近候補です。」
「メイ・クレシェラ・アルデンティ。ディルの友達。」
「そうですか。」
「うん。ねぇ貴方も寝たほうがいいよ。隈出てる。このソファ使っていいから。じゃあ」
「お気遣いありがとうございます。メイ様。」
「いいよ。」
オリヴァーはだんだん薄れる意識の中で思った。
(可愛かった。せめてクラスか身分が同じだったら良かったのに)
オリヴァーの初恋はメイだった。
感想、アドバイス等ありましたら、お知らせ下さい。できる限り改善して行きます。




