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聖血のロゼル  作者: チョコレートスターフィッシュ
第5章

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廃坑。

アンナと別れたレイは、宿の部屋に戻ると、さっそく仕事の準備に取りかかった。

 今回の目的地は、グランゼルの北東に位置する廃坑だ。

 かつては魔石の採掘で栄えた鉱山だったらしいが、採掘量の減少と坑道の崩落が相次ぎ、数年前に閉鎖されたという。

 それから長い年月が経ち、坑道の奥には魔物が棲みつくようになった。

 そんな場所で、新たに魔石の豊富な区域が見つかった。

 スマルグの話では、そこを調査するのが今回の依頼だという。

「……さて、何を持っていくか」

 レイはベッドの上に装備品を並べ、ひとつずつ状態を確かめていった。

 まずは長剣。

 鞘から抜き、刃に欠けがないか、錆が浮いていないかを確認する。刃こぼれはない。研ぎ直すほどでもなかったが、念のため砥石を当てておく。

 続いて、剣の柄と鍔。

 握りに緩みがないか、力を込めて確かめる。戦闘中に武器が手から滑り落ちれば、それだけで命取りになりかねない。

 問題はなかった。

 レイは剣を鞘へ戻し、次に背負い式の小型クロスボウを手に取った。

 弦の張りを確かめ、機構に異常がないかを調べる。

 ボルトは一本ずつ点検し、使えるものを数え直した。廃坑の中では、遠距離から敵を仕留められる機会があるとは限らない。それでも、狭い通路の向こうにいる相手を牽制できるだけで、選択肢は増える。

 予備の弦も忘れずに荷物へ加えた。

 次は防具だ。

 黒い革鎧の留め具を確認し、傷んだ箇所がないかを調べる。肩や脇腹の革には細かな傷が増えていたが、すぐに交換が必要なほどではない。

 ベルトの金具を締め直し、腰のポーチには短いナイフと火打ち石、予備の紐を入れた。

 それから、革袋を取り出す。

 中身は止血用の布、傷口を洗うための薬液、消毒薬、簡単な治療薬。それぞれの残量を確かめ、足りないものを買い足す必要があると判断した。

 レイは荷物の一覧を紙に書き出した。

 武器、防具、治療道具、食料、水、灯り。

 最後に、坑道で使う道具を確認する。

 廃坑という場所を考えれば、通常の迷宮探索とは勝手が違う。

 松明だけでは、風の流れや煙の滞留によって使いにくくなる場所もあるだろう。予備の火口と油を用意し、灯りが消えた場合に備えて小型のランタンも持っていく。

 さらに、細いロープと楔、簡単な工具を加えた。

 崩落した通路や、足場の悪い場所に遭遇する可能性があるからだ。

 すべてを持てば荷物は重くなる。

 しかし、必要なものを削りすぎるのも危険だった。

「……こんなものか」

 ひと通りの確認を終え、レイは荷物を背負ってみた。

 重心が偏っていないか、動きを妨げないか。腰を落とし、軽く跳ね、剣を抜く動作も試してみる。

 問題はない。

 荷物を下ろすと、レイは紙に書いた一覧へ最後の印をつけた。

 準備に手を抜くつもりはなかった。

 今回の依頼がどれほど危険なのか、現時点では分からない。

 だからこそ、できることはすべて済ませておく。

 それが、長く冒険者を続けてきたレイのやり方だった。


必要な買い物を済ませた頃には、陽が西へ傾き始めていた。

 レイは荷物を背負い直し、待ち合わせ場所へ向かった。

 グランゼルの北門にほど近い、荷馬車の集まる広場。

 冒険者や商人が行き交うその一角に、見覚えのある男が立っていた。

「おう。来たか、レイ」

 スマルグだった。

 相変わらず人当たりのよさそうな笑みを浮かべている。革鎧の上に厚手の外套を羽織り、腰には片手剣を下げていた。

「ああ。待たせたか?」

「いや、俺たちも今来たところだ」

 スマルグは軽く手を振ると、背後にいる三人へ視線を向けた。

「紹介しておこう。今回、一緒に廃坑へ入る仲間たちだ」

 レイは三人を順に観察した。

 最初に目に入ったのは、大柄な男だった。

 年齢は三十歳前後だろうか。厚い胸板と太い腕を持ち、傷のついた金属鎧を身につけている。背中には大きな盾を背負い、腰には幅広の剣を吊るしていた。

「ニグルドだ。前衛を担当している」

 男は短く名乗った。

 無駄口を叩くタイプではなさそうだ。盾の縁にはいくつもの傷があり、実戦経験もそれなりに積んでいるように見えた。

「よろしく頼む」

 レイが差し出した手を、ニグルドは力強く握り返した。

 次に、スマルグの隣に立つ細身の男へ目を向ける。

 年齢は二十代半ばほど。軽装で、腰の左右に短剣を差していた。指先には細かな傷があり、道具を扱う仕事にも慣れているようだった。

「エドだ。斥候と罠の確認を担当している」

「レイだ。よろしく」

「こちらこそ」

 エドは人懐こい笑みを浮かべた。

「廃坑は初めてか?」

「本格的に潜るのは初めてだな。坑道の構造も分からない。案内は頼りにしているよ」

「任せてくれ。古い坑道の地図もある。全部が正確とは限らないが、何もないよりはマシだろう」

「それは助かる」

 最後の一人は、少し離れた場所に立っていた。

 肩まで届く栗色の髪を後ろで束ねた、二十歳そこそこの女だ。軽い革鎧を身につけ、背中には弓、腰には矢筒を携えている。

 彼女はレイと目が合うと、軽く会釈した。

「ミレアよ。弓で後方支援を担当しているわ」

「レイだ。よろしく」

「ええ。スマルグから話は聞いているわ。腕の立つ冒険者なんですって?」

「さてね。話半分に聞いておいてくれ」

 レイは肩をすくめた。

「実際に一緒に動けば分かるさ」

「ふふっ、そうね」

 ミレアは小さく笑った。

 四人とも、見た目だけで判断するなら、特に不自然なところはない。

 ニグルドは盾役、エドは斥候、ミレアは弓手。スマルグが全体をまとめ、そこへレイが加わる。

 役割の組み合わせとしては悪くなかった。

 レイは三人の装備をひと通り確認し、続いてスマルグへ視線を戻した。

「それで、今回の依頼について、もう一度確認しておきたい」

「もちろんだ」

 スマルグは待っていたとばかりに頷いた。

「依頼の表向きの目的は、廃坑の奥に見つかった魔石の豊富な区域の調査だ。魔石の埋蔵量を確認し、採掘できる状態なのかを確かめる」

「魔物の状況は?」

「坑道の入口付近では、ゴブリンや小型の魔物が目撃されている。奥のほうは情報が少ない。だから、無理に進むつもりはない」

「帰還の判断は?」

「全員の安全を優先する。危険が大きいと判断したら引き返す。そこは依頼を受ける前から決めてある」

 スマルグは淀みなく答えた。

 レイはその顔をじっと見た。

 話に矛盾はない。

 もっとも、口頭での説明がどれほど立派でも、実際に危険へ直面したときに同じ判断ができるかどうかは別の話だ。

「分かった。現地で何かあれば、その都度相談しよう」

「ああ。頼りにしているぜ」

 スマルグは笑顔で答えた。

 レイは小さく頷き、周囲を見回した。

「出発前に、装備と荷物を確認しておこう。廃坑に入ってから不足に気づいても遅いからな」

「確かに、その通りだ」

 スマルグが三人へ声をかける。

 それぞれが荷物を下ろし、装備を確かめ始めた。

 レイも自分の荷物を開き、必要な道具が揃っていることをもう一度確認した。

 ガルドは盾の留め具を締め直し、エドは地図と工具を取り出して点検する。ミレアは矢筒の本数を数え、弓の弦を軽く弾いて状態を確かめていた。

 特に問題はなさそうだった。

 準備を終えると、一行は北門を抜け、グランゼルの外へと歩き出した。

     


 街道を離れ、北東へ向かう道は次第に荒れていった。

 人の往来が減り、踏み固められていた道も、いつしか雑草と砂利に覆われ始める。

 遠くには低い山並みが連なっていた。

 その一角に、かつて鉱山として利用されていた山がある。

 廃坑へ近づくにつれ、周囲の景色から人の気配が薄れていった。

 道端には朽ちた荷車が放置され、錆びた鉄製の道具が草むらに半ば埋もれている。かつて採掘に従事していた者たちが使っていたものだろう。

「ずいぶん寂れた場所だな」

 レイが呟くと、先頭を歩くエドが振り返った。

「閉鎖されてから、まともに管理されていないらしい。坑道の一部は崩れているって噂だ」

「地図には載っているのか?」

「ああ。入口付近と、古い採掘区域まではな。ただ、今回見つかった場所は地図にない」

「つまり、実際に行って確かめるしかないわけか」

「そういうことだ」

 エドは地図を畳み、腰の袋へしまった。

 やがて、木々の向こうに石造りの建物が見えてきた。

 かつて鉱山の管理に使われていた施設だろう。屋根の一部は崩れ、壁には蔦が這っている。入口には錆びた鉄柵が倒れかかり、その奥には暗い穴が口を開けていた。

 廃坑の入口だった。

 レイは歩みを止めた。

 山肌に開いた坑道は、陽の光を拒むように黒々としている。

 入口の周囲には、古いレールや木材が散乱していた。地面にはいくつもの足跡が残っている。新しいものもあれば、雨風に削られた古いものもあった。

 レイはしゃがみ込み、地面を観察した。

 足跡の向き、深さ、数。

 少なくとも、最近ここを通った者がいる。

「……誰かが出入りしているな」

 その言葉に、スマルグが隣へやって来た。

「魔石の噂を聞きつけた連中かもしれないな。あるいは、魔物が外へ出てきた跡か」

「どちらも考えられる。入口付近だけで判断するのは危険だな」

 レイは立ち上がり、坑道の奥を見据えた。

 冷たい風が、暗闇の中から微かに吹き出している。

 湿った土と、古い木材の匂い。

 その奥には、長い年月、人の手が入っていない空間が広がっているはずだった。

「ここから先は、全員でまとまって動こう。勝手に先へ進まないこと。異変があれば、すぐに知らせる」

 レイが告げると、ガルドたちはそれぞれ頷いた。

「了解だ」

 スマルグも笑顔で応じる。

「じゃあ、行こうか。今回の目的地は、この先だ」

 レイは長剣の柄に手を添え、背中のクロスボウが邪魔にならない位置に収まっていることを確かめた。

 そして、暗い坑道の入口へ足を踏み出す。

 陽の光が背後から遠ざかり、五人の姿が少しずつ闇の中へと消えていった。




 廃坑の入口を抜けると、空気が変わった。

 湿った土の匂い。長い年月をかけて染み込んだ水の臭気。そして、鼻の奥にまとわりつく、古びた鉄のような匂い。

 レイは足を止め、周囲を見回した。

 坑道の壁には、かつて鉱石を運び出すために設置されていたらしい木製のレールが残っている。ところどころ腐食し、天井から垂れ下がった木材には白い菌糸が広がっていた。

「足元に気をつけろ。崩れてる場所もある」

 先頭を歩くスマルグが振り返り、後続に声をかけた。

「エド、前方の確認を頼む。ニグルドは後ろにも気を配ってくれ。ミレアは周囲の警戒。レイは俺と一緒に来てくれ」

「了解」

 レイは短く答えた。

 指示の出し方に不自然なところはない。

 斥候を先行させ、盾役を後方にも気を配れる位置に置き、弓使いには周囲を警戒させる。自分とレイは中央付近で全体を見渡す。

 少なくとも、迷宮探索の基本は心得ているらしい。

 もっとも、指揮がまともだからといって、信用できる人間とは限らない。

 レイはそんな考えを頭の片隅に置きながら、スマルグの後ろについた。

「この廃坑、最後に人が入ったのはいつなんだ?」

「さあな。正確な記録は残っていないらしい。ただ、入口付近なら何度か探索されている。奥の魔石区域については、まともな調査記録がないそうだ」

「それで今回、埋蔵量を調べるわけか」

「ああ。魔石が豊富に残っているなら、採掘する価値もある。もちろん、危険が大きければ引き返す」

 スマルグは気負った様子もなく答えた。

 その言葉に、レイは小さく頷いた。

 危険なら引き返す。

 冒険者なら当然の判断だ。

 ただし、口にするのと実際に撤退するのとでは、まるで意味が違う。

 奥で価値のあるものを見つけたとき、人間がどんな判断をするのか。

 レイは嫌というほど見てきた。

「止まって」

 先頭のエドが片手を上げた。

 五人の足が止まる。

「どうした?」

 スマルグが尋ねる。

「前に何かいる。音がした」

 エドは腰を落とし、坑道の先へと視線を向けた。

 レイも耳を澄ませた。

 ――カリ、カリ。

 何か硬いものが、石を引っ掻くような音。

 風の音ではない。

 一定の間隔で繰り返されている。

「ゴブリンか?」

 ミレアが弓に矢をつがえた。

「まだ分からない。ここからじゃ姿が見えないな」

 エドはそう言って、壁際を慎重に進んだ。

 レイは坑道の床に目を落とした。

 砂埃の上に、いくつかの足跡が残っている。

 小さい。

 爪先が不自然に外側を向いているものもあった。

 少なくとも、一匹や二匹ではなさそうだ。

「エド、無理に近づくな。足跡が複数ある」

「分かってる」

 エドは振り返らずに答えた。

 その直後だった。

 坑道の奥から、甲高い鳴き声が響いた。

「ギャッ!」

 続いて、何かが地面を蹴る音。

 闇の向こうで、小さな影が動いた。

「ゴブリンだ! 二匹!」

 エドが叫ぶ。

「ミレア!」

「見えてる!」

 弦が鳴った。

 放たれた矢が闇を切り裂き、一匹のゴブリンの肩に突き刺さる。

 ゴブリンがよろめいた隙に、ニグルドが大盾を構えて前へ出た。

「来い!」

 突っ込んできたもう一匹が、盾に弾かれて転倒する。

 スマルグが剣を抜いた。

 次の瞬間、ゴブリンの首筋に刃が走る。

 短い悲鳴が途切れ、坑道に静寂が戻った。

「……これで終わりか?」

 ミレアが矢を下ろす。

「いや」

 レイは倒れたゴブリンを見た。

「まだいるかもしれない。死体を調べる前に、周囲を確認しろ」

 言い終わるより早く、エドが奥へ視線を向けた。

「右の横穴、動いたぞ!」

 暗がりから、三匹目のゴブリンが飛び出してきた。

 狙いは、最後尾にいたミレア。

 彼女が振り返ったときには、もう距離がなかった。

 レイは腰の剣に手をかけた。

 だが、抜かなかった。

 代わりに足元の石を拾い、ゴブリンの顔面へ投げつける。

 石が鼻先に直撃した。

 ゴブリンが怯んだ瞬間、ミレアが後退し、ニグルドが盾を叩きつける。

 鈍い音が響いた。

 ゴブリンは壁にぶつかり、そのまま動かなくなった。

「助かった。ありがとう、レイ」

「礼はいい。周囲を見ろ。こいつら、俺たちが通るのを待っていたわけじゃない。横穴に潜んでいたんだ」

 レイは石を拾った手を軽く振り、指先についた埃を払った。

「ここを縄張りにしてる可能性がある。先に進むなら、横穴の位置を把握しておいたほうがいい」

「なるほどな」

 スマルグが感心したように頷いた。

「流石だな、レイ、誘った甲斐があるってもんだ」

「おだてても無駄だぞ」

 レイはそれだけ答えた。

 褒められたところで、何も変わらない。

 廃坑の奥には、まだ何が潜んでいるか分からないのだから。

 五人は周囲を確認し、倒したゴブリンから使えそうな素材を回収した。

 それから、再び坑道の奥へと歩き始めた。

 先ほどよりも、全員の足取りが慎重になっていた。

 レイは壁に残る古い採掘跡を眺めながら、静かに考える。

 魔石が豊富に眠る区域。

 まともな調査記録が残っていない場所。

 そして、今も魔物が棲みついている廃坑。

 珍しい話ではない。

 だが、こういう場所では、魔物よりも人間のほうが厄介なこともある。

 レイは前を歩くスマルグの背中を一瞥した。

 今のところ、疑う理由はない。

 だからこそ、余計なことは考えず、目の前の探索に集中する。

 危険を見落とさず、仲間の動きを把握し、いつでも動けるようにしておく。


坑道は、奥へ進むにつれて少しずつ広くなっていった。

 壁には採掘用のつるはしで刻まれた跡が無数に残り、ところどころに錆びた鉄製の支柱が立っている。天井を支えるには心許ないものも多く、長年の湿気で木材が黒ずんでいた。

「この辺りは、昔の採掘区域だな」

 エドが壁に手を触れながら言った。

「地図にも、この辺りまでは記載がある。ここから先は、ほとんど白紙だけどな」

「崩落で道が塞がれたのか?」

 レイが尋ねると、エドは肩をすくめた。

「それもあるだろうな。採掘量が減ったあと、どこまで掘り進めたのか、記録が残っていないらしい」


「記録がないか。まあ、当然だな」

レイは壁に残る採掘跡を眺めながら呟いた。

「破棄する鉱山の地図なんざ、わざわざ書く奴はいない」

「違いないな」

スマルグは苦笑すると、再び坑道の奥へと歩き始めた。

その先には、果てしない闇が広がっていた。

松明の明かりが照らす範囲は限られている。少し先へ目を向ければ、岩肌も天井も闇に溶け込み、その先がどれほど続いているのかさえ分からなかった。

スマルグは足を止めると、腰に吊るしていた松明を一本取り出した。

「少し待っていろ」

そう言って、火打ち石を使い、松明に火をつける。

揺らめく炎が、周囲の岩壁を赤く照らした。

スマルグはその松明を軽く振り、火の具合を確かめると、前方の暗闇へ向かって放り投げた。

松明は弧を描いて飛び、少し先の地面に転がった。

炎が揺れる。

レイたちは息を潜め、その様子を見守った。

数秒。

十数秒。

やがて、スマルグが小さく頷いた。

「問題なさそうだな」

「今のは?」

ミレアが尋ねる。

「空気の確認だ」

スマルグは松明から目を離さずに答えた。

「鉱山には、ガスが溜まっている場所や、空気の流れが悪い場所がある。そういうところじゃ、火が消えたり、燃え方がおかしくなったりすることがあるんだ」

「なるほど……」

ミレアは納得したように頷いた。

「だから、先に松明を投げたのね」

「ああ。もちろん、これだけで全ての危険が分かるわけじゃないがな。何もしないよりはマシだ」

スマルグはそう言って、前方の松明をじっと見つめ続けた。

炎は消えていない。

揺らめきながら、周囲を照らしている。

レイもまた、その火を注意深く観察していた。

坑道の奥へ進む以上、空気の状態を確かめるのは重要だ。まして、ここは長い間放棄されていた鉱山である。

どんな危険が潜んでいてもおかしくはない。

「鳥を使って確かめる方法もあるんだがな」

スマルグが言った。

「鳥?」

ニグルドが首を傾げる。

「昔から、坑道に鳥を連れて入る鉱夫もいたらしい。空気の悪い場所では、鳥の様子がおかしくなることがあるからな」

「へえ。そんな方法もあるのか」

「ただ、今回はやめておいた。鳥が鳴けば、余計な連中に気づかれるかもしれないからな」

その言葉に、レイは小さく頷いた。

廃坑に潜んでいるのが、先ほどのゴブリンだけとは限らない。

不用意な音は立てないに越したことはなかった。

スマルグはしばらく松明を凝視していたが、やがて問題がないと判断したのか、前方へ歩いていった。

地面に転がった松明を拾い上げ、再び手に持つ。

「よし、進むぞ。足元に気をつけろ」

「了解」

五人は再び歩き始めた。

松明の炎が揺れるたび、岩壁に伸びた影が不気味に形を変える。

湿った空気。

錆びた鉄の匂い。

そして、どこまでも続く暗闇。

レイは剣の柄に軽く手を添えながら、前を歩くスマルグの背中を見つめた。

今のところ、探索は順調だ。

だが、廃坑の奥には、まだ誰も知らないものが眠っている。

それが希少な魔石やお宝だけであることを、レイは願わずにはいられなかった。



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