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聖血のロゼル  作者: チョコレートスターフィッシュ
第4章

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迷宮での目覚め。

ロゼルがゆっくりと目を覚ますと、すぐ近くにアゼリアの姿があった。

アゼリアは、眠っているリアを優しい目で見つめている。

その視線に気づいたのか、アゼリアがロゼルへ振り向いた。

「おはようございます、ロゼル様」

「ああ。おはよう、アゼリア」

ロゼルは身体を起こし、小さく伸びをする。

「見張り、ありがとうな。お陰で一休みできた」

アゼリアは嬉しそうに微笑んだ。

「私でお役に立てるのでしたら、いつでもお任せください」

そう言ってから、アゼリアは眠っているリアへ視線を向ける。

「リアを起こしますか?」

「いや、まだ寝かせといていい」

ロゼルもリアへ目を向ける。

昨日は、リアにとって初めての迷宮だった。

暗闇に怯え、魔物と遭遇し、実際に自分の手で矢を放った。

きっと、身体が思っている以上に疲れている。

「リアが目を覚ますまでに、軽食でも作るとしよう」

「お手伝いします」

アゼリアがすぐに答える。

「ああ。また簡単なスープを作る」

ロゼルは荷物へ手を伸ばしながら続ける。

「味付けはアゼリアに任せるよ」

「はい。お任せください」

そう言うと、ロゼルは食材を取り出し、手際よく下ごしらえを始めた。

静かな墓所に、包丁が食材を刻む小さな音が響く。

遠くでは、誰かが墓前で祈っている。

冒険者が静かに眠る場所で、二人はいつものように食事の準備を始めていた。


ロゼルは鍋の中で温まっていくスープを眺めながら、ふと呟いた。

「スープだけじゃ、リアがぐずるか……」

そう言うと、荷物の中から硬いライ麦パンを取り出した。

程よい大きさに切り分けると、スープを温めている火にかざし、じっくりと炙っていく。

表面が少し温まったところで、今度は隠し持っていたベーコンを取り出した。

薄く切り、火の上に置く。

ジュッ、と小さな音が鳴った。

ベーコンの黄色い脂が、熱でぷつぷつと溶け出していく。

香ばしい匂いが辺りに広がった。

ロゼルは焼き目のついたベーコンを、玉ねぎを敷いたライ麦パンの上へ乗せていく。

その瞬間――。

「……ピクッ」

眠っていたリアの耳が、匂いを追うように小さく動いた。

もう一度、鼻がひくひくと動く。

そして。

「ぐぅぅ……」

静かな墓所に、腹の虫が響き渡った。

本人よりも先に、腹が目を覚ましたらしい。

ロゼルは思わず、くすくすと笑う。

「起きたか、リア」

「んん……」

リアは毛布の中でもぞもぞと動く。

やがて、のそりと身体を起こすと――

「ん~~~~……」

両腕を大きく伸ばした。

その姿は、まるで寝起きの猫そのものだった。

「ん~……何時間くらい寝てた?」

まだ半分眠っているような声で尋ねる。

アゼリアが、リアの様子を微笑ましそうに見ながら答えた。

「4時間ほどかと」

「結構寝てたのね……」

リアは目をこすりながら、アゼリアを見る。

「ずっと見張ってくれてありがとう、アゼ姐」

「いえいえ。お気になさらず」

アゼリアは優しく微笑んだ。

その横では、ロゼルが焼き上がったライ麦パンを皿へ並べていた。

リアの視線が、吸い寄せられるようにそちらへ向く。

「……それ、なに?」

「見て分からないか?」

「分かるけど……」

リアの耳が、またぴくりと動いた。

「……おいしそう」


ロゼルは焼き上がったばかりのライ麦パンをリアへ差し出した。

「ほら。冷めないうちに食べな」

「これからしばらくは、休憩はないぜ」

「いただきます」

リアは受け取ったパンに、さっそくガブリとかぶりついた。

香ばしく焼かれたパンに、ベーコンの脂と玉ねぎの甘みが重なっている。

「ん……!」

思わず頬が緩む。

そのままパンを頬張りながら、リアが尋ねた。

「しばらく?」

一度ごくんと飲み込む。

「なら、目的地が近いの?」

ロゼルは鍋のスープをよそいながら答えた。

「この先をしばらく行ったところに、地下湖がある」

「そこが目的地だ」

「そこに依頼の品がある」

アゼリアが反応する。

「セイレーンの涙ですか?」

「ああ」

ロゼルは頷いた。

「セイレーン自体は、水中で戦わなければ大した魔物じゃない」

「ただ、厄介なのは――歌だ」

「歌?」

リアはライ麦パンをスープに浸し、そのまま口へ運ぶ。

「歌が危険なの?」

「ああ」

ロゼルの表情が少し真剣になる。

「セイレーンの歌声には、魅惑の力があるんだ」

「それに支配されたら、自分から水場へ近づいてしまう」

「そして、そのまま水中へ引きずり込まれる」

リアの動きが止まった。

「……怖いんだけど」

「だから、ソロじゃこの依頼は受けられない」

ロゼルはそう言って、二人を見る。

「でも、今の俺たちは三人だ」

「だから、この依頼を受けた」

リアはパンを片手に持ったまま、アゼリアを見る。

そして、ロゼルを見る。

「……なるほど」

少しだけ納得したように頷いた。

「つまり、三人なら大丈夫ってことね」

「ああ」

ロゼルは短く答えた。

その隣で、アゼリアが穏やかに微笑んでいる。

「ご安心ください、リアさん」

「セイレーンの魅惑は、私には効きませんから」


アゼリアがそう言うと、リアは目を丸くした。


「え?」


ロゼルもリアに続けて言う。


「そうだったの?」


アゼリアは少し困ったような顔を浮かべ、自分の身体を見下ろした。


「はい。私に魅了は効きません。骨ですから、私」


「なるほど」


ロゼルは改めてアゼリアの姿を見る。


確かに、白い骨の身体を持つアゼリアに、生きた人間と同じような魅了が通じるとは考えにくい。


「それなら尚更頼もしいな」


ロゼルは小さく笑った。


「俺とリアが魅了にかかった時は頼むぜ、アゼリア」


「はい。お任せください」


アゼリアはいつもの穏やかな笑顔で頷いた。

その頼もしい返事に、リアも嬉しそうに笑う。

「アゼ姐、頼もしいー」

「ふふ。お任せください」

そんな二人を眺めながら、ロゼルはリアの食事が終わっていることを確認した。

「飯は食い終わったか?」

「うん。もうお腹いっぱい」

リアが満足そうに空になった器を見せる。

「それなら、これで顔を拭きな」

ロゼルはそう言うと、水で濡らした手ぬぐいをリアへ放った。

「わっ」

リアは慌てて両手で受け取る。

「目ヤニついてんぞ」

「えっ……」

リアの耳がぴくっと動いた。

「うそ……」

慌てて目元に手をやる。

指先を確認すると、確かに少し付いていた。

「……もう」

恥ずかしそうに呟きながら、リアは手ぬぐいで顔をゴシゴシと拭く。

「朝っぱらから恥ずかしいところ見られた……」

「別に気にするほどじゃないだろ」

「気にするよ!」

リアは頬を膨らませる。

寝起きで乱れた髪を直しながら、もう一度目元を念入りに拭った。

ロゼルはそんなリアを見て、小さく笑う。

「何笑ってんのよ」

「いや。ようやく目が覚めたみたいだなと思ってな」

「最初から起きてるってば」

そう言い返すリアだったが、声にはまだ少し眠気が残っていた。

その間に、ロゼルとアゼリアは手早く片付けを始める。

食器をまとめ、調理器具をしまい、残った食材を袋へ戻していく。

寝床も畳み、荷物をそれぞれの背に戻す。

迷宮では、いつまでも休憩の準備をしたままにしておくわけにはいかない。

いつ何が襲ってくるか分からない場所だからこそ、休む時と動く時の切り替えは早い。

最後にロゼルが周囲を見渡し、忘れ物がないことを確認する。

「よし」

ロゼルが立ち上がる。

「行くぞ」

「はーい」

リアも荷物を背負い直し、腰の短剣と投げナイフを確認する。

アゼリアも静かに立ち上がった。

「準備はできています」

「ああ」

三人は墓所を振り返る。

先ほどまで休んでいた場所には、食事の痕跡もほとんど残っていない。

静寂を取り戻した墓所を背に、ロゼルたちは歩き始めた。

目的地は、この先にある地下湖。

そして、その湖に棲むセイレーンが持つ――セイレーンの涙。

「……どんな場所なんだろ」

歩きながら、リアが小さく呟く。

ロゼルは前を向いたまま答えた。

「行けば分かるさ」

その先に広がる暗闇へ向かって、三人は迷宮の奥へと進んでいった。





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