―《怠惰》の大罪人―
《憤怒》が殺気に殺気を返す。
《暴食》が初めて感じた恐怖に恐慌状態に陥る。
《色欲》が面白くなさそうに警戒する。
「何故来たんです。今回貴方は邪魔しないと言ったではないですか。」
彼は答えない。ただ《憤怒》を見つめる。フードを被っているから表情も見えない。彼の放つ殺気だけが辺り一帯に充満していた。
「なぁ、今回僕は、僕の大事なものに手を出さないなら作戦は見逃してもいいよって言ったんだ。」
彼が立ち上がる。そしてディルフェルトに近寄った。
「おい、何をす、る⋯⋯」
フォレストが止めようとする。しかし視線すら向けず威圧だけを発した。そして、外傷の有無、呼吸、異常なところはないか丁寧に調べた。
「うん。外傷もない。呼吸も正常。落ちた時の衝撃で気を失っただけだね。」
そしてようやく彼は《憤怒》に向かって喋った。
「ねぇ、ラビア。僕は“殺すな”じゃなくて、“傷つけるな”って言ったんだ。それはあの子だけじゃないし、ディルくんや僕が大事だと認識したもの全部に適応されるんだ。どういう意味かわかるよね?それにやっぱりあの子が悲しむと思ったから、魔王様に介入許可、もらってきたんだよね。」
大罪人三名は一斉に青ざめた。まだ、主目的である領主どころか、代表選手ですら一人も殺せていない。《怠惰》に邪魔されたから。と言う言い訳は通用しない。《怠惰》はかなりの余裕を持って流石に一人は殺せているだろう時間にやってきたのだ。
「いつからここにいた。」
「そんなんも気づけなかったの?ラビアが『紋付き』の話をしたあたりからいたけど?君等弱すぎんだろ。」
《色欲》の質問に心底軽蔑する視線を向ける《怠惰》の視線はやはり《憤怒》に向けられていた。
「⋯⋯」
「なんにも言わないんだ。」
「あ、あ、あぁ⋯⋯」
「まぁいいよ《怠惰》」
《憤怒》の目から怯え、怒りなど様々な感情が消えていた。代わりに、《怠惰》の命令にはどんなことにも従う忠誠心を植え付けられていた。
「ラビア、飛行魔法を解除して受け身を取らず落ちて来なさい。」
《憤怒》はその理不尽極まりない命令にいつものように切れることもなく従った。《憤怒》が落下する。そして地面に到達した。
――グシャ
血溜まりができる。その《憤怒》だったものに手をかざす《怠惰》。
やがて《憤怒》は治癒魔法の光りに包まれ、血まみれではあるが肉体は元通りになった。
「こんなものに抵抗もできずに無駄な魔力を使わせるなんて本当に不愉快だなぁ。」
自身の起こしたことではあるが嫌そうに顔を歪めている《怠惰》にライゼクスが声をかける。
「貴様は味方なのか?」
すると考え込むような仕草のあと
「味方だと思ってるといつか痛い目に遭うだろうし、完全な敵っていう認識でも困るんだよなぁ。う〜ん、グレーゾーンってことでよろしく。」
「⋯⋯信用しないほうがいいのか?」
「当たり前でしょう?ライゼクス様。」
名前を呼ばれた本人は目を見開いていた。
「私は貴様に名乗ったか?」
「だいぶ前に会ったときにね。今は僕を貴方の知っている僕で認識してないからびっくりしたんだろうね。」
そう言って《怠惰》は今度は《暴食》に目を向けた。
「ねぇゴーラ。」
「はいっ。言われた人たちには指一本どころかスキルを使った攻撃もしていません。」
「まだ何も言ってないけど。」
名前を呼ばれ極端に怯えるゴーラと興味なさげに答える《怠惰》。無自覚パワハラ上司と新人社員といったような図が完成した。
「まぁいいや。そこの忠告も聞けない人形と一緒に今すぐ帰れ。」
「わかりましたぁっ。だから、その、称号効果で支配しないでください。」
「めんどくさいからしないけど?それよりさっさと帰ること。あと、『紋付き』のことは忘れること。これは《色欲》君にも命令しているからね。」
そう言って今度は何もできずに空気と化していた代表選手たちの方に顔を向けた。そして選手たちが空中できれいな正座をしているという奇妙な光景を目にした。
「⋯⋯なんで空中正座?無駄に魔力消費するくらいなら逃げたらいいのに。」
心底不思議そうにしていた。
「⋯⋯」
「⋯⋯」
代表選手とは一人も目が合わない上、《色欲》の大罪人―レッソンにまで目をそらされていた。
「ねぇレッソン。なんで僕目そらされてるの。」
「いつまでたってもその殺気をしまわないからじゃない」
「⋯⋯なんかごめん」
戦場でしかも最前線で交わされる会話ではない。むしろ戦場では殺気立っていても当たり前である。高等科生には息もできないほどの強さであったが。
なにはともあれ殺気は消えた。しかし辺り一帯更地であった。
「でレッソン、ちょっと君に頼みたいことがあるんだ。」
「なんですか。」
「《強欲》がねぇ今子どもの姿してるじゃん?だからついでにお菓子買ってこいって言ってきたんだけど、流石にこの菓子屋入る勇気ないから行ってきてくれない?」
「⋯⋯」
反応はもちろん全員が押し黙る一択だった。そしてメイは
(さっきまで余裕で人殺してた人にお菓子買ってこい?この人の頭お花畑か何かかな?)
哀れ《怠惰》。一番大事な人に変人認定を食らっていたことをまだ彼は知らない。
「テロリストをパシるってあの人敵なのか味方なのか天然なのかわからないですね。」
(違うだろガルシア。突っ込むべきはそこではない)
《怠惰》以外の意見が敵味方関係なく一致した。
「ん?僕は天然水なんて持ってないけど。飲みたかったのかい?」
「いえ、違います。実家の天然のお風呂に入りたいなと思っただけで。」
「そっか」
(他の言い訳はなかったのか)
またも心の声が一致した。
「まぁいいや。お菓子よろしく。それでメイ。」
勝手に決定し、意識をメイに切り替えた。
「貴方誰ですか。」
警戒心丸出し。困惑丸出し。結論。微妙に嫌われている。
―ガクッ
膝から崩れ落ちる《怠惰》であった。
「⋯⋯どうしたんですか。」
―パアァ
「ありがとう」
「?」
「今の忘れてね。それと」
心配すれば顔が輝き明らかに気分が上がっている。そして何を忘れたらいいのかわからない上、メイの顔を覗き込んでいた。
「いつか全部思い出せたら、その時はまた一緒に星を見ようね。」
一方的に耳元でささやき、離れていった。当のメイは目を見開いていた。
「それじゃあ、レッソン、お菓子忘れずに。僕は帰るから。バイバイ。」
「あ、ま、待って。」
メイが急いで手を伸ばす。しかしもう《怠惰》は彼方に物理的に走り去ったあとだった。そして、メイは脳内の情報量に耐えきれず空中で気絶した。
天然は最強説浮上中。
感想、アドバイス等ありましたら、お知らせ下さい。できる限り改善して行きます。




