―ヴィンセントvsアイリス?―
休憩時間の間に領主の側近たちがなけなしの結界を張っていた。無駄だと言うより他ないと思ったがいわく、
「ないよりはマシだと思います。」
皆一様に死んだ目であった。そして、そんなふうに部下を追い込んだ上司一同は、アイリスの側近であるゼルアに正座で謝っていた。
「領地対抗戦は子どもたちの見せ場だったはずですが?なぜ、大の大人が喧嘩しているのでしょうか?」
ものすごい正論だった。
「しかも、トーナメント形式ならまだしも総当たり戦とは?立案者は素直に白状してください。」
一斉にジェーレンとフォレストに視線が向けられたが、当の本人たちはどちらがより怒られるかの押し付け合いをしていた。アイコンタクトで。そのため目の前にいるゼルアの満面の笑みには全く気づいていなかった。彼女の上司であるアイリスでさえも思わず目をそらしてしまうほどの威力だったにもかかわらず。
「あら?学生時代からちっとも変わってないのね。貴方たちは。一体高等科で何を勉強したの?子どもに尊敬されたいのなら日頃の頑張りを見せるのが一番のはずなのですが。あんなふうにはっちゃけていては呆れられるだけだと思いますが。どうなんですか?ジェーレンにフォレスト。」
「「先輩。すみませんでしたぁ」」
―ゴォン
一介の領主の側近に土下座で謝る領主二人。学生時代の力関係がこれでもかというほどに再現されていた。
「そしてアイリス様?なぜ貴女は乗っているのですか?止める側ですよね?あぁごまかしても無駄ですよ。ヨハンから全て聞いていますから。」
(あの馬鹿夫。何をしてくれているのかしら。絶対に後で質問攻めにしてやる)
「ちなみにヨハンはインヴィディア様とライゼクス様にすがりつかれたとおっしゃっておりました。」
「⋯⋯」
「アイリス様?」
「⋯⋯すみませんでした」
部下に負けた上司と密告者に側近たちは哀れみの視線を送っていた。
「あぁそれと。インヴィディア様、ライゼクス様。実に賢明なご判断でした。これからも馬鹿トリオがなにかやらかした際にはヨハンをお使いください。」
「あ、あぁ。ありがたく使わせてもらうとする。」
「にしてもお二人が正常で良かったですよ。他の領主の皆様は頭に血が上りすぎていたみたいなので。」
「そ、そうなのか?」
「まぁ、試合ですが、」
そこで一度ルアーラとフレッグを見やり、
「やってしまったものは仕方がないので、全領主が民衆の前で決闘なんて珍しいですからね、今ここでやめてしまうとブーイングがすごいからであって、決して貴方がたのためではありませんよ。ということで全領主一試合ずつ出たら終わりにします。なので、ヴィンセント様、アイリス、インヴィディア様、ライゼクス様の決闘が終わり次第通常の対抗戦に戻します。トーナメントなんて言い出したら今度こそ全員説教三時間コースです。」
「ではさっさと終わらせてきてください。」
そしてようやく休憩時間が終わり、試合が再開された。しかし審判役はなぜか領主をゴミを見るかのような目で見ており、片方のクレシェラ領主は一気に老けたように見えていた。観客たちは試合よりも審判が怖すぎて自然と大人しくなった。大罪人たちも例外ではなく背筋を正して一切喋ることができなくなっていた。
「それでは、全力で、民衆の方々を楽しませてあげてくださいね。
始めっ。」
始まりはしたものの、両者一歩も動かない。その実、アイリスのスキルは〈統率〉で、一人でというよりも、グループ戦で真価を発揮するタイプなのだ。対するヴィンセントのスキルは〈再現〉。こちらは今のような一対一でのほうが真価を発揮するのだが、彼らが動けない理由はただ一つ。ゼルアが怖すぎたからである。そこに救世主?が現れた。流石に威圧が強すぎるのを見かねたメイがヨハンをパシったのだ。哀れヨハン。養女にパシられるとは。
「ゼルア、私が審判変わるから会場警備に回ってきてくれないか?結界が崩壊しているからさ。な?だから⋯⋯」
「ふぅ、わかりました。審判は任せます。代わりに不審者たちを締め上げてきます。」
途端、会場に熱気が戻ってきた。そしてこれでもかという魔法が打ち出された。アイリスによって。対するヴィンセントは、すべて防御魔法で防ぎきっていた。
「アイリス、八つ当たりはやめてくれ。」
「知らないわよ、従兄弟なんだから助けてくれても良かったんじゃないの?」
「あの状況でむちゃを言わないでくれ。僕が物理的に消されるよ。」
「大罪人に遭遇しても、運よく帰ってくるぐらいなんだから大丈夫よ。多分。」
そんなふうな会話(ただし小声)をしている間にも攻守は激しく入れ替わっている。アイリスは攻撃を攻撃で追撃し、ヴィンセントは工房一体の魔法をぶち込んでいる。お互いの魔法技量が高いのでそれ以外の要素で決着を付ける必要があった。
ついに一歩も動いていなかったヴィンセントが動いた。空間収納から剣を取り出し、アイリスに切りかかったのだ。
―キィィィン
防御魔法と剣がぶつかり硬質な音を立てるが剣のほうが押していた。
ここに集う観客、生徒の一部がヴィンセントの剣筋を見て思った。《剣聖》の剣筋だと。メイの亡き父、ラブラタス・エイブラ・アルデンティ。その者の剣は何者にも〈再現〉不可能だと言われていた。しかしヴィンセントはそれを可能にしたのだ。
「⋯⋯っ。だ、れ?誰、なの?」
「メイ?どうし「ねぇ、なんで覚えてないのに、こんなに懐かしいのかなぁ、マリアァ。」
「⋯⋯わからない。でも、いつか思い出せるよ。」
「そう、かなぁ。」
「絶対に、ね?」
「じゃあ、待つ。思い出せるまで。」
未だ記憶の戻らないメイをよそに、決闘はクライマックスに向かっていた。
(一度再現するともう二度と使えない切り札だったのだが、さすがアイリス。防いだね。ここからどうしようか)
(やってくれたわね、ヴィンセント。義理の兄の剣筋を再現してくるなんて。これは私が開発した魔法で決着をつける他ないかもね。)
「―鳳凰の舞。」
それは火と、風と、水属性の三属性複合魔法である。それ故にこの魔法を完成させることができるのは数人だけであり、ある程度再現できるヴィンセントでも防御に回らなければ大怪我間違いなしである。
「そこまでっ」
幻想的な魔法はその終わりを告げる一言でかき消えた。ように見えた。実際はアイリスが魔法を消しただけだが。
「勝者―アイリス・リティア・クレシェラ」
「別に止めなくても寸止めにしたわよ。」
「アイリス、これ以上ゼルアを怒らせるのは得策じゃないと思うよ。」
夫に止められて不服そうなアイリスと、あわあわとたしなめるヨハン。そして悔しそうに、でも楽しそうなヴィンセントが
「アイリス、もう一度今の見せてくれ。今度こそちゃんと記録するから。」
「あら?ヴィンセント様?一体何をしようとしているのですか?」
またもや会場が凍りついた瞬間であった。
「次の試合のじゃまになるから別の場所で説教しなさいよ。私はヨハンとメイたちの激励に言ってくるから。」
「ア、アイリス?」
「ヴィンセント様ちょうど医療テントには誰もいません。そこでじっくりとお話しましょう。」
かくして、なんとも締まらない空気で決闘の三戦目は終わった。
時々いますよねはしゃぎすぎて怒られてる人。
感想、アドバイス等ありましたら、お知らせ下さい。できる限り改善して行きます。




