↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖血のロゼル  作者: チョコレートスターフィッシュ
第4章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
52/77

Doggie landmine

冒険の準備を終えた三人は、迷宮の入口へと続く大門の前に立っていた。

目の前には、地上から地下深くへと続く巨大な縦穴。

その周囲には、これから迷宮へ挑む冒険者たちが行き交っている。

武器を整える者。

仲間同士で最終確認をする者。

緊張した面持ちで迷宮を見つめる者。

そんな冒険者たちの姿を眺めながら、リアは落ち着かない様子で自分の装備を見回していた。

背中には愛用の弓。

腰には矢筒。

その中には、迷宮探索用の矢が何本も収められている。

腰には予備の短剣も差してある。

だが、それ以外の荷物は驚くほど少ない。

「ねぇ、ロゼル……」

「ん?」

「もっと準備しなくて大丈夫なの?」

リアは不安そうに自分たちの荷物を見る。

「食料もそんなに持ってきてないし……」

「テントは? 毛布は?」

「こんな軽装で本当に大丈夫?」

矢継ぎ早に質問するリア。

ロゼルは一瞬ぽかんとした後、くすりと笑った。

「テントって……キャンプする訳じゃないんだからさ」

「え?」

「もちろん、大所帯の遠征なら用意したりする奴もいる」

ロゼルは自分の荷物を軽く叩く。

「だが、迷宮探索なんて大抵は軽装だぞ?」

「軽装……?」

「ああ」

ロゼルは迷宮の入口を見ながら続ける。

「食い物だって、保存が利いて腹持ちがいい物がほとんどさ」

「なるほど……」

「迷宮じゃ荷物が増えれば、それだけ動きが鈍る」

ロゼルは階段の先にある闇を見る。

「逃げなきゃならない時に、荷物が重くて走れませんでした――じゃ話にならないだろ?」

「あ……」

リアが納得したように呟く。

「迷宮ではフットワークが軽くなきゃ危険なんだ」

その言葉には、長年迷宮を歩いてきた熟練冒険者としての実感が滲んでいた。

「幸い、俺達はアゼリアが食べない分、荷物も少なくて済むしな」

「ふふ」

アゼリアが嬉しそうに微笑む。

「私、お役に立てているんですね」

「食費の面ではな」

「……ロゼル様?」

「冗談だって」

ロゼルが笑う。

リアは二人のやり取りを見ながらも、まだ少し不安そうだった。

「そうなの……?」

「色々準備しないと、なんだか不安だわ……」

ロゼルはそんなリアの顔を見る。

そして、短く言った。

「俺を信じろ」

リアが目を瞬かせる。

アゼリアも優しく微笑んだ。

「ロゼル様を信じましょう、リア」

「私もそばにいます」

リアは二人を交互に見つめる。

そして、ふっと肩の力を抜いた。

「……そうね」

「二人がいるんだもん。平気よ」

「おう、それでいい」

ロゼルは満足そうに笑う。

そして背負っていた大斧を軽く担ぎ直した。

漆黒の刃が朝の光を鈍く反射する。

「ほら、そろそろ行くぞ」

そう言うと――

ロゼルはまるで近所を散歩するかのような気軽さで、迷宮への巨大な大穴へと続く階段へ歩き出した。

アゼリアも自然とその後へ続く。

「……え?」

リアが慌てて二人の背中を見る。

「ちょ、ちょっと!」

リアは背中の弓が邪魔にならないよう位置を直し、矢筒を確認すると急いで駆け出した。

「待ってよ!」

ロゼルは振り返らない。

そのまま、暗闇へと続く階段を一歩、また一歩と下りていく。

「暗いから先に行かないで!」

リアの声が地下へと響き渡る。

ロゼルが振り返った。

口元には、いつものニカッとした笑み。

「じゃあ、ちゃんとついてこい」

「言われなくてもそうするわよ!」

リアは慌てて二人の後を追った。

背中には弓。

腰には短剣。

そして胸には、初めての迷宮へ挑む冒険者としての期待と不安。

三人の姿は、ゆっくりと地上の光から離れていった。

こうして――

リアにとって初めての迷宮探索が始まった。


暗い迷宮を、三人はゆっくりと進んでいた。

迷宮の入口付近には、冒険者達のために設置された簡易的な照明がいくつか並んでいる。

壁に取り付けられた魔導灯が淡い光を放ち、足元の石畳をぼんやりと照らしていた。

それでも――。

一歩、また一歩と奥へ進むにつれて、その光は次第に薄れていく。

前方に広がるのは、どこまでも続いているような暗闇。

天井も。

壁も。

その先に何があるのかすら分からない。

まるで巨大な口を開けた怪物が、三人を丸ごと飲み込もうとしているかのようだった。

ロゼルはそんな暗闇を見慣れた様子で歩いていたが、ふと後ろを振り返る。

アゼリア。

そして、その隣にいるリア。

少しだけ歩幅を落とし、二人の様子を確認する。

「……リアは俺とアゼリアの真ん中にいた方が良さそうだな」

「う、うん……そうする」

リアは素直に頷いた。

そして、スタスタと歩いてアゼリアを追い越す。

そのままロゼルの隣まで来ると――。

チョン。

ロゼルの服の端を、指先でつまんだ。

ロゼルが視線だけを落とす。

「……おい」

リアは何も言わない。

ただ、服の端を小さく握ったまま、暗闇の先を見つめている。

ロゼルは小さく息を吐いた。

「まぁ……迷宮に慣れるまでは仕方ないか」

少しだけ声を柔らかくする。

「不安なのは分かるが、少しずつ慣れてくれ」

「う、うん……」

そんな二人の様子を後ろから見ていたアゼリアが、心配そうに微笑む。

「リア、今回は私と手を繋ぎましょうか?」

「だ、大丈夫!」

リアは慌てて首を横に振る。

「慣れないと……!」

強がってみせるリア。

しかし、その視線は何度も暗闇へ向いていた。

アゼリアは少し心配そうにリアを見つめる。

するとロゼルが前方を指差した。

「まだ一階層だ」

「この辺りなら魔物もほとんど出ない」

そして周囲を見回す。

「ほら。周りを見てみろ」

リアも恐る恐る顔を動かした。

「……?」

暗闇の中。

よく目を凝らしてみると――。

小さな明かりがいくつも浮かんでいた。

冒険者が持つカンテラ。

壁際に置かれた松明。

魔術師が浮かべている魔法の灯り。

それらが暗闇の中にぽつぽつと浮かんでいる。

「……あ」

「同業者もチラホラいるだろ?」

リアは少しだけ目を見開いた。

「ほんとだ……」

その時。

アゼリアがそっと手を掲げる。

掌に、青い炎が生まれた。

ゆらゆらと揺れていた炎は、アゼリアの魔力に応じるように形を変えていく。

やがて丸みを帯び――。

ふわり。

まるで青い風船のような光球となって、アゼリアの頭上へ浮かび上がった。

柔らかな青い光が三人を包み込む。

足元だけではない。

周囲の壁や天井まで淡く照らし出される。

「凄い!」

リアの顔がぱっと明るくなる。

「これなら怖くないわ!」

ロゼルは苦笑する。

「ここらはまだ明るい方なんだがな」

「本当はもっと深層まで行ってから照らしてもらう予定だったんだが……」

そこでロゼルはアゼリアを見る。

「アゼリア、魔力は大丈夫なのか?」

「はい」

アゼリアは何でもないように微笑む。

「灯りで照らすだけなら、数日続けても何も問題ありませんよ」

「……数日って」

ロゼルが呆れたように笑う。

「流石だな」

そしてリアを見る。

「頼りにしてるぜ」

「よかったな、リア」

ロゼルは頭上の青い光を見上げた。

「俺達は暗闇とは無縁そうだ」

リアも青い光に照らされた迷宮を見回す。

先ほどまで自分達を飲み込もうとしていた暗闇が、少しだけ遠く感じられた。

「そ、そうね……」

リアはロゼルの服の端をまだ掴んだまま、小さく笑う。

「ありがたいわ」

そして、ほんの少しだけ胸を張った。

「……でも、暗いところはやっぱり不安よ」

「ははっ」

ロゼルは前を向く。

「なら、まずは慣れるところからだ」

三人の頭上で、青い炎が静かに揺れていた。

その光を追うように――。

三人は迷宮の奥へと歩き始めた。


しばらく迷宮を歩いていた一行だったが――

ふいに、ロゼルがピタリと足を止めた。

「……」

振り返り、アゼリアとリアへ向けて人差し指を口元へ当てる。

――シッ。

そして、その場で身を低くした。

何かを感じ取ったのだ。

アゼリアもすぐに察し、リアの肩へそっと手を添えながら身を低くする。

リアも戸惑いながらロゼルを真似した。

ロゼルは二人が身を潜めたのを確認すると、アゼリアへ顔を寄せる。

「……アゼリア。灯りを消してくれ」

「……はい」

アゼリアが小さく頷く。

すると、頭上に浮かんでいた青い炎がふっと消えた。

途端に――

迷宮が闇に沈んだ。

先ほどまで見えていた仲間の姿すら、輪郭を失っていく。

だが完全な闇ではなかった。

壁や床に自生している光苔が、ぼんやりとした青白い光を放っている。

その淡い光が、迷宮の奥行きをかろうじて浮かび上がらせていた。

リアが不安そうにロゼルを見る。

「ロゼ――」

何があったのか。

そう尋ねようとした瞬間だった。

ロゼルの手が伸びる。

「……!」

優しく、それでいて確実にリアの口を塞いだ。

その直後――

「グルルルル……」

低い唸り声が響いた。

迷宮の壁に反響し、どこから聞こえているのかすら分からない。

そして――

ズ……。

ズ……。

ズ……。

何かを引きずるような音。

続いて、複数の足音が響き始めた。

一歩。

また一歩。

こちらへ近づいてくる。

リアの額に冷たい汗が浮かぶ。

呼吸が浅くなり、胸が大きく上下する。

怖い。

何かが来る。

それだけは分かる。

そんなリアの様子を察したアゼリアが、そっと手を伸ばした。

ぎゅっ。

小さな手を優しく握る。

リアがわずかに目を見開いた。

荒くなっていた呼吸が、少しずつ落ち着いていく。

そして――

闇の向こうから、それは姿を現した。

一体。

二体。

三体。

……まだ来る。

ズタズタに破れた衣服。

そこへこびりついた、乾いた赤黒い血。

腐敗した肉から漂う、鼻を突くような強烈な腐臭。

「……っ」

リアの顔が強張る。

その姿を見た瞬間、本能的に体が動きそうになる。

だが――

ロゼルが口元だけを動かした。

声は出さない。

「――う・ご・く・な」

リアは必死に頷いた。

ロゼルは視線だけを前へ戻す。

その目は、いつもの飄々としたものではない。

熟練した冒険者の目だった。

敵を倒すべき時。

逃げるべき時。

そして――

戦わない方がいい時。

その判断を、一瞬で下している。

アゼリアも普段の柔らかな笑みを完全に消していた。

真剣な眼差しで、ロゼルの指示を待つ。

やがて、闇の中から次々と姿を現す。

十。

二十。

それ以上。

数十体にも及ぶ異形の群れ。

彼らは一行には気づいていない。

ただ、何かに導かれるように、ゆっくりと迷宮の奥へ進んでいく。

ズ……。

ズ……。

ズ……。

足音と腐臭だけを残して。

リアは息を殺したまま、その光景を見つめていた。

すぐ目の前を、一体が通り過ぎる。

距離にして、わずか数メートル。

手を伸ばせば届きそうなほど近い。

それでもロゼルは動かない。

リアも。

アゼリアも。

ただ、じっと耐える。

やがて最後の一体が闇の奥へ消えていった。

足音も、徐々に遠ざかっていく。

そして――

完全な静寂が戻った。

ロゼルはしばらく動かなかった。

数秒。

十秒。

さらに待つ。

ようやく安全を確信したところで、ゆっくりと息を吐いた。

「……ふぅ」

リアも大きく息を吐く。

「……い、行った……?」

ロゼルが小さく頷く。

「ああ」

リアはまだ青ざめた顔で、闇の奥を見つめていた。

「ねぇ、ロゼル……今のはなんだったの?」

ロゼルは群れが消えていった迷宮の奥をしばらく見つめていたが、やがて小さく息を吐いた。

「……あれは死鬼さ」

「死鬼……?」

「迷宮で死んだ冒険者の死体に幽鬼が取り憑いてな。肉を求めて彷徨い続けてるんだ」

リアの耳がぴくりと動く。

「幽鬼? 危険なの?」

「一体一体は大したことない。だが――」

ロゼルは先ほどの群れを思い出すように、目を細めた。

「数が多いんだ」

「それに厄介なのが、あの腐食した歯や爪さ」

ロゼルは自分の腕を軽く指差す。

「傷を受ければ感染症や病気をもらう。酷い場合には、腕や足を切り落とさなきゃならなくなることだってある」

「……え」

リアの顔が引きつる。

背筋を、ぞぞぞぞ……と悪寒が駆け上がっていく。

「うぇ……」

思わず自分の腕を抱きしめるリア。

そんなリアを見て、ロゼルは少しだけ苦笑した。

「奴らは明かりや音に反応して襲ってくる。だから今みたいに、焦らず静かにやり過ごせば問題ない」

ロゼルは鼻からゆっくり息を吸う。

「迷宮じゃ、鼻も働かせるんだ」

「鼻……?」

「奴らは数が多くてかなり臭うからな。慣れてくれば、姿を見る前に気づけるようになる」

アゼリアが感心したように微笑む。

「流石はロゼル様……。本当に博識ですね」

「これでも長いこと迷宮で生き残ってきたからな」

ロゼルは肩をすくめる。

「色々と知恵はあるさ」

リアは少しむっとした顔で頬を膨らませた。

「ああいうのがいるなら、先に言ってほしいわ…」

「悪かったな」

ロゼルがくすりと笑う。

「余計な情報を教えて怖がらせるのもどうかと思ったんだ」

「でも次からは、リアもアゼリアも何かおかしいと思ったらすぐ俺に知らせてくれ」

ロゼルは二人を交互に見る。

「匂いでもいい。足音でもいい。何か気づいたら遠慮なく言え」

リアは少しだけ不安そうにしながらも、しっかりと頷いた。

「わ、わかったわ」

「はい、ロゼル様」

アゼリアも頷く。

ロゼルは満足そうに頷き返した。

「よし。じゃあ先へ進もう」

大斧を担ぎ直す。

「そろそろ二階層だ。目的地はまだまだ先だからな」

そして二人の顔を確認する。

「二人とも、体力は大丈夫か?」

リアとアゼリアは顔を見合わせ、それから揃ってこくりと頷いた。

「無理はするなよ」

ロゼルの声が少しだけ低くなる。

「特にリアは迷宮が初めてだ。無理をすると、いざという時に動けなくなる」

「わ、わかったわ」

リアは胸元で手を握りしめる。

「辛くなったら、すぐ二人に言う」

「ああ。それでいい」

ロゼルは前を向く。

「じゃあ――」

暗闇の奥へと続く道を見据える。

「先に進もう」

三人の足音が、再び静かな迷宮の中へと響き始めた。


2階層へと続く階段を下りる。

階段を抜けた先は、先ほどまでの一階層とは少しだけ空気が違っていた。

湿気を帯びた冷たい空気。

壁面にはところどころ光苔が生えているものの、その明かりは頼りなく、周囲の闇を完全に照らすには到底足りない。

ロゼルは周囲を見渡しながら、一定の歩調で進んでいく。

大斧を担ぎ、時折足を止めては天井や左右の通路へ視線を走らせる。

その後ろをリア。

さらにその後ろをアゼリアがついていく。

先ほどグールの群れを目の当たりにしたせいか、リアはすっかりロゼルの背中を頼りにしていた。

「……。」

ロゼルの背中を見つめながら、慎重に歩くリア。

その時――。

ぐちゃっ。

「……ん?」

妙な感触がブーツの裏から伝わってきた。

リアの足が止まる。

「な、何……?」

恐る恐る足元を見る。

ブーツの裏には――。

茶色く、べったりとした何かが張り付いていた。

しかも。

「……。」

リアの鼻に、強烈な臭いが突き刺さる。

「…………。」

リアの顔から、すっと表情が消えた。

「な、何か……踏んだわ……。」

その声を聞いて、ロゼルが振り返る。

「どうした?」

アゼリアも心配そうにリアの足元を覗き込む。

そして――。

二人とも固まった。

「…………。」

「…………。」

数秒の沈黙。

ロゼルが眉間に皺を寄せる。

「これは……。」

鼻を押さえながら、じっと足元を見る。

「……あれだな。」

「……あれ?」

リアの瞳が虚ろになる。

ロゼルは少し考えてから、気まずそうに言った。

「コボルトのおみやげだ。」

「…………。」

「もしくは……人間の。」

「…………。」

リアの目から、光が消えた。

「ロゼル……。」

「ん?」

「私……。」

リアはゆっくりと自分のブーツを見つめる。

「迷宮、嫌いかもしれないわ。」

「早い早い!」

ロゼルが慌てて両手を振る。

「まだ決めつけるのは早いぞ、リア!」

「いや、もう十分よ……。」

「当然こういう不幸もある!」

「不幸っていうレベルじゃないわよ……。」

「これは迷宮が悪いんじゃないさ!」

必死に励ますロゼル。

だが――。

そのロゼル自身が、リアからほんの少し距離を取っていた。

「…………。」

リアがじっとロゼルを見る。

「……そう言いながら距離取ってるじゃん。」

「いや、これはだな……。」

「アゼ姐まで……。」

リアが横を見る。

アゼリアも――。

いつもの優しい微笑みを浮かべたまま、ほんの数歩後ろへ下がっていた。

「……これは、流石に、少しだけ距離を取った方がよろしいかと。」

「アゼ姐ぇ……。」

リアの耳がしょんぼりと垂れる。

ロゼルは気まずそうに咳払いをした。

「ま、まぁ、安心しろ!」

「何が?」

「こういう時の備えはちゃんとしてある。」

ロゼルは腰の荷物から小さな容器を取り出す。

「水をほとんど使わずに汚れを落とせるソープだ。」

「そんなものまで持ってきてるの?」

「迷宮じゃ水は貴重だからな。」

ロゼルは慣れた手つきで容器を振ってみせる。

「冒険者ってのは、こういう時のために準備しておくもんさ。」

「……。」

リアは自分の足元を見る。

そして、もう一度鼻を押さえた。

「……早くして。」

「任せろ。」

「絶対よ?、早くして。」

「わかったわかった。」

ロゼルは苦笑する。

「すぐ綺麗になるから、もう少しだけ我慢だ。」

リアは恨めしそうにロゼルを見つめる。

「……ねぇ、ロゼル。」

「なんだ?」

「ランドさんやセレナさんには……言わないでね?」

ロゼルの顔が引きつる。

「……。」

「絶対よ?」

「や、約束するさ。」

アゼリアも胸元へ手を添え、優しく微笑む。

「私も約束しましょう。」

そして、いつになく真剣な顔で頷いた。

「これは……契約です。」

「アゼ姐……!」

リアの顔が少しだけ明るくなる。

「ありがとう……!」

ロゼルはそんな二人を見ながら、苦笑する。

「……さて。」

大斧を担ぎ直す。

「迷宮二階層。」

そして、リアの足元へ視線を落とす。

「……初日から、なかなか濃い洗礼を受けたな。」

「言わないで!」

迷宮の奥へ、リアの悲鳴が響いた。




 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。