―大混戦―
そして場所は戻る。上空にて大罪人三名が再集結した。相手取るのは、ヴィンセント、ゼルア、アロンと代表選手たちである。数で見ればヴィンセントたちが有利だが純粋な戦闘となれば絶対に大罪人たちが勝つ。そしてヴィンセントは一度大罪人と遭遇したことがあるので敵がどれほどの脅威で勝ち目がないのかを誰よりも理解していた。
(不味いな。せめて生徒たちだけでも逃がしてやることができれば。あるいは決闘なんてやらなければ。いや考えても無駄だ。やれることをやろう)
頭を振って目の前の敵に集中する。
まずは《色欲》の大罪人とやらからだ。
(女性で年はおそらく20代〜30代だろう外見をしているが、見た目通りとは限らない。こちらに合流してきた大男と細身の男は、強いな。)
領主。この世界ではその人達こそが王であり神である。別にそう名乗ったわけではない。いつの間にかそうなっていたから受け入れただけである。だが、いつも慕ってくれる人々が殺されたら切れるのは当然である。そしてそれは子どもたちも同様だった。
何も動かなかった戦場で不意に矢が放たれた。ガルシアだ。
「なぁ、あの中にはフォーティスの両親だっていたんだ。前にも会ったけど優しい人だった。もしかしたら生きているかもしれない。でも、あんなふうに洗脳されたらいくらスキルによる影響であっても廃人になるのは免れない。それをわかっててお前らは襲撃したのか。」
普段はマリアや兄のゴルシアに雑に扱われているガルシアだが言動にも現れているように根はとても優しい。しかしそれがどうだ。今はゴミを見る目という表現の限界を迎えた表情で大罪人を見下ろしていた。ディルフェルトもそうだった。彼の場合はゴミではなくいつかのような空虚な瞳で見つめるだけだったが。
「それがなにか関係あんの?俺等は自分の慕う魔王様にお願いされたからやっているだけだし、それに、君たちも大変だね。領主一族に生まれたら民のことを一番に考えるように教育されて、負の感情を表に出すことは許されず外面を保たないとあっけなく領主の座を追われる。そんだけ苦労してまで慕われたいの?物好きだね。あぁ、まだ子どもだからわかんないか。」
《憤怒》はまるで自分は何でも知ってますよと言う風につらつらと喋っていく。案の定ガルシアもディルフェルトも怒りは最高潮に達していた。まだ喋ろうとする《憤怒》の喉元を浅く何かが切り裂いた。
風だ。緻密な魔力操作で喉を全部切らず薄皮一枚斬るだけにとどめたのは意外にもディルフェルトだった。
「あれぇ?ベクトールの次男坊は氷で攻撃しないんだ。代々氷の代名詞とも言われる家系に属する者とは思えないなぁ。」
そうこうする間にもディルフェルトは不可視の風の攻撃を淡々と無表情で繰り返していた。
―ヒュッ
―《憤怒》の頬に傷ができる
―ビュンッ
―《憤怒》の腕に足に切り傷ができていく
「あぁわかった。必要以上に情報を与えない理由が。君、『紋付き』なんだね。」
その瞬間ディルフェルトの表情も氷漬けにしてやろうと準備していた兄のアルファルドも愕然とした表情で《憤怒》を見ていた。
「何故お前がそれを⋯⋯」
アルファルドが最大限の警戒をしつつ聞いた。
「何故って簡単なことだよ。俺のスキルが〈鑑定〉だからだよ。それにしても『紋付き』ってなんなの?お兄さんも反応したんだから大したことないって言わせないよ。」
「教えない。」
「ん?なんて言ったの?聞き間違いかな?もう一度言ってくんない?」
「だから教えねぇつってんだろ。」
怒りのままに剣を持ち《憤怒》に斬りかかるディルフェルトだったが、《憤怒》のほうが上手だった。
「ねぇ、この俺が聞いてあげるってんのに断る?ふざけてんの君。《怠惰》に殺すなって言われてるけど、傷つけたらだめって言われてないし教育してあげないとなぁ。」
忘れてはならない。ここは空中で落ちたら確実に死ぬであろうということを。そして《憤怒》はブチギレて自身の大罪の称号の効果を使ったのだ。ディルフェルト個人に対して。
「《憤怒》」
《憤怒》の称号効果は切れると相手のスキルや魔法の使用を妨害できるというものであった。ディルフェルトはスキルで空中にとどまっている。それをいきなり解除されたら⋯⋯
「ディルフェルトォッ」
アルファルドが手を伸ばす。しかし届かない。ゼルア達も助けようと動く。
「何処へ行くのかしら?」
「さっさと魔力食わせろ」
「助けになんて行かせるわけ無いじゃん」
しかし目の前の三人に妨害される。味方の誰もが絶望した。つぎの瞬間―誰もがディルフェルトを認識できなくなった。
「は?」
「ディルフェルト?」
そして落下したあたりの場所から――
魔物の大群が飛び出してきた。それを皮切りに次々と氷の槍や火の雨が昇ってくる。ここまでくればもう分かるだろう。潜伏中の領主たちだ。ちなみにインヴィディアがしたことといえば自身のスキルをかけたぐらいである。
ディルフェルトは気絶していたが無傷であった。しかし手の甲には見慣れない紋が浮かび上がっていた。
「何故?普段は隠蔽魔法で隠しているのに。」
ディルフェルトの父、フォレストは混乱していた。咄嗟の判断で氷の槍を嫌がらせのように投げつけたが、ディルフェルトの紋を見て半ば呆然としていた。フォレスト自身も氷の紋を持っているし、なんなら従兄弟であるファルミア領主のジェーレンも炎の紋を持っているから紋があるのはまだ分かる。把握もしていたからだ。しかし、一瞬とはいえダンジョンにしか生息していないはずの精霊がディルフェルトを救ったことだけは理解ができなかった。
そのことを疑問に思っていられたのはほんの一瞬だけだった。
――まだしぶとく残っていた観客席の残骸の方面からとてつもない殺気を感じた。
どこの世界にもいるやべぇやつ(ラビア)
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