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EP 3

完璧な後始末クリーニングと、最強の『大家』の誕生

「……ほう。見事な手際じゃな」

坂上真一提督は、ハイライトの煙を燻らせながら、感嘆の息を漏らした。

戦闘終了からわずか三十分。ポポロ村の広場と果樹園では、人狼の執事リバロンによる「芸術的」とすら言える事後処理が行われていた。

「ルナミス帝国の死蟲機は、生体部品と古代魔導機械のハイブリッドです。特異な魔力波長を残すため、このままでは『誰が破壊したのか』を帝国側に解析されてしまいます。ですので……」

リバロンは、優雅な手つきでガラス瓶を取り出した。中には、無色透明の液体が揺らめいている。

「我がポポロ村特製、『月見大根』の絞り汁と『陽薬草』をブレンドした強酸性の消化液です」

リバロンが死蟲機の残骸にその液体を数滴垂らすと、シュゥゥゥ……という音と共に、装甲の内側に残っていた生体組織や魔導神経が跡形もなくドロドロに溶け、ただの「鉄くず」へと変わっていった。

さらに、商人のニャングルがすかさず駆け寄り、溶け残った超硬質の外殻(ヴィッカース硬度1500の装甲)や、動力源であった魔石を素早く麻袋に回収していく。

「おっしゃ! この外殻はええ防具の素材になるで! 魔石も純度が高い! ……なあ提督はん、この死蟲機の『鉄くず』、日本あんたらの技術力で研究してみいひんか? ゴルド商会の特別価格、金貨50枚(500万円)で譲ったるで!」

「カッカッカ! 抜け目ない猫じゃ。ええぞ、防衛省の裏予算で買い取ってやろう。自衛隊の新型防弾チョッキの素材に使えそうじゃけえな」

坂上が二つ返事で快諾すると、ニャングルは「毎度ありー!」と算盤を高らかに鳴らした。

彼らの処理の意図は明確だ。

ルナミス帝国側から見れば、送り込んだ部隊は「ポポロ村の上空で突然通信を絶ち、墜落して爆発した(原因不明の事故)」という痕跡しか残らない。

下手に日本の武器の痕跡を残して戦争の口実を与えるのではなく、「ポポロ村には、得体の知れない強力な防衛システムがある」という不気味な恐怖だけを帝国に植え付ける。

まさに、完璧な情報操作だった。

「……提督さん」

夜が明け、うっすらと白み始めた空の下。

ウサギの耳を揺らしながら、村長・キャルルが坂上の前に歩み出た。

彼女の口元には、すっかりお気に入りとなった「苺ミルク飴」の棒がくわえられている。

「『面』の制圧と、『点』の防衛。……そして、村を一切傷つけないという約束。全部、完璧だったわ。アンタのバカ息子も、少しは骨があったしね」

「親父の横でバカ息子って言うな!」と信長が背後で抗議するが、キャルルは完全に無視した。

キャルルは、小さな手をスッと坂上に差し出した。

「合格よ。今日からアンタたち日本は、ウチらポポロ村の『専属用心棒』。……そして、この大陸の富と技術を地球に持ち帰るための『独占ゲートウェイ(出島)』として、この村を使うことを許可してあげる」

坂上は、その小さな、しかしマッハ1の速度で鉄を砕く恐るべき手に、分厚い掌を重ねた。

「ありがたく引き受けよう。大日本帝国は、大家(ポポロ村)の平和と景観を全力でお守りする。……これからよろしく頼むぞ、村長」

異世界の絶対的強者(大家)と、現代日本の猛将(番犬)による、前代未聞の「業務提携(同盟)」が、ここに正式に結ばれた。

「——そうか。シンがやりおったか」

同日の昼下がり。地球、東京。

総理官邸の自室で報告を受けた若林幸隆幹事長は、満足げに『ピース』の煙を吐き出した。

『ええ。アメリカのCIAも、中国の工作員も、村の執事に手も足も出ずに縛り上げられました。連中には手出しできんですな。これでポポロ村は、完全に日本の「裏庭」です』

電話の向こうで、坂上が低い声で笑う。

「でかしたぞ、シン。これで日本は、新大陸の資源開発と魔導技術の独占権イニシアチブを握った。アメリカのフォークナー大将には、後で骨の髄までしゃぶれる『契約書』を送りつけてやるわい」

若林は電話を切り、ふう、と息をついて革張りの椅子に深く腰掛けた。

第一段階(ゲートの確保)は完璧に成功した。

だが、若林の老獪な頭脳は、すでに「次のステージ」を見据えていた。

「……ポポロ村という『出島』は手に入れた。だが、大陸の三大勢力(ルナミス、アバロン、レオンハート)は、黙って日本が資源をチューチュー吸い上げるのを指をくわえて見とるほど甘くはないじゃろう」

若林は机の引き出しを開け、防衛省の情報局(と早乙女蘭のAI)が命懸けで収集した「大陸の要人ファイル」を取り出した。

「ルナミス帝国は、先ほどの『死蟲機』の一件で疑心暗鬼に陥っとる。レオンハート獣人王国は、キャルル村長の祖国じゃから交渉の余地はある。……問題は、大陸最強の魔力を持つ北方国家、『アバロン皇国』じゃ」

若林は、一枚の写真(魔導通信で隠し撮りされた不鮮明な画像)を指で弾いた。

そこに写っているのは、圧倒的な美貌と冷酷さを併せ持つアバロンの絶対君主——魔王ラスティア。

ガオガオンの報復システムがなければ、彼女の『ブラックホール』魔法一つで、地球の主要都市など簡単に消滅してしまうほどの規格外の化け物だ。

「この魔王をどう抑え込むか。……武力もカネも通じん相手じゃ」

若林が唸っていると、部屋のドアがノックされ、内閣情報官が入室してきた。

「幹事長。早乙女蘭エンジニアのAIが、アバロン皇国の通信波長から『奇妙な傍受データ』を拾い上げました。至急、ご確認いただきたいと」

「奇妙なデータ? なんだ、魔王が宣戦布告でもしてきたか?」

「いえ、それが……」

情報官は、ひどく困惑した顔でタブレット端末を差し出した。

そこには、魔王ラスティアが側近と交わした「極秘会話の翻訳テキスト」が表示されていた。

『——ルチアナよ。異世界(日本)とやらが我々の海の前に現れたそうね。ところで、あの国にあるという「アイドル」という文化……。私が推している「朝倉月人」の新しいライブチケットは、軍を動かしてでも手に入れなさい。これは勅命です』

「…………は?」

若林は、咥えていたピースを危うく膝に落としそうになった。

百戦錬磨の政治の妖怪が、目をパチクリとさせてテキストを二度見する。

「……あ、アイドル? 魔王が? 日本の男性アイドルグループのファンじゃと?」

「はい。どうやら数年前から、次元の歪みを通して日本のテレビ電波を受信していたらしく……彼女、筋金入りの『オタク』のようです」

数秒の沈黙の後。

若林の肩が小刻みに震え出し、やがてそれは腹の底からの大爆笑へと変わった。

「ハッハッハッハ!! クックック、傑作じゃ!! 神様ガオガオンは核兵器を無効化したが、この世界にはもっと強烈な『大量破壊兵器』があったわい!!」

若林はバンッと机を叩き、ギラギラとした猟犬の目で情報官を睨みつけた。

「おい! 今すぐ芸能事務所に連絡を取れ! 福岡のPayPayドームで開催される朝倉月人のライブ、VIP席を国の権限(予算)で最優先で押さえるんじゃ!!」

「えっ!? は、はい! しかし、何のために……?」

「決まっとろうが!」

若林幸隆は、狂気と歓喜の入り混じった顔で、最高の『外交カード』を高らかに宣言した。

「魔王を『接待』するんじゃ! ライブの特等席と限定グッズを餌にして、アバロン皇国と不可侵条約を結ぶ! ……ようこそ大日本帝国へ。骨の髄まで、推し活(オタク文化)の沼に沈めてやるけえのう!!」

現代兵器、兵站、そしてサブカルチャー。

日本が持つ全ての「武器」を総動員した、前代未聞の異世界買い叩きビジネス。その狂乱の第二幕が、今、上がろうとしていた。

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