―訓練⑦―
アグノーメン総合学院本校舎応接室にてエクトリア領代表の選手たちは顔合わせをしていた。
エクトリア領―通称『海中領地』
その名の通り海の中の極大結界の中にある領地である。そんな領地ゆえ、エクトリア領で生まれ育った者たちは総じて水魔法と風魔法の扱いが上手い。
はずなのだが、代表選手たちが行っているのは何故か腕相撲。理由は指揮官を誰もやりたくなく、強い人物に指揮してもらえればいいと過半数の人物が思ったからである。
この中には侯爵家の生徒もいるというのに残念な話であった。それはさておき、これに参加しているのはエリオットも同じである。普段はぼーっとして無口だが、やりたくないことを回避するために仕方なく参加しているのであった。
(よし、勝ったら指揮官に就任させられるのなら負ければいいんだな。最初から力を入れずに⋯待てよ、自分で負け判定になる方向に倒せばいいんだ。)
名案を思いついたとでも言いたげなエリオットだったがそれは相手も同じ。
アルヴィン・クラウズ・ヴァローネ。
侯爵家出身でありながら絶対にサボりたいと思っているハルウェラ総合学院に通う高等科三年生である。
ハルウェラ総合学院
―そこは領主側近級の文官を多数輩出する総合学院として有名である。そのためここを好成績で卒業すると各領地からスカウトがすごい⋯らしいがそこのトップレベルの生徒であるアルヴィンは「完璧な貴公子」と称えられている姿からは想像もできないほどサボることに目がなかった。
(私が弾き出した唯一の最適解によると相手はおそらく普通に勝負をしてくる。ならば全力で負け判定の方向に腕を倒せばいい。我ながら冴えているな。)
かくして両者全く同じ事を考えて負け戦?に臨もうと腕を組んだ。
「レディー、ゴー」
しかし両者の腕は1ミリも動かない。当然お互い脳内パニックを起こしていた。
(え?俺力抜くとかじゃなくて全力で負けにいってるのに動かないんだけど。)
(なに?この私が導き出した最適解が破られた、だと。)
((まさかこいつも、負けに来ている!?))
「すごい。あのアルヴィン様と拮抗しているだなんて。」
「信じられん。今年もアルヴィン様に指揮をお願いしようと思っていたが、彼は孤児院出身だったな。きっと涙ぐましい努力をしてきたんだろうよ。」
「そうだな。きっと指揮官としても優秀なんだろう。しかし我らは去年もアルヴィン様に率いてもらった。よく知る人物に指揮してもらったほうがやりやすいのは事実。」
「困ったわねぇ」
お互いが全力で負けようとしているがゆえの拮抗だと知らず、他の代表選手たちは腕相撲をまだ誰一人としてやっていないにも関わらず勝手に二人の外堀を埋め始めていた。
((不味い。このままでは指揮官に就任させられてしまう。こうなったら))
「あの、先輩」
「後輩くん」
「「勝ってくれませんか?」」
まさかの発言までシンクロした。当然外野は二人の内どちらが指揮官にふさわしいかを語り合うのに必死で、二人のシンクロ発言は聞こえていない。
((こいつ俺/私と同じ事を考えていたのか。クソっ))
エリオットは元から死んでる表情が更に死に、アルヴィンは貴公子としての完璧な笑みが崩れ始めていた。そしてそのまま変化のないまま十分が経過した。その間も二人の外堀はどんどん埋まっていく。
「あのアルヴィン様の表情が崩れてきているわ。」
「きっとそれだけ彼は強いのだろう。」
「もうどちらも指揮官に⋯」
―ドゴォン
エリオットとアルヴィンはみなまで言わせないように頑張った。その結果両者がひらめいたのは同時に頭突きをするということだった。
(先輩、こうなったら二人で指揮官候補から外れましょう)
(そうだな。せーのでお互いに頭突きをするというのはどうだ?)
(賛成です)
「せーの」
―ドゴォン
二十分にもわたる死闘により奇妙な友情が芽生えていた二人はアイコンタクトだけで会話が成立するようになっていた。しかし、両者共に疲れ切っていたため加減を考えなかったのである。その結果、頭突きの衝撃で気絶。おまけに派手に血が飛び散ったため、場は大混乱に陥っていた。
「え?」
「は?」
「なぜ?」
「え?どゆこと」
「何がどうしてこうなった」
「素晴らしい」
約一名変人が混じっていたような気もするがそれは置いといて、
「熱い戦いの末に両者気絶。ということは二人の健闘を称え、二人とも最高指揮官に任命するとしよう。異論はないな?」
「「「「「賛成」」」」」
こうしてお互いサボろうとするあまり白熱した腕相撲は二人の大敗北(最高指揮官就任)で終了した。
逃げるが勝ち、ではないようです。
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