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聖血のロゼル  作者: チョコレートスターフィッシュ
第3章

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挿話。夜の帳。

宴はまだ続いていた。

酒場の熱気は最高潮だ。

ラウルは腕相撲で負けたことが納得いかないのか、

「今日は調子が悪かっただけだわい!」

などと騒いでいる。

周囲の冒険者達も笑いながら酒を煽っていた。

ロゼルもすっかり上機嫌だった。

エールには飽きたらしく、今は火酒を楽しんでいる。

「おっ、これ結構いけるな」

機嫌良くグラスを揺らす。

一方で。

シルはすでに限界だった。

「うぅ……」

椅子にもたれかかり、

今にも眠りそうになっている。

アゼリアはそんな彼女を優しく支えていた。

「大丈夫ですか?」

「へいきれす……」

全然平気ではなさそうだった。

アゼリアは苦笑する。

そして。

ふと何かを思い出したように小さく首を傾げた。

「あ……」

ロゼルへ向き直る。

「ロゼル様」

「ん?」

火酒を飲みながらロゼルが答える。

「お話し忘れていた事がありました」

「話?」

アゼリアは懐から一枚のカードを取り出した。

丁寧に保管されていたそれには、

美しい花を模した紋章が刻まれている。

「この間、グラントさんのお店で仲良くなった方から頂いたんです」

カードを差し出す。

「ロゼル様にもよかったら会いたいと」

ロゼルが受け取る。

その瞬間だった。

隣で酒を飲んでいたセレナが――

ぶふっ!!

盛大に吹き出した。

「げほっ!ごほっ!」

周囲が驚いて振り向く。

セレナは慌ててカードを指差した。

「そ、それは……!」

琥珀色の瞳が大きく見開かれる。

「雪月花の紋章じゃないか!」

場の空気が変わる。

ランスも。

ラウルも。

シルですら薄っすら目を開けた。

ロゼルはカードを眺める。

赤い瞳が細められる。

「本物っぽいな……」

感心したように呟いた。

「こりゃ驚いた」

そしてアゼリアを見る。

「これを誰からもらったんだ?」

「黒髪で背の高いディアという方です」

アゼリアは素直に答えた。

「ロゼル様と私で是非訪ねてくれと」

そこで少し不安そうな顔になる。

「あの……何か不味かったでしょうか?」

ロゼルは首を横に振った。

「不味いって訳じゃないさ」

カードを指で軽く叩く。

「ただ雪月花と言えば、この街で知らない奴はいない、1級冒険者だ」

苦笑する。

「無視はできないな」

アゼリアは少し肩を落とした。

「ご迷惑でしたか?」

「いや」

ロゼルは笑う。

「大丈夫さ」

カードを懐へしまう。

「ただ挨拶には行かないとな」

それを聞いて、

セレナが感心したように息を吐いた。

「只者ではないと思っていたが……」

苦笑する。

「雪月花の関係者だったのか」

ロゼルが肩をすくめる。

「まだ関係者じゃないさ」

しかしセレナは首を振った。

「いや、それでも十分凄い」

少し寂しそうに笑う。

「また是非一緒に依頼をと思っていたが……」

視線を落とした。

「我々では釣り合わないかもしれないな」

その言葉に。

ロゼルは即座に首を横に振った。

「そんな事ないさ、セレナさん」

そして手を差し出した。

「また何かあれば喜んで協力させてもらうよ」

セレナが目を瞬かせる。

予想していなかったのだろう。

そして次の瞬間。

ぱっと表情が明るくなった。

戦場で見せる鋭い顔ではない。

年相応の少女らしい笑顔だった。

「そう言ってもらえると助かる!」

差し出された手をぎゅっと握る。

ロゼルも笑った。

「俺もあんた達が気に入ってる」

軽く握り返す。

「今後とも仲良くやろう」

セレナは力強く頷いた。

「ああ!」

その様子を見ていたリアが、

葡萄酒で赤くなった顔のまま笑う。

「友達が増えたわね!」

ラウルも豪快に笑った。

「今度は腕相撲で勝つからな!」

「諦めろ」

ロゼルが即答する。

酒場に再び笑い声が響いた。

オーク討伐の夜は、

まだまだ終わりそうになかった。



長い打ち上げを終え、

ロゼル達は《紅蓮の牙》と別れ、夜風の吹く石畳の道を宿へと歩いていた。

街はすっかり夜の顔を見せている。

酒場からはまだ賑やかな笑い声が漏れ、街灯の明かりが通りを優しく照らしていた。

「今日は楽しかったですね。」

アゼリアが穏やかに微笑む。

「うん!」

リアも上機嫌だ。

「みんないい人たちだった!」

金貨の入った小袋を嬉しそうに抱きしめ、尻尾を揺らしている。

ロゼルは二人の少し後ろを歩きながら、小さく笑った。

「そうだな。」

その笑顔は、どこか柔らかかった。

ふと。

ロゼルは自分の右手を見つめる。

今日だけで何杯飲んだだろう。

エール。

火酒。

途中から数えるのもやめた。

それでも。

頭は冴えたまま。

足取りもまったく乱れない。

胸の奥に、酒の熱さだけがわずかに残っている。

「……。」

誰にも聞こえないほど小さく呟く。

「いくら飲んでも……酔えねぇ。」

夜風が金色の髪を揺らした。

赤い瞳が、どこか遠くを見る。

「どうなっちまったんだろうな……俺は。」

その声は夜の静けさに溶けて消えた。

「ロゼルー!」

前を歩いていたリアが振り返る。

「何ぼーっとしてるの! 置いてくわよ!」

ロゼルははっと我に返る。

「ああ、悪い。」

軽く笑うと、小走りで二人の後を追った。

リアは金貨の入った袋を嬉しそうに揺らしながら尻尾をご機嫌そうに揺らしている。

アゼリアもその隣で穏やかに微笑んでいた。

その楽しそうな背中を見つめ、

ロゼルは誰にも聞こえないよう、小さく息を吐く。

「……ま、今考えても仕方ねぇか。」

ぽつり、と独り言。

胸の中の疑問を押し込めるように、小さく頭を振る。

そして。

いつもの不敵な笑みを浮かべると、

「おーい、そんなに急ぐと転ぶぞ、リア。」

「転ばないわよ!」

リアが頬を膨らませる。

その声に、アゼリアがくすりと笑った。

三人の笑い声が、静かな夜道へと溶けていく。



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