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EP 2

神のガオガオンと無力な超大国

神奈川県、横須賀海軍施設。

在日米軍および第七艦隊を統括するジャック・フォークナー大将は、司令部の巨大なスクリーンの前で、無濾過のラッキーストライクに火をつけた。

「ペンタゴンの連中は、いつも一番最悪のタイミングで『カオス』を寄越してくる」

フォークナーは紫煙を吐き出しながら、苦々しく呟いた。

太平洋上に突如出現した巨大大陸。ワシントンDCはパニックに陥りつつも、超大国の本能として「圧倒的な力の誇示」による主導権確保を選択した。

『フォークナー大将。大統領権限により、対象大陸の防空網および軍事技術レベルの測定を命じる。無人機(UAV)による強行偵察、および無人地帯への威嚇爆撃を実行せよ』

通信機から流れる無機質な命令。フォークナーは手元の『戦争論』をパラパラと捲りながら、ため息をついた。

「……イエッサー。第七艦隊、MQ-9リーパーを発進させろ。相手の出方を見る」

数分後、高度1万メートルを飛行する無人攻撃機MQ-9リーパーから送られてくる映像が、横須賀のスクリーンに映し出された。

そこには、鬱蒼とした巨樹の森、見たこともない巨大な岩角を持つロックバイソンの群れ、そして中世ヨーロッパとアジアが混ざったような城塞都市が鮮明に映っていた。

「赤外線反応、多数。ですが、対空レーダー波は一切探知できません。……連中、我々に全く気付いていないようです」

「油断するな。未知のテクノロジーの可能性もある」

オペレーターの報告にフォークナーが釘を刺した直後、ペンタゴンから攻撃許可が下りた。

「ターゲット、沿岸部の無人荒野。AGM-114『ヘルファイア』ミサイル、発射ファイア

リーパーの翼下から、音速を超える対地ミサイルが火を噴いて切り離された。

現代科学の結晶たる破壊の槍が、未知の大地へ突き刺さる——はずだった。

『……警告。目標地点上空に、高エネルギー体の急激な膨張を探知!』

直後、スクリーンが眩い黄金の光に包まれた。

ミサイルが着弾する寸前、空中の空間が「割れ」て、巨大な黄金の塊が飛び出してきたのだ。

「なんだ、あれは……メカニックな、ライオン……!?」

オペレーターが絶叫する。

体長数メートルはあろうかという、黄金の装甲に身を包んだ鋼鉄の獅子。その瞳が紅蓮に輝いた瞬間、ライオンの周囲に不可視のバリアが展開された。

音速で突っ込んだヘルファイアミサイルは、バリアに触れた瞬間に「泥をぶつけたように」威力を殺され、ボトボトと海へ落ちていった。爆発すら起きなかった。

さらに、鋼鉄の獅子は高度1万メートルにいるリーパーを正確に見上げると、大きく口を開いた。

『——ふん。ドワーフのガラクタ以下の玩具で、この俺を試し撃ちするとは。下等な猿どもが』

通信回路をハッキングし、直接音声データを叩き込んできたのだ。

次の瞬間、獅子の口から放たれた超高周波の「咆哮」が、大気を震わせ、一瞬にしてMQ-9リーパーの電子回路と機体を粉々に粉砕した。

スクリーンが、無数のノイズと共にブラックアウトする。

司令部は、文字通り水を打ったような静寂に包まれた。

「……ミサイルを無力化し、高度1万の機体を『声』だけで落とした、だと?」

フォークナーは、指に挟んでいたラッキーストライクが根元まで燃え尽きていることにも気付かず、その灰を床に落とした。

「……すぐにペンタゴンに繋げ。『もしあれに核を撃ち込めば、我々は同じ手段でワシントンを消し飛ばされる』と伝えろ。大統領に、武力制圧は絶対に不可能だと進言するんだ!」

「……見たか、シン」

同じ映像を、日本の総理官邸・危機管理センターの別室で、若林幸隆と坂上真一が共有していた。同盟国として提供された米軍のデータリンク映像である。

「見ました。物理法則を完全に無視したエネルギーシールド……。もしアメリカや中国がICBM(大陸間弾道ミサイル)を撃ち込んだとしても、あれで弾き返され、あのバケモノから本土に報復攻撃を受けるでしょうな」

坂上は腕を組み、冷や汗を拭いもせずに分析した。

北辰一刀流の達人である彼ですら、あの黄金の獅子が放った「気」の巨大さに戦慄を覚えていた。あれは、人間が束になってどうにかなる代物ではない。

「じゃろうな。アメリカの空母打撃群も、中国の人民解放軍も、あの『神様』の前では紙切れ同然じゃ。……つまり」

若林は、ニタリと、心の底から嬉しそうに笑った。

「核兵器という『大国のアドバンテージ』は、今日この瞬間をもって完全に消滅した。あの神様が守っとる限り、この大陸に無差別爆撃はできんし、大規模な侵略戦争も起こせん」

若林はテーブルの上の『資本論』をトントンと指で叩く。

「シン。世界は、何百年も昔の『外交と白兵戦』の時代に逆戻りしたんじゃよ。ならば、大砲の数で劣る我が国が、世界を出し抜く最大のチャンスじゃ」

「……武力がダメなら、商売と法律の出番、ですな」

坂上が答えると、若林は深く頷いた。

「そういうことじゃ。あの神様は、大陸の『破壊』にはキレるが、そこに住む者同士の『取引』や『小競り合い』には干渉しとらんように見える。……シン、お前の息子(信長)を呼べ。それと、あのフザけた空自のパイロット(雪之丞)もじゃ。出雲艦隊を極秘裏に動かす」

若林はピースを咥え、ギラギラとした目で「次の手」を口にした。

「大陸と海の境界線……どこの国の支配も及んでおらん『空白地帯』を探し出し、そこに日本の『出島』を作る。アメリカに泣きつかれる前に、日本が大陸の資源と利権の『ゲートウェイ』を独占するんじゃ!」

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