―血の対抗戦開始―
「おい、ようやく領主たちの決闘が終わったぞ。もう突っ込んでもいいよな。」
「腹が減った。もうこれ以上まてんぞ。」
「はぁ、せめて子どもたちの対抗戦が半分終わってからにしなさい。と言いたいところだけどイレギュラーのせいでずいぶん遅れてしまったものね。仕方ないわ。二戦だけ終わったら突入できるように仕込みだけは始めといてあげます。だから、それまでは我慢なさい。」
静かにカウントダウンが始まった。
「え〜それでは本番の子どもたちの対抗戦の開催を宣言します。」
「それでは例年通りくじ引きで対戦カードを決めていきます。では、開催校の教師であるアロン先生一戦目の対戦カードを引いてください。」
いつの間にか引きずり出されていたアロンが何故か壇上にいた。胃薬片手に握りしめて。
「はい」
もはや無表情で差し出された箱の中に手を突っ込んで二枚のカードを取り出した。
一枚目⋯エクトリア領
二枚目⋯ダルクリト領
「⋯⋯」
一斉に領主たちの方に視線が集まったのは言うまでもない。
しかも、対戦予定の子どもたちは指揮官を押し付け合い、腕相撲流血事件を起こしたエリオットたちと結局金につられて指揮官が決まった現金な奴らである。何事もないはずがない。案の定またもや結界にヒビが入っていた。
「それでは子どもたちの入場で〜す。」
―うおぉぉぉぉん?
入場してきたのは頭に包帯を巻いた生徒二人が率いるエクトリア領民の優秀な、生徒たちと、全く持ってやる気の感じられないダルクリト領民の優秀な、生徒である。当然観客、大罪人共に硬直した。
―驚くほどやる気の感じられない高等科生だなぁ
観客の誰かがそういった。実際彼らの間で交わされている会話は、
「帰りてぇ」
「同感。なんで俺等が指揮官しなきゃならないんですか先輩。」
「諦めろ。去年もこうだった。」
「金貨五枚かぁ。もっとぼったくればよかったのか?」
「流石に無理だろ。指揮官でさえ金貨七枚だぞ。」
「それもそうか。適当にやろ〜ぜぇ。」
「そうだなぁ」
である。全く持ってやる気がない。普通の高等科生であれば上位貴族や領主たちからのお声がけのチャンスと見てやる気を出すのだが、彼は優秀である。なので媚び売って生活するよりも現実を見据えているのである。こう見えて。それを領主も理解して対抗戦の舞台に立たせているので何ら問題はない。例年であれば。今年は領主たちの前座が急遽入ったので生徒たちにも同じレベルを求められていたのだ。当然そんなことを言われてサービスするような生徒でもないため、あまりにもやる気の無さが際立っているだけだった。
「はぁ、お互いルールを守って正々堂々戦うように。始めっ。」
今からやるのは先程の大人たちのような決闘じみたことではない。『旗取り』だ。相手陣地の旗と自陣の旗を指定の場所へ差す。実にシンプルなルールだ。ただし、この条件が達成されたことはただの一度もない。大抵、相手側が全員降参するか戦闘不能になるかの二択で終了するからだ。それに加え、旗を運んでいる者は攻撃はできない上、防御を取ることも許されない。全員で突っ込んでも集中砲火と袋叩きを喰らい、戦闘不能に全員が追い込まれる。そんな鬼畜ルールであるため、毎年どの領地も相手側を戦闘不能にすることに注力しているのである。
そして対戦が始まっているのにもかかわらず両チームは一切動いていない。お互いやる気はないものの領主仲が最悪すぎるためどうご機嫌取りをするか、あるいは満足してもらえる勝ちを演出するにはどうするのかを考えていたからだ。
「なぁ、アルヴィン先輩。ルアーラ様はフレッグ様に勝って機嫌良さそうだからさ、ちょっと向こうに賄賂渡して演技に付き合ってもらいましょうよ。」
「いいなそれ。お前らはどう思って⋯⋯」
キラキラした指揮官を信じ切った瞳が六対。
「グッ」
「仕方ない。水攻めするか。」
「そうですね。領地の体面も保てるでしょうし。」
「よしお前ら、水攻めするぞ。」
「「「「「「わかりました」」」」」」
「よしそうと決まれば使う魔法は蒼き人魚でいいな?」
「いいと思います。全員中等科のときに習いますし。」
「じゃあ皆合わせろよ。」
「わかりましたアルヴィン様。」
エクトリア領が詠唱を始めた頃、対するダルクリト領はというと、
「なぁどうする?」
「素直に降参してもらいましょうよ。」
「じゃなきゃ実力行使。」
「いつも通りだな。」
「先輩は今年で卒業ですもんね。最後は華を持たせ得るような演出にしましょう。」
「送別会かよ。」
終わったあとのことを呑気に考えていた。ふと誰かが気づいた。
「あれ?なんか詠唱聞こえません?」
『Aeterna aqua, ex profundo surge…(永遠の水よ、深淵より湧き出でよ……)』
「何だあの詠唱。聞いたことねぇぞ。」
『Omnia lavate, et diluvium afferite!(すべてを洗い流し、大洪水を導け!)』
「なんかえげつない量の魔力感じるんですけど。」
『Regnum caeruleum, manifesta!(蒼き王国よ、顕現せよ!)』
「おい、結界張れ。厳重警戒だ。」
『ダルシー・ケルレア・ドゥムス』
詠唱が終わると同時にものすごい勢いで水に周囲が飲み込まれる。ただし観客席は無事である。しかし選手たちは水に飲まれていた。
(俺らは海中領地の一員。水の中で呼吸を止めるなんて造作ないが、あいつらはどうだ)
―ゴボボボボッ
―ガバガッバババッ
見事に全員溺れていた。
エリオットはアルヴィンや他の代表選手とアイコンタクトを取り、魔法を解除した。
―ゼーゼー
―ゲホッゲホッ
―ハーハー
「それで?どうしますか?」
「こ、降参、だ」
「勝者―エクトリア領。ハクシュン」
―うおぉぉぉぉぉぉ
床にうずくまり死にかけのダルクリト領の代表選手たちと、降伏勧告をするアルヴィンはにっこり笑顔で剣を手にしていた。降伏宣言がなされた途端、審判台にいたアロンはビショ濡れで勝利者宣言を行い大きなくしゃみをした。テンションだだ下がりだった観客たちもこれには大喜びし、歓声を上げていた。
「とりあえず、ご機嫌取りは成功だな。」
「そうですね先輩。ところで、今年で最後の対抗戦ですよね。」
「私にとっては最後だね。」
「後で本校舎の食堂でお祝いしましょうよ。」
「ありがとう。」
「どうせなら優勝狙いたいなこの調子で。」
「そうですね、ちょっとは頑張りましょう。」
「だな」
とエクトリア領は爽やかに退場していく一方でダルクリト領は未だ床に這っていた。
「なぁ、意外とあっけなかったな。」
「早くあいつら喰いてぇ。」
「今仕込み中よ。それにあと一戦あるでしょう。」
「わかった。待ってやるけど何もやってないよなお前。」
「やっているわ目に見えないだけで。周りを見なさい。」
「確かに。目が死んでるな。」
「もうすぐよ。作戦開始は。」
悪意は膨れていく。
感想、アドバイス等ありましたら、お知らせ下さい。できる限り改善して行きます。




