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聖血のロゼル  作者: ハナハル


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4/13

奈落の聖血。変異。

ロゼインの体が崩れ落ちた。

骨の山の上に、重い音を立てて倒れる。

カンテラが転がり、弱い光が円を描いた。

炎が揺れる。

影が揺れる。

静まり返った迷宮の中で、その小さな光だけが生きていた。

スケルトンは、しばらく動かなかった。

骨の眼窩で、倒れた冒険者を見つめている。

呼吸は浅い。

顔色は土のように青い。

唇はひび割れ、血も乾いている。

右腕は不自然に曲がっていた。

折れている。

脚も。

腹も。

血の匂いが強い。

このままでは――

長くは持たない。

「……まぁ」

スケルトンは、小さく息を吐いた。

困ったように首を傾げる。

「こんなに酷いお怪我で……」

骨の指がそっとロゼインの肩に触れる。

冷たい。

だがその手つきは、驚くほど丁寧だった。

まるで。

本当に人を気遣うように。

「……このままでは」

静かな声。

祈るような声。

「死んでしまいます」

スケルトンは、胸元に手を入れた。

古びた修道服の奥。

小さな瓶を取り出す。

ガラスの小瓶。

その中に――

一滴だけ。

金色の雫が揺れていた。

カンテラの火が反射し、

小さな光が骨の指に踊る。

スケルトンは、それをじっと見つめた。

長い時間。

迷っているようだった。

「……これは」

小さな声。

「回復の奇跡と聞いております」

誰に聞いたのか。

いつの話なのか。

わからない。

だが、彼女はそれを信じていた。

骨の手が、そっとロゼインの頭を持ち上げる。

ぐったりしている。

意識はない。

「ですが……」

少し寂しそうな声。

「もう、これしかございません」

金色の雫。

それは――

聖血。

だが。

スケルトンは知らない。

それがどれほど貴重なものか。

「……どうか」

祈るように呟く。

「助かってくださいませ」

小瓶を傾けた。

金色の雫が

静かに落ちる。

ロゼインの唇に触れ――

喉へと流れた。

その瞬間だった。

ロゼインの体が跳ねた。

ドンッ

骨の山が揺れる。

カンテラの火が激しく揺れた。

「……!」

スケルトンが驚いたように顔を上げる。

ロゼインの背中が反り返る。

指が石を掴む。

ギリッ

爪が割れる音。

喉の奥から

掠れた声が漏れた。

「……あ……」

次の瞬間。

絶叫。

「――――ッ!!」

迷宮に響いた。

体の奥で

何かが暴れている。

血が沸騰する。

骨が軋む。

筋肉が裂ける。

内臓が掻き回される。

ロゼインの体が床を転がった。

痙攣。

呼吸ができない。

喉から血が溢れる。

「まぁ……!」

スケルトンが慌てて膝をつく。

「どうなさったのですか!?」

もちろん。

答えられるはずがない。

ロゼインは床を掻きむしりながら叫ぶ。

「が……あああッ!!」

骨が鳴る。

ゴキ

ゴキゴキ

体の中で

骨が組み替わっている。

スケルトンの手が震える。

「おかしいです……」

困惑した声。

「回復の奇跡のはずなのですが……」

ロゼインの背中が弓なりに反った。

バキッ

音がした。

肩。

腕。

脚。

体が縮む。

骨格が変わる。

顔が歪む。

しばらくして。

ロゼインの体を襲っていた激しい痙攣が、

少しずつ弱まり――

やがて、止まった。

石の床に横たわった体は、もう動かない。

荒れていた呼吸も、ゆっくりと静まっていく。

迷宮は、再び静まり返った。

まるで先ほどまでの苦しみが

嘘だったかのように。

ポタ……

遠くで水滴が落ちる。

石の奥から響く、小さな音。

ポタ……

ポタ……

奈落の奥のどこかで、

岩壁から水が滴っているのだろう。

カンテラの火が、弱く揺れていた。

油はもうほとんど残っていない。

小さな炎は頼りなく震えながら、

奈落の暗闇をわずかに押し返している。

その淡い光が、

石の床と――

骨の山を照らしていた。

そして。

その骨の山の前で、

古びた修道服を纏ったスケルトンが、

静かに立っている。

骨の手を胸の前で重ね、

倒れた少年を見つめていた。

その足元。

石の床の上に、

小さな体が横たわっている。

先ほどまでそこにいたはずの

冒険者――ロゼインの姿とは、

明らかに違っていた。

体が小さい。

肩幅が細い。

腕も、脚も、驚くほど華奢だ。

身長は、おそらく百三十センチほど。

十歳か、十二歳ほどの少年の体。

だが――

その姿は、妙に整いすぎていた。

石の上に広がる髪。

それは金色だった。

淡く、柔らかな色。

奈落の弱い光を受けると、

まるで細い糸のように静かに輝く。

長い髪は背中を越え、

石の床へ流れるように広がっている。

顔立ちも変わっていた。

頬の線は細く、

顎は小さく、

肌は驚くほど白い。

迷宮の冷たい空気の中でさえ、

その肌は陶器のように滑らかだった。

まつ毛は長く、

閉じられた瞼の下には

整った目の形がうっすらとわかる。

鼻筋は細く通り、

唇も小さい。

その顔は――

まるで絵画のように整っていた。

一瞬見れば、

誰もが思うだろう。

美しい少女だと。

だが違う。

胸は平らだ。

骨格も、よく見れば男のもの。

つまりそれは、

少女ではない。

少女のように美しい少年だった。

迷宮の骨の山の中に、

その姿だけが不自然なほど美しい。

まるで、

暗闇の中に落ちた

一輪の光のようだった。

スケルトンは、しばらくそれを見ていた。

それから、

小さく首を傾げる。

骨がコトリと鳴った。

「……まぁ」

静かな声。

上品な女性の声。

「これは……」

少し考えるように言葉を止め、

そして丁寧に言った。

「どういうことでしょう?」


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