-巣立ちの日-
ようやく会議シーンが終わりました。
領主会議から一週間。クレシェラ領―領城の上には雲一つない青空が広がっていた。今日は各学院への移動日である。しかし領城の中はとても慌ただしかった。移動日だというのに、普段はしっかりしているマリアがすっかり用意を忘れていたのだ。
「アイリス様、あと10分で領外の学院に通う子どもたちを転移陣で送る時間です。」
「あと10分!?マリア、さっさと準備終わらせなさい。アリアとリリアはマリアを手伝ってあげて。私は用意を完璧に終わらせてるのにまだ寝てるメイを起こしにいくから。」
「「「わかりました。母様!」」」
いいながらアイリスはメイの部屋へ駆けていった。なんせメイは悪夢を見たとき以外ほとんど自力で起きないのだ。―バァン。扉を蹴破りながらアイリスが拡声魔法を使い
「メイ・クレシェラ・アルデンティィィィィ。今すぐにベッドから降りて支度しなさぁいぃぃぃ。」
当のメイは、声量でベッドから落ちながらも執念で握りしめていた布団を被り直しながら、
「あと五分。」
そのまま二度寝した。
「⋯⋯⋯」
ブチッ。
何かが切れる音がした。周りにいた使用人が真っ青になり、メイの準備物を持ち、慌てて廊下へ離脱した。彼らは領主―アイリスが静かになった時が一番危険であるのを知っていたからである。アイリスがメイを見下ろしながら、何も使わず笑顔で、しかも猫なで声で、威圧感しかない立ちざまで、
「ねぇメイ?早く起きないと、本気で、顔を氷水で洗って上げますからね?」
即メイが飛び起きた。きれいな土下座を披露しながら
「ごめんなさい。3分で用意終わらせます。」
メイは本気だった。
「本当に3分で終わらせないと転移陣に間に合わないわよ。」
「はいっ!」
次の瞬間
―ずだダダダダダ
「お母様ぁ〜制服のリボンタイが見つからないんです。知りませんか。」
アイリスは心の底から呆れた表情で
「あなたが今、手に持っているじゃない。マリア、貴女メイより遅かったら自力で学院まで行きなさいよ。」
一気に老けたようだった。一方その頃アリアとリリアは
「私達も自分の荷物の最終確認したいんだけど。」「仕方ないよ〜マリアってしっかりしているようで抜けまくってんだから〜。」
「⋯⋯リリア、ぐちゃぐちゃに詰め込んでも全部入らないわよ。」
そこにゼルアがやってきて無理やりマリアの荷物をカバンに詰め込み、
「行きましょう。時間です。もうあと1分で転移陣起動の時間です。」
その間20秒。実に鮮やかな手並みであった。そして怒涛の朝の10分間が何事もなかったかのように全員が時間通りに転移陣に到着した。そして新たな地へと踏み出していった。
「いってきます」
四人の声が重なる。メイは滅多に見せない満面の笑みで小さく手を振った。アイリスや使用人たちが手を振りメイたちを見送る。そんな中アイリスの夫であるヨハンは号泣しながら手を振りアイリスに膝蹴りを食らっていた。無事に全員を送り届けたあと、何事もなかったかのようにアイリスが呟いた。
「メイをアグノーメン総合学院に入れることができてよかった。マリアもアリアもリリアもいるんだもの。みんないれば安心ね。」
それに対しゼルアは
「希望的観測はやめたほうがいいかと。絶対にクラス分け試験で目立ちますよ。メイ様だけでなくマリア様も。」
「その時はその時ね。私の娘たちに危害が加えられないのならそれでいいわ。もちろんメイも守るわよ。」
そう言ってアイリスたちはメイたちのいない静かな日常を過ごす。子どもたちのいなくなった領城は先程までの騒ぎが嘘のように
「しん」
としていた。そう“静か”な日常―アイリスがメイたちの試験結果を見て絶叫するまで
あと2日。
次は学園編に入ります




