―《色欲》の大罪人―
「試合は中止。正気を保っているものは即刻避難せよ。」
アグノーメン領主ライゼクスがいち早く事態の収拾に動いた。
「生徒たちも安全な場所へ避難を。」
「させるわけ無いだろぉ。せっかく美味しい料理にありつけるんだ邪魔しないでくれ。じゃなきゃお前を先に食うぞ。」
「ゼルアァ、ヴィンセントと一緒にこっちに来て子どもたちを守りなさい。」
「承知しておりますアイリス様。ヴィンセント様は控室の子どもたちの安全確保を。」
「わかった。」
「メイ様、こちらに来てください。気絶している生徒たちを叩き起こして避難しますよ。」
「ねぇ、ゼルア。あの人達は今いとも簡単に人を殺したよね。何の罪を犯してもいない一般人を。だったら私もあの人達ぶん殴ってもいいよね。」
目から光を消し激怒しているのがひと目で分かるメイは無表情だった。
「メイだめだよ。避難しないと。あいつらを許せない気持ちは分かるけど⋯⋯」
「ペナルティのせいでまともに動けないのにどう避難しろっていうの。それに目の前で人が殺されたんだよ。ほっとけっていうの?そんなのできないに決まってるじゃない」
メイはこれまでにないほど激昂していたが、ペナルティのせいで動けないというのは本当だ。
「ライゼクス!貴方のスキルを解除しなさい。今すぐに。避難できないわ。」
「わかった。全員に対し〈規則〉解除。これでいいな。」
「えぇ、気をつけなさい。そいつらどんな攻撃手段持っているのか不明だから。」
「心配してるのか?珍しいな。」
「違うわよ、ブチギレてる子がいるからあなた達領主になんとかしてもらわないと飛び出していきそうなの。」
「そうか。ゼルア、君も気をつけろ。戦闘系スキルではないだろう。」
「余計なお世話よ」
「行きますよメイ様。さぁ早く。」
「いやだ」
「⋯⋯」
いきなりメイを抱えあげゼルアは皆を連れ走り出した。自分の主の命を遵守するために。
「あぁ、おい逃げるなよ。せっかく美味しそうな魔力だったのに。」
「どうせ食べれなかったわよ。《怠惰》を怒らせるつもり?」
「じゃああいつが見逃す対象か?」
「そうよ。その代わり目の前の臨戦態勢の人たちは遠慮なく食べなさい。」
「おい、俺も暴れたいのに獲物がいねぇんだが。」
「貴方はもう少し抑えてくれてもいいのよ。でもまぁゴーラと一緒に領主たちの相手なさい。私の人形も貸すから。」
「お前はどこ行くんだ。」
「もちろんガキの排除よ。」
「じゃあせいぜい頑張りなさい。」
そう言って《色欲》の大罪人レッソンは戦場に似つかわしくない妖艶な笑みを浮かべゼルアを追いかけた。一方代表選手たちの控室では異変を察知しつつも状況がわからないため動けないでいた生徒たちが籠城しようとしていた。
「なぁ、これどういうことだ。俺のペナルティ解けたんだけど。」
「安心しろ。ディルフェルト。俺もだ。」
「兄上もですか。絶対なにか起きてますよね。」
「おい、ディル。足音聞こえんだけどさ、確実にこっち向かってきてんぞ。」
「俺に聞くなガルシア。知るわけねぇだろ。」
「それもそうか。」
「ところでさ、こんな異常事態にも関わらずのほほんとお茶飲んでるやつの神経どうなってんのかも聞いていいと思うか?」
「知るか」
―バァン
「良かった皆さん無事ですね。」
「ヴィンセント様!?とアロン先生一体何があったんですか?」
「大罪人が攻めてきました。一刻も早く避難しなければなりません。逃げる準備はできてますか?とりあえず身を守る武器とかは念のため持っていてください。」
「さぁとりあえず逃げますよってなぜこの状況でお茶優雅に飲めるんですか!?意味不明なんですけど。」
「先生、俺もそう思いましたよ。早く避難しましょう。ん?後ろに誰かいますよ。」
「えっ?」
「あぁゼルアかちょうどよかっ」
「もう時間はない上追手がすぐそこまで迫っているので籠城しましょう。」
「メイ様たちも早く中へ。」
若干というより全身で不満を表しながら控室に入っていくメイや残りの代表選手たちは納得できなくてもそれが一番の最善策であることをわかっているから不満があっても従う。それが一番生き残る可能性が高いからだ。
「でも、籠城するとなればこちらが不利では?」
「相手は一人よ」
「しかし油断は禁物かと」
「あなた達を守っているのに油断なんてできるわけ無いでしょう。くるわよ。」
次の瞬間とても一人の人間に当てるためとは思えない攻撃が一斉にレッソンに向かって繰り出された。
―ドォォン
「あら、熱烈な歓迎ね。どうもありがとう。こんなにも歓迎してくれるなんて嬉しいわ。お礼に私の名前を教えるわ。私はレッソン・インパイア。これから魔王様の命令でSSSクラスの子どもたちとウーナさんとオルフェさん以外を殺すわね。あぁ間違って殺すといけないから今言った子は手を挙げてくれる?」
誰も手を挙げない。情報を守るために、ではない。生徒たちが自身の放てる最も攻撃力の高い魔法を大人たちに強化してもらいつつ撃ったのだ。それなのに目の前の女はかすり傷一つ負わずに立っているのだ。恐れるなという方が無理であろう。
「ねぇ、どうしてそのメンツは除外されているの?」
「ん〜機嫌がいいので特別に教えて差し上げます。我等の仲間である《怠惰》がこのメンバーが生きているのなら作戦を行うことを黙認したのですよ。まぁ実際のところ魔王様が欲しいのは、メイ・クレシェラ・アルデンティただ一人であって。その他有象無象の生死はどうでもいいらしいですけど、《怠惰》は殺すのなら全力でこちらを妨害するらしいので仕方なく生かすんですよ。感謝したほうが良いですよ《怠惰》の良心に。」
「私が狙い?」
「そうです。もっと言えば記憶がすべて戻った時の貴女が狙い。といったほうが正しいですね。《怠惰》が何を思って他の子どもを生かすと言ったのかは知りませんよ。あいつの目的は魔王様でも知り得ないことだとおっしゃっていましたし。あと《怠惰》は時々星空をうっとりと眺めています。気持ち悪いぐらいに。外見特徴はあぁだめねいつもフード被っているからわからないわ。ねぇもういいかしら?このへんなスキルにかかって色々喋っちゃったみたいだけど問題のない情報だからまぁいいわ。それで?私に〈強制自白〉のスキルかけたのは一体誰なのかしら?」
メイは自身が狙いだと知って動揺したが、セザールの持っているスキル〈強制自白〉にてなぜ自身を欲するのかを聞いてみたが大した答えは得ることができなかった。そして先ほどとは打って変わって邪険な気配に変わったレッソンを見るに時間稼ぎの時間は終わったようだと痛感した。
「ここで一気に殺したいのですが、いささか狭いのでいっそのこと建物を崩して解体しましょう。」
―パチン
―ガラガラガラ、ズゥン、ドンッドンッ、ガシャァン
指パッチンとともに建物だけでなく対抗戦の会場ごと潰れた。しかしこの場に残っているのは優秀な者たちだけだ。全員飛行魔法で難を逃れていた。
「さぁ、魔王様のために派手に散っていってください。」
どこの世界にいつでもものほほんとした人はいる。
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