表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/41

EP 12

武士と月兎の『点』の暴力

ズシン、ズシン、ズシンッ!!

3体の『死甲虫型ヘヴィ・タンク』が、地響きを鳴らしてポポロ村の広場を蹂躙しようと突進してくる。

それはまさに、意志を持った装甲車だった。ヴィッカース硬度1500を超える超硬質の外殻は、並の対戦車ミサイルすら弾き返す。

「アカン! あんな鉄の塊に、ただの剣で勝てるわけないやろ! 提督はん、息子さんを止めな……!」

商人のニャングルが叫ぶが、坂上真一提督はハイライトの煙を細く吐き出し、動かなかった。

「よく見とけ、猫の兄ちゃん。アレはただの剣術バカじゃねえ。……自衛隊の地獄レンジャーと、俺のシゴキを生き抜いた『本物』じゃ」

死甲虫の1体が、巨大なアゴをハサミのように振りかざし、信長を両断しようと迫る。

だが、信長は逃げない。

極限の集中。北辰一刀流の呼吸法が、信長の周囲の時間をスローモーションに変える。

(親父の剣はもっと速く、ウサギの村長はもっと重かった……。お前らの大振りな攻撃など、止まって見える!)

死甲虫の顎が振り下ろされた瞬間。

信長は、かつて甲子園で4番を張った類稀なる脚力と、レンジャー訓練で培った爆発的な瞬発力で、死甲虫の懐(斜め下)へと滑り込んだ。

『ギ……?』

「硬い外殻を斬る必要はない! 動く以上、必ず『継ぎジョイント』がある!!」

信長が踏み込む。

その手にあるのは、美術品ではない。現代の特殊合金で鍛え直された、実戦用の大太刀。

信長は、強靭な背筋力から生み出される捻りを利用し、死甲虫の「頭部と胴体の隙間」——わずか数センチの関節部分へ、刀を真っ直ぐに突き入れた。

ザクゥゥゥッ!!

装甲の隙間を縫い、刃が深々と内部の魔導神経束を貫く。

そのまま信長は刀を捻り、テコの原理と自身の体重を乗せて、カブトムシの頭部を強引に跳ね上げた。

「シィィッ!!」

バキィッ! という鈍い音と共に、1体目の死甲虫が完全に沈黙し、巨体を地面に投げ出した。

内部構造を破壊されたのだ。

「な、なんちゅう腕力と精度や……! 走りながら、あのミリ単位の隙間を正確に突きよったで!?」

ニャングルが驚愕に目を剥く。

信長は止まらない。

刃を抜く反動を利用して空中に跳躍すると、迫り来る2体目の背中に着地。刀を逆手に持ち替え、甲殻の隙間である「はねの付け根」に渾身の力で刃を突き立てた。

緑色の体液が噴き出し、2体目も機能停止して崩れ落ちる。

「ふぅ……」

信長は刀に付いた体液を振り払い、残る最後の1体——一回り大きいリーダー格の死甲虫と対峙した。

だが、信長はそこで刀を鞘に納め、スッと横に退いた。

「……お膳立てはしたぞ、村長。日本の『番犬』としての働き、これで及第点はもらえるか?」

信長が視線を向けた先。

そこには、ポッケから出した新しい苺ミルク飴を口に放り込み、トンファーを構えたキャルルが立っていた。

「……ふーん。アンタ、対人戦はからっきしだけど、こういう魔獣バケモノ狩りの技術は一級品ね。少しは見直してあげたわ」

キャルルはニヤリと笑うと、トンファーを握りしめ、陸上競技のクラウチングスタートのような極端に低い姿勢をとった。

最後の死甲虫が、信長ではなくキャルルを最大の脅威と認識し、轟音を立てて突進してくる。

対するキャルルは、深く息を吸い込んだ。

月兎族の血が沸騰し、全身に凄まじい闘気が巡る。

「ウチの村に泥を塗ったこと、あの世で後悔しなさい!」

ドォォォォン!!

音速の壁を突破する衝撃波ソニックブームが、再びポポロ村の広場を揺らした。

キャルルはマッハ1のトップスピードで死甲虫に向かってダッシュし、敵の目前で一気に地上20メートルまで跳躍した。

月明かりを背に、彼女の身体が空中で一回転する。

それは、約33,750ジュール——大口径の対物ライフルすら凌駕する破壊の運動エネルギーを、特注の強化靴の「一点」に集中させる究極の絶技。

別名、ライダーキック。

「——流星脚メテオ・ストライク!!」

空から放たれたキャルルの踵が、死甲虫の最も分厚い頭部装甲に激突した。

カァァァァンッッ!!!

金属同士がぶつかり合うような甲高い爆音。

ヴィッカース硬度1500の超硬質装甲が、まるで薄いガラスのように粉々に砕け散った。

強烈な運動エネルギーは外殻を突き破り、死甲虫の内部へと浸透。そのまま巨体を押し潰し、地面に巨大なクレーターを穿ちながら、完全にミンチへと変えた。

「……す、すげえ……。装甲の隙間を狙う俺の技術が、馬鹿らしくなるほどの純粋な『破壊力』だ」

巻き起こる土煙を腕で防ぎながら、信長は冷や汗を流して笑った。

もしあの蹴りが、自分の顎に入っていたら……。想像するだけで首筋が寒くなる。

土煙が晴れると、クレーターの中心にキャルルが降り立っていた。

彼女は何事もなかったかのように靴の汚れを払い、トンファーを背中に戻す。

「ふぅ。食後の良い運動になったわ」

ルナミス帝国が放った死蟲機の部隊は、空の『面』の制圧(F-35B)と、地上の『点』の暴力(信長&キャルル)の完璧な連携により、たった十数分で文字通り「全滅」した。

誰一人、村の人間を傷つけることなく。

「……お見事です、皆様。ブラボー」

パチパチパチ、と。

背後から、静かな拍手が聞こえてきた。

人狼の執事リバロンが、どこから持ってきたのか、長い柄のほうきと塵取りを手に持って歩み出てきた。

「日本の皆様の火力と精密な制圧技術、そして我が村長の圧倒的な武力。素晴らしい共同戦線でした。……さて、お客様をこれ以上お待たせするわけにはいきません。残りの『お掃除』は、私にお任せください」

リバロンは、冷たい狼の目で、死蟲機の残骸たちを見下ろした。

「ルナミス帝国には、『彼らは夜間飛行の事故で、自爆した』ということにしなければなりませんからね。……完全犯罪クリーニングの仕上げと参りましょう」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ