―異変―
目には見えない魔力が観客を一人、また一人とつつみ、精神を蝕んでいく。ここまで来るともう正常に戻ることはできない。誰かが気づき、悲鳴を上げた。しかし、それは歓声と、宣言によって打ち消される。
「さぁ次の対戦カードを引いてもらいましょう。アロン先生お願いします。」
またもやアロンが今度は濡れたままカードを引いた。
一枚目⋯ガーゲルト領
二枚目⋯クレシェラ領
―うおぉぉぉぉ
―クレシェラ領だ
―優勝候補だ
―これはいい試合になるぞ
「さぁ、選手たちの入場です!」
そう宣言する司会もやはり目は死んでいた。
「ヒウッ。ほ、本当に今から試合なんですか、セザール様。」
「あぁそうだ。だからそんなに怯えてないでシャキッとしろ。シャキッと。」
「まぁまぁセザール様。怯えても無理ないかと。だって初めて大勢の前で人を率いろと。怯えないほうがおかしいです。」
「そうですよ。それより経験者の僕たちが全力でサポートしましょうよ。」
「そうだな。」
「頑張りますぅ」
とまぁガチガチに緊張しているアナスタシアを未だになだめているガーゲルト領であった。対するクレシェラ領は
「メイ?絶対に死ぬような攻撃はしないでね。」
「わかってるよ。不審者も血祭りまでなんだから。」
「オルフェえ!?始まる前から倒れないで。お願いだから。」
「あぁ身体強化魔法の偉大さをしみじみと感じる。」
「ねぇ、私たち色々とハンデ背負っているけど始まる前からこれで大丈夫なの?」
マリアの疑問はとても正論だった。しかし開始はもう目前である。であれば腹をくくるしかなかった。
「本当に大丈夫かしらねぇ。」
「アリア姉様、絶対に思ってないでしょう。」
「まぁ当然でしょ」
「それもそうですね。」
「それではっ、始めっ。」
合図とともにメイをアリアが抱え飛び上がる。
「ありがとうアリア義姉様。」
「いいのよ打ち合わせどおりだし。このあたりが上昇制限かかっているから注意しないと。それよりメイ、よく思いついたわね。自分が縦にしか動けないのなら動かしてもらえばいいって。」
「ちょっと考えれば誰でも思いつくでしょ。それよりも観客席、ちょっと異常だよ。大半の人の目が死んでる。」
「今はそれよりも『旗取り』の攻略でしょ。」
「そうだね」
メイは地上に残ったウーナたちに合図を送る。
―タッタッタッ、トンッ、スチャッ
「旗、取れました」
「よしそれじゃあ攻撃全部避けながら旗こっちに投げてくれる?」
「わかりました」
「お、おい、押さえろぉ。」
あまりの速さについていけずフリーズしたセザールたちだったが気を取り直し、敵陣に飛び込んできたウーナから旗を取り返すべく動き出した。
「メイ様、受け取ってください」
―ビューン、パスッ
「取れたぁ」
「よし、じゃあ旗を差しにってどこに差すの」
「え?アリア義姉様知っているんじゃないの?」
「知らないわよ。」
「⋯⋯いったん降りましょう」
「そうだねウーナの帰りも待ちながらどうするのか考えよう。」
まさかの誰も旗を差す場所を知らないという致命的な事態が発生した。
「メイ、ルールはしっかり確認したんだよね?」
「うん。でも旗を指す場所は指定って書かれていたけどどことは書いてなかっ⋯⋯まさか、誰も知らない?」
「お嬢、もしかするとですよだいぶ昔からこの対抗戦が行われているのに条件を達成できていない理由って旗を指す場所を指定し忘れたからでは?」
「オルフェの言うことにも一理あるけど考えるより先に追撃しないと負けるわよ。」
「じゃあマリア、これ持って上空待機ね。アリア義姉様、もう一度お願い。」
「わかった」
今度は三人で浮かび上がり、攻撃に追撃する。ウーナはとっくに包囲を抜け出しており、セザールの取り巻きのうち二人を気絶させ脱落させていた。一方の魔法を封じられたオルフェは床を這いつくばっていたが襲いかかってきた人物の服や靴を自身のスキル〈静止〉で固定し身動きが取れないようにし、それをリリアが吹っ飛ばして脱落させるという器用なことをしていた。そうこうしているうちにガーゲルト領の代表選手はアナスタシアとセザールのみになっていた。クレシェラ領側は誰一人脱落していないというのに。
「おい、どうする。アナスタシア。二人しか残ってないぞ」
「えっと、セザール様、攻撃魔法か剣は使えますか?」
「はぁ、貴女忘れたんですか。初対面のとき魔法剣を使って貴方に攻撃したこと。多少はできますよ。でも、あの化物集団には通用しないでしょうね。」
「そうですか、じゃあ降参したほうがいいと思います。」
「は?」
「あぁ、えっと、その、不快ですよね。降参したほうがいいなんて。何もわかってないのに。」
「⋯⋯」
「ご、ごめんなさい。」
「⋯⋯」
「セザール様?」
「何だこの気配。ものすごい嫌な感じがする。」
「あの、」
「離れるな。多分これはクレシェラの攻撃じゃない。もっと別の『何か』だ。」
―ドォォン
突如として客席の一部が爆発した。だというのに周辺の客席にいる人々は一部を除き避難しようとしない。それどころか爆発の発生源に集まっていっていた。
「俺達は魔王様の配下、大罪人だ。できる限りの人間殺してこいって言われてるからよろしくなぁ」
―バンッバンバンバンバンッ
言葉とともに集まった人の一部の人の頭が弾け飛んだ。
感想、アドバイス等ありましたら、お知らせ下さい。できる限り改善して行きます。




