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聖血のロゼル  作者: チョコレートスターフィッシュ
第3章

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緊急クエスト

朝食を終えた三人は、賑わう大通りを歩いていた。

石畳の上を行き交う人々。

露店から漂う焼きたてのパンの香り。

果物を並べる商人の威勢のいい声。

その中を、リアはどこか落ち着かない様子で歩いていた。

昨日アゼリアに借りた服は清潔で着心地も良い。

だが、サイズは少し大きく、袖口を何度も気にしている。

「……本当に、私の服を買うの?」

紫の瞳が不安そうに揺れる。

耳は半分ほど伏せられ、尻尾の先だけがそわそわと揺れていた。

ロゼルは両手を頭の後ろで組みながら、気楽な調子で答える。

「当たり前だろ。いつまでも借り物ってわけにもいかないしな」

アゼリアも優しく微笑む。

「リアには、ちゃんと似合う服を用意したいんです」

リアは戸惑ったように目を瞬かせた。

「でも……そんな……」

「遠慮するな」

ロゼルは軽く肩をすくめる。

「仲間の装備を整えるのは当然だ」

その言葉に、リアの足が一瞬止まる。

仲間。

その言葉が胸の奥にじんわりと広がった。

「……うん」

小さく頷く。

耳がぴくりと立ち、尻尾の揺れ方が少しだけ明るくなった。


やがて三人は、一軒の服屋の前で立ち止まった。

木製の看板には、針と糸の紋章。

大きなガラス窓の向こうには、色とりどりの服が並んでいる。

「ここですね」

アゼリアが嬉しそうに扉を開けた。

店内に足を踏み入れると、柔らかな布と石鹸の清潔な香りがふわりと漂う。

棚には折りたたまれた衣服。

壁にはマントや外套。

奥には革のベルトや手袋まで並んでいた。

「いらっしゃいませ」

年配の女性店主が、にこやかに頭を下げる。

アゼリアはリアの背をそっと押した。

「この子に似合う服を探したいのですが」

店主はリアを見ると、優しい目を細めた。

「まあ、可愛いお嬢さんね」

「か、可愛い!?」

リアの耳がぴんと立ち、尻尾がぶわっと膨らんだ。

ロゼルが吹き出す。

「お前の尻尾正直すぎんだよ。」

「うるさい!」

頬を赤くしながらリアが睨む。

その様子に、店主もアゼリアもくすくすと笑った。

採寸が始まる。

肩幅。

腕の長さ。

腰回り。

メジャーを当てられるたびに、リアの耳がぴくぴくと動く。

「くすぐったい……!」

「じっとしてくださいね」

アゼリアが微笑みながら肩を押さえる。

「ひゃっ!」

腰回りを測られた瞬間、リアの尻尾がぴんと立ち上がった。

ロゼルが腹を抱えて笑う。

「ぶはっ、また尻尾が反応してるぞ」

「見るな!」

リアは顔を真っ赤にした。


しばらくして、アゼリアが大量の服を抱えて戻ってきた。

「リア、こちらも試してみましょう」

「えっ」

「これも」

「まだあるの!?」

「もちろんです」

腕の中には、山のような服。

店主まで楽しそうに追加している。

「こっちの色も似合いそうよ」

「増えた!?」

リアの耳が慌ただしく動いた。


最初に試したのは、動きやすいシャツとズボン。

鏡の前に立ったリアは、少しだけ背筋を伸ばす。

「……どう?」

ロゼルは腕を組んで頷いた。

「普通に似合ってる」

アゼリアは満面の笑みだ。

「とても可愛いです」

「そ、そうかな……」

尻尾がぱたぱたと揺れる。


次に着せられたのは、淡い色のワンピース。

フリルのついた可愛らしい一着。

試着室のカーテンが開いた瞬間、店内の空気が止まった。

リアはもじもじと裾をつまんでいる。

「……に、似合う?」

アゼリアは両手を口元に当てた。

「……可愛すぎます」

店主も頷く。

「お人形さんみたい」

ロゼルも素直に感想を漏らす。

「おお、すげぇな」

リアの顔が一気に赤くなる。

耳まで真っ赤だ。

「こ、こんなの無理!」

ばっとカーテンを閉めた。

中から叫び声が聞こえる。

「絶対これで外歩けない!」

アゼリアが残念そうに肩を落とした。

「とても似合っていたのですが……」


何着も試した末、最終的に選ばれたのは、黒を基調とした軽装だった。

身体にほどよく沿う上着。

動きやすい短い上着とズボン。

腰には小さなポーチ。

猫耳を通せるように加工されたフード。

鏡の前に立つリア。

片耳の欠けた猫耳。

紫がかった髪。

鋭い紫の瞳。

その姿には、もう奴隷の面影はなかった。

どこから見ても、活発で可愛らしい冒険者の少女だった。

リアは鏡の中の自分を見つめる。

ゆっくりとその場で回ってみる。

服の裾がふわりと揺れた。

「……これ、本当に私?」

信じられないように呟く。

アゼリアは胸の前で手を組み、うっとりと見つめる。

「はい。とても素敵です」

ロゼルも満足そうに頷いた。

「うん。いいじゃん」

リアの耳がぴんと立つ。

尻尾がぶんぶんと揺れた。

「……えへへ」

照れくさそうに笑う。

その笑顔は、年相応の少女そのものだった。

店主は目を細める。

「最初に入ってきた時より、ずっといい顔をしてるわ」

リアは鏡の中の自分を見つめながら、小さく呟いた。

「……ありがとう」

誰に向けた言葉なのか、自分でも分からなかった。

ただ――

新しい服に包まれたその身体は、確かに自由だった。


服を揃えた三人は、その足で鍛冶屋へと向かった。

石畳の通りを進み、見慣れた看板の前で足を止める。

鉄槌と剣の紋章。

昨日、アゼリアの鎧を見繕ってもらった店――グラントの鍛冶屋だ。

扉の向こうからは、鉄を打つ音と炭の匂いが漂ってくる。

ロゼルが慣れた様子で扉を押し開けた。

からん、と鈴が鳴る。

店の奥から、大柄な老人が腕を組んで現れた。

逞しい腕。

灰色の髭。

鋭い目。

そして、ロゼルの姿を見るなり、にやりと口元を歪める。

「おお、また来たか、ちっこいの」

ロゼルの眉がぴくりと動く。

「ロゼルだ。こないだは世話になったな」

グラントは豪快に笑った。

「はっはっは! それで今日の御用は何じゃ?」

ちらりとアゼリアを見る。

「また嬢ちゃんの挨拶か?」

アゼリアがぺこりと頭を下げる。

「いつもお世話になっております」

ロゼルは肩をすくめた。

「今日はちゃんと客さ」

そう言って、隣に立つリアの肩をぽんと叩く。

「うちの新入りに武器を見繕ってもらいたくてな」

突然注目され、リアの耳がぴんと立つ。

慌てて前に出ると、ぎこちなく頭を下げた。

「よ、よろしく頼むわ」

グラントは顎髭を撫でながら、じろりとリアを見た。

片耳の欠けた猫耳。

小柄な体。

細い腕。

しなやかな足腰。

しばらく観察した後、ふむ、と頷く。

「それで? 嬢ちゃんの得意な獲物は何じゃ?」

リアは少し胸を張った。

「剣は扱ったことないの」

紫の瞳がきらりと光る。

「でも、故郷で狩りをしていたから、弓の腕前には自信があるわ」

グラントの眉が上がる。

「ほう、弓か……」

興味深そうに唸ると、店の奥へと消えていった。

しばらくして、長く大きな弓を抱えて戻ってくる。

「それなら、この辺りかのう」

どすん、とカウンターの上に置かれた。

しっかりした木材で作られた、かなり大きめの弓だった。

リアはそっと手に取る。

だが、持ち上げた瞬間――

「うっ……」

腕がふらつく。

耳がへにゃりと垂れた。

「お、重たいわ……」

引いてみようとするが、弦はほとんど動かない。

「……私には合わないみたい」

グラントは腕を組んで頷く。

「大弓は無理か」

あっさりと弓を回収すると、再び棚の奥へ手を伸ばした。

「なら、もう少し扱いやすい物で……これなんかどうじゃ?」

今度差し出されたのは、一回り小さな弓だった。

木目の美しい本体には、蔦のような細かな彫刻が施されている。

軽やかで、しなやかな印象を受ける。

リアは恐る恐る受け取った。

「……軽い」

驚いたように目を見開く。

構えてみる。

腕にすっと馴染む。

試しに弦を引くと――

きり、と心地よい張力が指先に伝わった。

リアの猫耳がぴんと立つ。

尻尾がふわりと大きく揺れた。

「……これ」

思わず声が漏れる。

もう一度引く。

今度は、さらに深く。

弓が身体の一部になったような感覚。

リアの表情が、ぱっと明るくなった。

「すごい……!」

グラントが満足そうに鼻を鳴らす。

「どうやら、そいつがお前さんを気に入ったようじゃな」

リアは弓を胸の前で抱えたまま、嬉しそうに耳を揺らした。

グラントは太い指で弓の中央を軽く叩く。

「その弓には風の魔石が使われとる」

リアの目が丸くなる。

「魔石……?」

「うむ」

グラントは得意げに頷いた。

「魔力を込めれば矢に風の加護が乗る。飛距離も伸びるし、狙いもぶれにくい。遠くの敵でも、なんなく射抜けるぞい」

そう言って、ちらりとロゼルを見る。

「……それなりに値は張るがのう」

リアもまた、遠慮がちにロゼルを見上げた。

耳がぴんと立っているものの、尻尾の動きは不安そうだ。

「……高いの?」

ロゼルは腕を組み、平然と尋ねる。

「いくらだい?」

グラントはにやりと笑った。

「金貨十枚、といったところかの」

「高ぇよ」

間髪入れずにロゼルが言い返す。

「金貨五枚ってところだろ」

グラントの眉が跳ね上がった。

「アホぬかせ、ちっこいの」

カウンターをばんと叩く。

「軽弓とはいえ、魔石を使った品じゃぞ? 金貨五枚で買えるわけなかろう」

「こっちだって新入りの装備やら服やらで金が飛んでんだよ」

ロゼルも一歩も引かない。

「どう見ても常連割引が必要だろ」

「一回来ただけで常連ぶるな!」

二人が睨み合う。

火花が散りそうな空気。

リアの耳がぺたりと寝た。

「や、やっぱり私にはもったいないわ……」

遠慮して弓を置こうとする。

その時だった。

「グラントさん……」

アゼリアがそっと前に出た。

胸の前で両手を重ね、わずかに身を乗り出す。

青い瞳が、まっすぐグラントを見つめた。

「もう少し、お安くなりませんか?」

柔らかく、けれど真剣な声音。

グラントの顔がぐっと引きつる。

「ぬぅ……」

逞しい腕を組み、唸る。

アゼリアはさらに小さく首を傾げた。

「リアに、とても似合っているんです」

その言葉に、リアの耳がぴくりと立つ。

グラントは目を閉じて天を仰いだ。

「……ぬぬぬ……」

数秒の沈黙。

やがて、深々とため息をつく。

「……金貨八枚。それでどうじゃ」

ロゼルが即座に口を開く。

「七枚」

「八枚じゃ」

「七枚」

「八枚」

「七枚」

「……ぬぐぐ」

グラントの額に青筋が浮かぶ。

その時、アゼリアがにこりと微笑んだ。

「グラントさん」

「……なんじゃ」

「いつも本当にありがとうございます」

その笑顔を見た瞬間。

グラントの肩ががくりと落ちた。

「……七枚じゃ」

ロゼルがにやりと笑う。

「毎度あり」

リアは目をぱちぱちと瞬かせた。

「え……えぇ?」

アゼリアは嬉しそうに手を合わせる。

「ありがとうございます!」

グラントはぶつぶつと文句を言いながら、弓を丁寧に布で包んだ。

「まったく……お前さんたち相手だと商売にならんわい」

リアは大切そうに包みを抱きしめる。

耳はぴんと立ち、尻尾は嬉しそうにぶんぶん揺れていた。

「……ありがとう、ロゼル」

ロゼルは鼻を鳴らす。

「礼ならちゃんと稼いで返せよ」

「うん!」

満面の笑みで頷くリア。

その笑顔を見て、グラントも結局は口元を緩めていた。



グラントの店を後にした三人は、そのまま冒険者ギルドへと向かった。

リアの冒険者登録をするためだ。

石造りの大きな建物の前に立つと、リアはごくりと喉を鳴らす。

見上げる先には、剣と盾を象ったギルドの紋章。

「ここが……冒険者ギルド……」

紫の瞳がきらきらと輝く。

ロゼルは慣れた様子で扉を押し開けた。

重い木の扉が開き――

途端に、熱気と喧騒が押し寄せる。

酒の匂い。

革鎧の擦れる音。

笑い声。

怒鳴り声。

依頼書を貼り替える職員たち。

ギルドの中は、多くの冒険者と職員でごった返していた。

リアの耳がぴんと立つ。

尻尾がそわそわと左右に揺れた。

「す、すごい……」

圧倒されて立ち尽くすリアの背を、ロゼルがぽんと叩く。

「ほら、ぼーっとしてると置いてくぞ」

「ま、待ってよ!」

慌てて後を追う。

三人は空いている受付へと向かった。

受付嬢はにこやかに頭を下げる。

「本日はどのようなご用件でしょうか?」

ロゼルが親指でリアを示した。

「こいつの冒険者登録を頼む」

「かしこまりました」

受付嬢は手慣れた様子で書類を用意する。

名前。

年齢。

得意武器。

簡単な確認を終えると、受付嬢が微笑んだ。

「登録料は銀貨5枚になります」

ロゼルは財布から銀貨を取り出し、無造作に差し出した。

「ほい」

リアの耳がぴくりと動く。

「……いいの?」

「仲間の初期投資だ」

ロゼルは肩をすくめた。

「後で働いて返せばいい」

リアは胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。

受付嬢は手続きを終え、小さな金属製のギルドカードを差し出す。

「登録はこれで完了しました」

リアは両手でそれを受け取った。

銀色のカード。

そこには、自分の名前が刻まれている。

リア・ティブル。

その文字を見つめたまま、しばらく動けなかった。

やがて、小さく呟く。

「……これで私も……冒険者なのね……」

尻尾がぷるぷると震えている。

ロゼルが口元を緩めた。

「尻尾震えてるぞ?」

リアははっとして顔を赤くした。

「ぶ、武者震いよ!」

ぎゅっとカードを握りしめる。

「……でも、ありがとうロゼル!」

ロゼルは鼻を鳴らした。

「まだ登録しただけだぜ?」

腕を組み、少しだけ口元を吊り上げる。

「依頼を達成してこそ、初めて冒険者だろ」

リアの耳がぴんと立つ。

「そ、そうよね!」

勢いよく受付へ向き直る。

「何か依頼はないの!?」

受付嬢は微笑みながら頷いた。

「リア様はまだFランクですので……」

書類の束をめくり、一枚の依頼書を取り出す。

「このような依頼になります」

リアが受け取って目を落とす。


――迷い猫を探してください。

報酬:銅貨数枚

ランク:F


沈黙。

リアの頬がみるみる赤くなる。

「…………」

ロゼルの肩が小刻みに震え始めた。

「く……くくく……」

ついに吹き出す。

「くくくっ! いいじゃねぇか。冒険者の始まりって感じだ」

リアの耳が逆立つ。

「バカにしてるでしょ!」

牙を見せ、猫のように威嚇する。

「シャーッ!」

アゼリアが口元に手を当て、くすくすと笑った。

ロゼルは笑いながら手をひらひら振る。

「そう怒るなって」

笑いを収めると、依頼掲示板へ視線を向けた。

「依頼なら俺が何か受けよう」

真紅の瞳が並ぶ依頼書を見渡す。

「それなら、もう少しまともな依頼もあるだろう」

リアはギルドカードを胸に抱きしめた。

新しい弓。

新しい服。

そして、新しい仲間。

胸の中で、期待が大きく膨らんでいく。

今日から本当に――

自分も、冒険者なのだ。

ロゼルは依頼掲示板の前で腕を組み、並んだ紙を上から順に眺めていた。

薬草採取。

荷物運び。

下水道の清掃。

どれもこれも、気乗りしない依頼ばかりだ。

「うーん……」

リアは隣で、迷い猫の依頼書をまだ握りしめている。

耳はぴんと立っているが、どこか納得いかない顔だ。

「猫探しだっていいじゃない……」

「お前も猫だろ」

「違うわよ!」

尻尾をぶわっと膨らませるリア。

アゼリアはその様子を微笑ましそうに見つめていた。

その時だった。

ギルドの扉が勢いよく開いた。

バンッ!

喧騒に満ちていたホールが、一瞬で静まり返る。

入ってきたのは、一人の女性だった。

黒髪を後ろでひとつに束ねている。

鋭い琥珀色の瞳。

背には、自身の身長ほどもある大剣。

鍛え抜かれた体を軽装の鎧で包み、その一歩ごとに張り詰めた気配が広がる。

ただ立っているだけで、周囲の空気が変わった。

「あれは……」

誰かが小さく呟く。

「《紅蓮の牙》のセレナだ」

Cランクパーティ《紅蓮の牙》。

この街でも名の知れた実力者たち。

そのリーダーが、険しい表情のまま受付へと歩いていく。

セレナはカウンターに手をつき、低い声で言った。

「緊急事態よ」

その言葉に、ギルドの空気がざわついた。

受付嬢の表情もすぐに引き締まる。

「何があったのですか?」

セレナの琥珀色の瞳が、ホール全体を見渡した。

「北の街道でオークの群れを確認したわ」

ざわっ、と空気が揺れる。

オーク。

人間より大きな体躯と怪力を持つ魔物。

群れを成せば、護衛の少ない商隊などひとたまりもない。

セレナは続けた。

「数は十体以上。しかも、その中に上位種が一体いる」

ギルド内の空気が一変する。

「上位種だと……?」

「まさかオークファイターか?」

冒険者たちの顔に緊張が走る。

セレナは静かに頷いた。

「このまま放置すれば、街道を使う商人や旅人に被害が出る」

受付嬢は即座に鐘を鳴らした。

カン、カン、カン!

高い音がギルド中に響き渡る。

「緊急依頼を発令します!」

一斉に視線が集まる。

ロゼルの赤い瞳が細められた。

「へぇ……」

口元がゆっくりと吊り上がる。

退屈な依頼ばかりだった朝が、ようやく面白くなってきた。

隣では、リアの耳がぴんと立っていた。

「オーク……!」

弓を抱きしめる手に力が入る。

アゼリアも静かに青い瞳を細めた。

セレナの視線が、掲示板の前に立つ三人へと向けられる。

小さな金髪の少年。

銀髪で背の高い、物腰の柔らかそうな女性。

そして、片耳の欠けた猫人の少女。

奇妙な組み合わせだった。

しかも、その中心にいるのは十歳ほどにしか見えない小さな少女。

セレナはわずかに眉をひそめた。

緊急依頼に参加するには、あまりにも場違いに見える。

だが――

当のロゼルは、口元に不敵な笑みを浮かべていた。

まるで、ようやく面白い仕事が来たとでも言うように。

セレナは一瞬だけその笑みを見つめ、

何も言わずに視線を外した。

ロゼルはにやりと笑った。

「どうする?」

リアの尻尾がぶんっと揺れる。

「もちろん行く!オーク見てみたい!」

アゼリアも穏やかに頷いた。

「わたくしも、ご一緒いたします」

ロゼルは満足そうに鼻を鳴らした。

「決まりだな」

こうして、リアが冒険者になって最初の依頼は――

迷い猫探しではなく、

オーク討伐になった。



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