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EP 5

コタツの女神と、オリコン1位の聖獣ソング

時間を少し遡る。

魔王ラスティアが『朝倉月人』という底なし沼に沈み、国庫を横領するようになる少し前のこと。

世界の次元の狭間にある「神域」。

そこは、荘厳な神殿でも、光り輝く天界でもなかった。

「……あー、ダルい。魔族も人間も獣人も、なんであんなに年中ドンパチやんのかねぇ。イレギュラー処理する私の身にもなってほしいわ、マジで」

四畳半の和室(概念)。

そこに鎮座するコタツに下半身を突っ込み、色あせたエンジ色の芋ジャージ姿で、プシュッと缶ビール(地球の安価な発泡酒)のプルタブを開ける女がいた。

このマントルシア大陸のシステムを創り上げた創造主であり、次元の調停者・女神ルチアナである。

彼女の周りには、ポテトチップスの空き袋や、地球から取り寄せた新作コスメの箱が散乱していた。

ダァァァンッ!!

突如、四畳半の襖が物理法則を無視して吹き飛び、銀髪の魔王がずかずかと踏み込んできた。

「おいルチアナ!! 飲んだくれてる場合じゃないわよ!!」

「ぶっ!? ちょっ、ラスティア!? あんた急に神域に乗り込んでくんなし! こぼれた! 私の貴重なプレモルがこぼれた!!」

ラスティアはルチアナの襟首を掴むと、そのままコタツごと壁に叩きつけ、凄まじい眼力で『壁ドン』を決めた。

魔王の絶対的な重力場が和室を軋ませる。

「いいから聞きなさい! 私の愛しの月人きゅんが、次のシングルで『これまでにない熱血路線の曲』を歌いたいって、ファンクラブの会報で悩んでたのよ!!」

「……はぁ?」

「お前、神様でしょ!? だったら、月人きゅんが天下を取れるような、最高に熱くてバズる曲を作りなさいよ!! オイ!!」

魔王が創造神に「推しのための楽曲提供」をカツアゲする、神話崩壊の瞬間である。

「はぁ〜、めんどくせぇ……。なんで私が異世界のアイドルの曲なんて……」

ルチアナはため息をつきながら、ポリポリと頭を掻いた。だが、ラスティアの目が「断ればこの空間ごとブラックホールに放り込む」と告げている。

「……しゃあない。じゃあ、ウチの『調停者ガオガオン』の曲でも作ってやっか」

ルチアナはコタツの上にあったチラシの裏に、適当にペンを走らせ始めた。

大陸の秩序を乱す者を消し飛ばす、あの黄金の獅子型・超常兵器。本来なら畏怖と恐怖の象徴であるそれを、地球の『ロボットアニメ風』にテキトーに作詞作曲していく。

「ほい、できた。タイトルは『降臨!聖獣機神ガオガオン』。……BPM高めで、ブラスとギターをガンガン鳴らす感じでアレンジしといて。はい、お疲れさーん」

ルチアナは缶ビールを煽りながら、丸めたチラシをぽいっと投げ渡した。

数日後、地球・日本。

「……なんだこの曲! めちゃくちゃ熱いじゃないか!!」

都内の大手レコード会社のスタジオで、トップアイドル・朝倉月人(20歳)は、匿名の大物プロデューサー『ルチアナ』から送られてきたデモ音源を聴いて震えていた。

ファンサービス精神が旺盛で、常に新しい挑戦を求める月人は、この「謎のロボットアニメ風ソング」を気に入り、すぐさまフルパワーの歌唱と、無駄にクオリティの高いCGを駆使したPVを制作した。

そして、楽曲がリリースされた結果——日本中に異常な旋風が巻き起こった。

『(イントロ:重厚なブラス音と、地響きのようなドラム)』

『アナスタシア……! その絶望の淵で、眠れる魂が目を覚ます!』

『聖獣合体!!』

(雄叫び)

『ガオッ! ガオッ! ガオッ!』

『ガオ・ガオ・ガオ・ガオ・ガオガオオオオン!!』

『【1番】

静寂を切り裂く 黄金きん咆哮こえ

眠れる獅子のに 紅蓮の火が灯る

運命さだめの鎖を引きちぎり

錆びついた空 そのこぶしでぶち抜け!』

圧倒的な歌唱力と、異様に解像度の高い「設定(※ルチアナが書いたガチの神話)」が、日本のオタクたちと一般層の心を完全に鷲掴みにした。

『一人の勇気が 絆を呼び覚まし

五つの光が 一つに重なる時

次元の扉を こじ開けて現れろ!

(叫べ! 魂のブースト!)

起動ブートせよ、ガオン!」

聖・獣・合・体! ガオガオン!!』

『右腕は白虎! 鋼の牙で 絶望さえも砕き尽くせ(ドリル・オン!)

左腕は青龍! 紅蓮の雷 悪を裁くレーザーの雨(シュート・ナウ!)

背中に朱雀! 黄金の翼 自由の空へ舞い上がれ

玄武の重力! 揺るがぬ大地 鉄壁の盾で守り抜け』

「ヤバい! なんだこの謎のアニメソング!?」

「月人くんのシャウト最高! カラオケで絶対盛り上がる!!」

「てか、このガオガオンって元ネタのアニメあるの? 設定が細かすぎるんだけど!」

ネットのSNSは連日トレンド入り。

日本の音楽番組では、月人が『吠えろ獅子ライオン! 聖なる咆哮ハウリング!』と熱唱し、見事オリコンランキング1位を爆走し続けた。

誰も知らない。

その「設定」がアニメなどではなく、太平洋に浮かぶ異世界大陸に実在する絶対防衛システム(ガオガオン)の真実の姿であることを。

そして、アメリカ軍の最新鋭無人機を「声」だけで消し飛ばしたあの黄金の獅子が、今や日本のカラオケボックスで毎夜、酔っ払ったサラリーマンや学生たちに「ガオッ! ガオッ!」と陽気に歌われているという、恐るべき現実を。

「——というわけで、今回のフクオカ公演では、月人きゅんがこの『ガオガオン』をフルコーラスで生歌唱するのよ!! アリーナ最前列でこれを聴かずして、何が魔王よ!!」

現在。

次元の扉を抜け、日本の裏路地——福岡市・中洲の路地裏へと極秘に降り立った魔王ラスティアは、興奮冷めやらぬ様子で、持参した特製ペンライトをブンブンと振り回していた。

「……なるほど。この狂気に満ちた電波ソングには、そのような恐るべき背景(神の関与)があったのですね」

同行した軍師ルーベンスは、人間の姿(黒スーツにコート姿の渋い中年男性)に偽装しながら、頭痛を堪えるようにこめかみを揉んだ。

「で、ですが陛下。我々は敵国の本拠地に潜入しているのです。はしゃぎ過ぎて魔力を漏らさぬよう……」

「分かってるわよ! さあ、まずはフクオカの『豚骨ラーメン』とやらを食しに行くわよ! 替え玉限界チャレンジよ!!」

絶対魔王と、胃痛の軍師。

彼らの福岡上陸は、日本の諜報網すら予測不能な、カオス極まるオタ活遠征の始まりであった。

そしてその裏では、日・アバロン間の恐るべき「経済の化かし合い(代理戦争)」が、静かに火蓋を切ろうとしていた。

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