ランドへの報告。
迷宮から脱出したロゼル一行。
長い階段を上り、ようやく地上へと続く出口を抜けた。
外の空気が、妙に新鮮に感じられる。
「やっとついたー……」
リアが両手を上げ、大きく伸びをする。
「お疲れ様です、リア」
アゼリアも微笑みながら声をかける。
「アゼ姐もお疲れ様〜」
そんな二人の後ろから、ロゼルが姿を現した。
その背中には、エリナが乗っている。
「足が痛い」と騒ぐエリナを、結局ロゼルが背負ってきたのだ。
ロゼル自身もさすがに疲労が溜まっているのか、目はしょぼしょぼとしている。
髪には埃が絡みつき、服は泥だらけ。
そして――裸足だった。
迷宮の中で自分の靴をエリナに譲ったため、今も素足のままだ。
そんなロゼルを見て、心配そうにリアが言う。
「ロゼル……くたびれてるね……大丈夫?」
「……ああ」
ロゼルは短く答えた。
そして、大きな欠伸を一つ。
「さすがに疲れた……」
「そりゃそんな状態じゃね」
リアが呆れたように言う。
ロゼルがエリナを背中から降ろそうとする。
しかし――
エリナは首にがっちりと腕を回したまま、なかなか離れようとしない。
「ちょ……おい……着いたぞ、エリナ?」
ロゼルが困ったように声をかける。
「そろそろ降りてくれ……」
「いやよ……」
エリナはロゼルの背中に頬を寄せたまま、ぎゅっと腕に力を込める。
「このまま宿まで向かって頂戴」
「……はぁ?」
「いいじゃない、たいして遠くないでしょ?」
エリナは何かを思いついたように顔を上げる。
「うん、それがいいわ」
「いや、俺は――」
「決まりね」
「まだ何も決まってねぇよ……」
ロゼルは深いため息を吐いた。
その様子を、アゼリアはじっと見つめていた。
いつもの穏やかな微笑み。
――のはずだった。
だが、どこか違う。
口元は笑っているのに、妙にぎこちない。
「エリナさん」
アゼリアが静かに口を開く。
「いい加減、ロゼル様を解放していただけますか?」
「もう地上へ着いたのですから」
「うるさいわね、貴方」
エリナはロゼルの首に腕を回したまま、アゼリアを見る。
「ロゼルは私に優しいの!」
そして、当然のようにロゼルへ顔を向ける。
「ねぇ、ロゼル?」
「……」
ロゼルは何とも言えない顔をした。
その横で――
アゼリアの眉が、ピクピクと痙攣する。
「…………」
リアはその様子を見て、思わず一歩だけ後ずさった。
「うゎ……」
小さな声が漏れる。
ロゼル同様、泥と埃で汚れた格好のオリゴが、困ったように口を開いた。
「姫様……いい加減にしてくだされ。ロゼル様にご迷惑ですぞ?」
「オリゴ、貴方は黙ってて!」
エリナはロゼルの背中から顔だけを覗かせ、むっとした表情を浮かべる。
しかし、オリゴも今回は引かなかった。
「エリナ様……」
少しだけ諭すような口調になる。
「ロゼル様に懐いておられるのはよろしいですが、あまり我儘をおっしゃると……嫌われますぞ?」
「……え?」
その言葉に、エリナの表情がぴたりと止まった。
「き、嫌われる?」
エリナの腕が、ほんの少し緩む。
「ロゼルは……そんなことで怒らないわ!」
「それはどうでしょうな」
オリゴは間を置かずに続けた。
「いかにお優しいロゼル様でも、あまりしつこくされれば嫌になってしまうかもしれませんぞ?」
「…………」
「それに姫様」
オリゴはエリナの姿を上から下まで眺める。
「今の姫様は泥と汗で大変汚れております」
「……っ」
エリナの顔が引きつる。
「このままロゼル様に抱きついていては、汚れた体の匂いを嗅がれてしまいますぞ?」
「…………!」
エリナの目が大きく見開かれた。
自分の服を見下ろす。
泥。
埃。
汗。
そして、迷宮から出てきてから一度も身体を洗っていない。
「……」
エリナはしばらく黙り込んだ。
そして、ちらりとロゼルを見る。
ロゼルは何も言わず、前を向いたままだ。
「……ロゼル」
「ん?」
「……なんでもないわ」
エリナは小さく呟く。
それから渋々と、ロゼルの首に回していた腕の力を抜いていく。
「……わかったわよ」
ようやく解放されたロゼルが、ほっとしたように肩を回す。
そして誰にも聞こえないよう、小さく呟いた。
「……オリゴ。よくやった」
オリゴは何も言わず、苦笑いを浮かべた。
その様子を見ていたアゼリアが、ほっとしたように小さく息を吐いた。
エリナがようやくロゼルの背中から降り立つ。
それを確認したオリゴも、胸を撫で下ろした。
「皆様……ロゼル様。本当にご迷惑をおかけしました」
オリゴは深々と頭を下げる。
「このご恩は、必ずお返しいたします」
そう言って顔を上げると、少し申し訳なさそうに続けた。
「ですが、今日のところはこの辺りで……」
「ロ、ロゼルはこの後どうするの?」
エリナが不安そうにロゼルを見る。
「俺か?」
ロゼルは少し考えてから答えた。
「ギルドに報告をしないといけないんだ」
「それに、依頼の品も換金したい」
「あ……そう」
エリナの表情が、わずかに曇る。
そして、しばらくモジモジしたあと、小さな声で尋ねた。
「……また会える?」
ロゼルはそんなエリナを見て、ふっと優しく笑った。
「俺に会いたいなら、スラムの安宿を探すか、ギルドを通せば簡単に会えるさ」
「安宿?」
エリナが目を丸くする。
そして何かを思いついたように、ぱっと表情を明るくした。
「な、なら!」
「私の泊まっている宿に来て!」
「お金は私が払うわ!」
振り返ってオリゴを見る。
「オリゴ! 手配しておきなさい!」
「かしこまりました、姫様」
オリゴは苦笑しながら頷いた。
そしてロゼルへ向き直る。
「ロゼル様も、もしご迷惑でなければ是非……」
「宿の名は『金糸雀亭』と言います」
「ロビーの者に私の名を伝えてくだされば、対応してくれるかと」
「金糸雀亭……」
ロゼルが少し考える。
「……あの貴族御用達の?」
「はい」
「流石は姫さんだな……」
ロゼルは苦笑する。
「分かった。なら遠慮なく使わせてもらうよ」
そしてエリナを見る。
「また後でな、エリナ」
「ぜ、絶対よ、ロゼル!」
エリナは慌てたように指を突きつける。
「来なかったら許さないわ!」
「はいはい」
ロゼルは苦笑した。
「では……姫様」
オリゴが促す。
「一旦、宿へと向かいましょう」
「宿に残しているメイドや従者も、心配している頃でしょう」
「……分かったわ」
エリナは渋々頷く。
そしてロゼルを振り返った。
「……また後でね、ロゼル」
「ああ」
そう言って、エリナはオリゴと共に歩き出す。
だが――
数歩進んだところで、エリナが振り返る。
ロゼルに向かって、小さく手を振る。
「……」
ロゼルも軽く手を上げた。
「……」
エリナはまた歩き出す。
しかし、しばらくするとまた振り返った。
そして、また手を振る。
「……おいおい」
ロゼルは苦笑する。
さらに少し進んだところで、三度目の振り返り。
「エリナ」
ロゼルが少し声を張る。
「はよ行け」
「……!」
エリナは少し頬を膨らませる。
それでも最後には小さく笑って、今度こそオリゴと並んで歩いていった。
二人の姿が街の人混みに紛れていく。
ロゼルはその背中を見送りながら、ふぅ、と息を吐いた。
「……ようやく行ったか」
その隣でリアがぼそりと呟く。
「……ロゼル」
「ん?」
「なんか、すっごく懐かれてない?」
「……気のせいだろ…多分」
ロゼルはそう言って、ギルドの方へ歩き出した。
エリナたちと別れたロゼルたちは、そのままギルドへと向かった。
迷宮都市の大通りは、夜になっても多くの冒険者や商人が行き交っている。
その喧騒を抜け、ギルドへ入る。
ロゼルは受付カウンターを見渡し、見覚えのある顔を見つけた。
事務処理に追われている受付嬢――アニタだ。
ロゼルはその前まで歩いていくと、カウンター越しに声をかけた。
「アニタさんだっけか?」
「はい?」
突然声をかけられたアニタが、書類から顔を上げる。
しかし、目の前には誰もいない。
「あれ……?」
不思議そうに辺りを見渡す。
ロゼルの背が低いため、カウンター越しでは姿が見えていないらしい。
「こっちだ、こっち」
ロゼルが少し背伸びをする。
「あっ……!」
ようやくロゼルの姿を確認したアニタが目を丸くする。
「ロ、ロゼルさん!」
「名前を覚えていてくださり光栄です」
「いや、そりゃ覚えてるだろ」
ロゼルは苦笑する。
「それより、依頼を受けたセイレーンの涙の報酬、換金をお願いできるかい?」
「もちろんです!」
アニタはすぐに手元の書類を整理し始める。
「すぐに換金の準備をいたしますね」
そう言ってから、改めてロゼルの姿を見た。
泥だらけの服。
埃まみれの髪。
傷だらけの手。
そして――裸足。
アニタの眉が少し下がる。
「……と言うより」
「酷い状態ですね……」
「濡れたタオルでもお持ちいたしましょうか?」
ロゼルは自分の格好を見下ろす。
「……悪いな」
少し申し訳なさそうに頭を掻いた。
「すまないが、お願いする」
「お任せください!」
アニタはハキハキと答えると、すぐさまカウンターの奥へ駆けていった。
そして一分も経たないうちに、再びロゼルたちの前へ戻ってきた。
両手には、お湯で濡らしたタオル。
さらに、いつ用意したのか三人分の紅茶まで載せている。
「仕事が早いな……」
ロゼルが感心したように呟く。
アニタは三人の前へ手際よく紅茶を置いていく。
「どうぞ。少し熱いのでお気をつけください」
「……感謝する」
ロゼルはタオルを受け取ると、泥と汗で汚れた顔をゴシゴシと拭き始める。
「……あー」
思わず声が漏れる。
「生き返るな、これ……」
リアも紅茶を一口飲み、ふぅと息を吐いた。
「やっぱり地上って最高だねぇ……」
その隣では、アゼリアがアニタに礼を言い、紅茶を手にしていた。
「ありがとうございます、アニタ様」
「いえ、とんでもございません」
アゼリアは微笑みながらカップを口元へ運ぶ。
しかし――
ほんの少し唇をつけただけだった。
一口飲んだように見せて、静かにカップを下ろす。
その様子をロゼルは特に気にすることもなく、再びタオルで顔を拭いていた。
ロゼルは顔を拭きながら、ふと思い出したようにアニタへ声をかけた。
「ランドさんに繋いでくれないか?」
「ランド様に、ですか?」
「ああ。報告したいことがあるんだ」
アニタが少し首を傾げる。
「お急ぎのようでしょうか?」
「ああ、早い方がいい」
ロゼルはタオルを首にかける。
「ギルドにとっても、いい話だと思う」
その言葉を聞いた瞬間、アニタの表情が変わった。
何かを察したらしい。
「……承知しました」
アニタはすぐにセイレーンの涙の査定を別の受付嬢へ引き継ぐ。
「こちらの査定をお願いできますか?」
「はい、分かりました」
引き継ぎを終えると、アニタは一礼してギルドの奥へと足早に消えていった。
それからしばらくして――。
ギルドの奥から、アニタが一人の男を連れて戻ってきた。
ランドだった。
「報告があると聞いたが」
ランドは歩きながらロゼルたちを見る。
「なんの騒ぎだ?」
そして、泥まみれのロゼルに視線を止める。
一瞬、ランドの目が細くなった。
「……」
何かを察したようだった。
「うむ……なるほど」
ランドは周囲を見渡す。
「ここでは話しにくそうだな」
そしてロゼルを見る。
「別の部屋に移った方が良さそうだ。私の事務室で構わんか?」
ロゼルはこくりと頷いた。
「頼む」
アゼリアが申し訳なさそうに頭を下げる。
「お忙しいところ申し訳ありません……」
ランドはアゼリアを見ると、わずかに苦笑した。
「皆が君のように気を使えるといいがね」
そう言って踵を返す。
「とにかく、着いてきたまえ」
ロゼルたちはランドの後に続き、ギルドの奥へと向かって歩き出した。
ランドの事務室へと通された一行は、促されるまま椅子へ腰を下ろした。
ランドは慣れた様子で部屋の隅にある小さな棚へ向かうと、三人分のコーヒーを用意する。
そして、それぞれの前へカップを置いていった。
「味は保証できんが、飲みなさい」
「ありがと」
リアがカップを手に取り、少しだけ啜る。
「……にっがーい……」
思わず顔をしかめるリア。
ロゼルも一口飲む。
「……苦いな」
そう呟きながらも、眠気を追い払うようにもう一口飲んだ。
その隣では、アゼリアがカップを手に取っている。
口をつけることはせず、立ち上る香りを楽しむように目を細めていた。
そんな三人を見届けると、ランドは自分の椅子へ腰を下ろす。
「それで?」
ランドが真剣な表情を浮かべる。
「話とは?」
ロゼルはカップを机へ置いた。
「セイレーンの涙の採取依頼を受けたんだがな」
「そこで、ちょっと目新しい発見があったんだ」
「発見とは?」
ロゼルは少し間を置いてから口を開いた。
「ランドさんも、セイレーンの涙の採取方法は知っているだろ?」
「当然だ」
ランドは頷く。
「セイレーンの死骸を餌にして、群れに弔いの歌を歌わせる」
「その際に流す涙を採取する。そういう方法だろう?」
「そうだ」
ロゼルが頷く。
そして、隣に座るリアをちらりと見る。
「でもな」
「うちのリアが、新しい採取方法を編み出したのさ」
ランドの眉がピクリと動いた。
「新しい……?」
「どんな方法だ?」
ロゼルはニヤリと笑う。
「玉ねぎさ」
「…………」
ランドの表情が固まった。
「玉ねぎ……だと?」
「そう」
「冗談のつもりか?」
ランドが疑わしそうにロゼルを見る。
すると、アゼリアが微笑みながら口を挟んだ。
「それが、本当なんですよ。ランドさん」
「……本当に?」
ランドがリアを見る。
リアは得意げに胸を張った。
「本当だよ」
ロゼルも頷く。
「マジさ」
そして、少し身を乗り出す。
「しかも、これまでの方法より安全で効率的だ」
「そのうえ――」
ロゼルは口元を緩める。
「涙の純度まで高いときた」
「…………」
ランドはしばらく言葉を失っていた。
まるで、目の前の話をどう受け止めればいいのか分からないといった表情で、三人を見つめていた。
ランドはしばらく黙っていた。
やがて、信じられないといった顔でロゼルを見る。
「……それが本当なら、大発見だぞ?」
「なぜ私に話した?」
ランドは少し呆れたように息を吐く。
「黙っていれば、ひと財産だったろうに……」
ロゼルは肩をすくめた。
「リアが決めたのさ」
「俺たちだけで儲けるより、効率よく安全に涙を採取できる方法があるなら、ギルドにも知らせるべきだってな」
ランドがリアへ視線を向ける。
リアは少し照れたように頬を掻いた。
「それが……正しいかなって思ったの」
その言葉を聞いたアゼリアが、優しくリアの頭を撫でる。
「偉いですよ、リア」
「えへへ……」
リアが嬉しそうに笑う。
ランドはそんな二人を見ながら、呆れたような表情を浮かべた。
しかし、その目にはどこか優しさがあった。
「まったく……」
ランドは小さく首を振る。
「これは大ニュースだぞ?」
「セイレーンの涙の末端価格が下がれば、それだけでは済まん」
ランドは指を一本立てる。
「涙を原料とする薬や魔道具など、関連する品の値段も下がる可能性がある」
「今まで高価で手に入らなかった品が、より多くの人間の手に届くようになるかもしれん」
そして、ランドはリアを見た。
「本当にいいのか?」
ランドは少しだけ声を落とす。
「今なら……私のところで止めることもできるぞ?」
そう言って、ランドは三人の顔を順番に見つめた。
「ありがとう、ランドさん……」
リアは少し照れたように笑った。
「でも私は、みんなが助かる方を選ぶわ」
「……」
ロゼルはやれやれといった様子で肩をすくめ、両手を軽く上げた。
ランドはそんなリアを見つめながら、顎の髭をゆっくりとしごく。
「欲のないやつだ、全く……」
そして、改めてリアへ向き直った。
「リア君、と言ったな?」
「うん」
「ギルドに私から、君のランクを上げるよう打診しよう」
「え?」
「よくやってくれた」
ランドは穏やかな笑みを浮かべる。
「今回の件で、ギルドは君たちに借りができた」
「何か困ったことがあるなら、いつでも私に言いなさい」
リアが驚いたように目を丸くする。
「ランク?」
「私のランク、上がるの?」
「ああ」
ランドは当然のことのように頷いた。
「それだけの貢献を、君たちはしたんだ」
そして少し考えるように髭を撫でる。
「私の見立てでは……B級に上がってもおかしくはないぞ?」
「B級!?」
リアが目を見開く。
その横で、ロゼルが口笛を吹いた。
「ヒュウ……やるじゃねぇか、リア」
「すごいです、リア!」
アゼリアも自分のことのように嬉しそうに笑う。
「一気にB級なんて!」
「そ、そうかな?」
リアは照れながら二人を見る。
「私、すごい?」
「でも……」
リアはランドへ向き直った。
「ランドさん、私はロゼルとアゼ姐と同じD級がいいわ」
「みんなと同じランクでいたいもの」
ランドがぽかんとする。
「……」
そして、呆れたように額へ手を当てた。
「まさか、B級への推薦を蹴られるとは思わなかったな……」
しかし、その表情はどこか嬉しそうだった。
「分かった」
「そのように取り計らおう」
「やったー!」
リアが両手を上げて喜ぶ。
「これで私もD級冒険者よ!」
ロゼルが苦笑しながらリアを見る。
「追いつかれちまったな」
「ふふふ」
アゼリアも嬉しそうに微笑んだ。
三人の笑い声が、ランドの事務室に静かに響いた。
ランドは椅子に深く腰掛け、顎の髭を撫でながら呟いた。
「しかし……玉ねぎとは……」
少し考え込む。
「確かに盲点だ……」
その時だった。
コンコン。
事務室の扉がノックされる。
「失礼します」
扉が開き、アニタが入ってきた。
その手には査定結果の書類が握られている。
「涙の査定が終わりました!」
アニタは嬉しそうな表情を浮かべている。
「すごい純度ですね!」
「このような品は初めてです!」
ロゼルが片眉を上げる。
そしてランドへ視線を向けた。
――ほらな?
まるでそう言わんばかりの顔だった。
ランドはその視線に気づき、苦笑する。
アニタは続けた。
「査定の方ですが、かなり高額での買取になりました」
「こちらです」
そう言って、アニタは袋をロゼルの前へ差し出す。
「金貨四十枚になります」
「お納めください」
ロゼルは渡された金貨を確認すると、三人を見回した。
「じゃあ、これは三人で平等に分けよう」
そう言って、金貨をそれぞれの取り分に分けていく。
「とにかく……今日はくたびれたぜ」
ロゼルは大きく息を吐いた。
「早いとこ宿へ向かおう」
「そうね……」
リアも椅子から立ち上がりながら、ぐっと背筋を伸ばす。
「私もクタクタよ」
アゼリアも自分の泥だらけの服を見下ろす。
「私も服を洗濯したいです……」
その言葉にランドが苦笑する。
「昇格の件は、また後日話そう」
「今日は三人ともご苦労だった。ゆっくり休んでくれ」
「ありがとう、ランドさん」
ロゼルは軽く頭を下げる。
こうしてギルドでの用事を終えたロゼルたちは、事務室を後にした。
向かう先は――オリゴが教えてくれた宿。
貴族御用達の宿屋、金糸雀亭。
長い一日を終えた三人は、ようやく身体を休めるため、その宿へと向かうのであった。




